この記事では「木鐸」について解説する。
端的に言えば木鐸の意味は「教え導く者」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
日本語検定一級を持ち、文学部に所属する現役大学生ライターである文学少女を呼んです。一緒に「木鐸」の意味や例文、類語などを見ていきます。
ライター/文学少女
文学部で学んでいる読書好きの現役大学生。大学のみならず、日々の読書や日本語検定・漢字検定などで学んだ知識を活かして、種々の言葉を丁寧に解説する。
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どちらかといえば堅めの文章で使われることが多い語です。正確な意味まで把握せずとも、国語の時間や新聞の論説などで見かけたことがある方も多いのではないでしょうか。それでは早速「木鐸」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。
「木鐸」は「ぼくたく」と読み、具体的な物体を指す時と象徴的に使われる時があります。意味は次のとおりです。
1 古代中国で、法令などを広く人民に示すときに振り鳴らした、木の舌のついている大きな鈴。
2 世の人を教え導く人。社会の指導者。
出典:デジタル大辞泉(小学館)「木鐸」
一般的にこの語が使われる場合、多くは引用した辞書の2に当たる抽象的な意味です。「人民を教え導くもの」という意味からは指導者をイメージするかもしれませんが、現代社会においては新聞又は新聞記者を指す表現として機能していました。世論を喚起して正しい方向へと導くジャーナリズムの重要性を表した用例です。しかし、マスコミの権威が失われつつあることやそもそも古風な表現であることを背景に、今日では使用される機会は減少傾向にあります。
ちなみに引用の1のように実際の法令などを知らせるベルとして使われた場合、文事の周知には木鐸、武事の周知には金鐸のように使い分けられていました。
次に「木鐸」の語源を確認しておきましょう。
実際のベルとしての木鐸は、鈴の舌(内側にぶら下がっている音の出る部分)が木製であることからそのまま名付けられました。上で触れた金鐸は舌の部分も金属製のものです。
抽象的な意味の方は、「論語」内の八佾篇に記されている故事成語が基になっています。諸国を放浪していた孔子が、儀という地を訪れた時のことです。国境の役人は孔子のことを「天は将に夫子を以て木鐸とさんとす(天はあなたを乱れた世に正しい道を伝える「木鐸」とされたので、諸国を放浪しているのです)」と慰めました。ここから、民衆を教え導くものとしての意味が生まれたのです。
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「木鐸」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。
1.社会の木鐸としての記者という仕事に誇りを持っている。
2.その先生は木鐸として責務を果たした。
3.木鐸の音には、金鐸とはまた違った味わいがある。
例文1−2は「教え導くもの」としての用例を、例文3は実際のベルとしての用例を示しています。特に例文1は、上でも少し触れたように新聞(記者)を表すものです。基本的に新聞(記者)を表す場合には、「社会の木鐸」という成句で使われます。
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次に、「木鐸」の類義語を見ていきましょう。なお、「一世木鐸」という四字熟語については同義語であるためここでは省略します。「一世(いっせい)」とはこの世の人々を指す語です。
英単語「opinion leader」をそのままカタカナに音訳した語です。日本語訳としては「世論形形成者」あたりが適当でしょうか。集団での意思決定プロセスの中で中心的な役割を果たす人を指します。世論を動かす人物の中でも、「木鐸」の意味の欄で挙げたジャーナリストよりは著名な評論家や専門家に使われることが多いです。また、こうしたオピニオンリーダーに影響を受ける人々は「フォロワー」と称されます。更に、狭義には社会学用語としての意味もあるので抑えておいてください。その場合には、社会的地位がフォロワーと同質でありながらもそれらの集団内の意思決定や判断に影響力を持つ人を表す概念です。
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「木鐸」の対義語についても紹介します。
英単語の「follower」をカタカナにした語です。SNSなどで馴染みがある人も多いのではないでしょうか。意味は上の類義語の欄でも述べたように、リーダー的な人物から影響を受ける人を表します。日本語訳は「追従者」などです。
世の中を正しい方向に導くものという側面への対義語として、たとえば「賊徒」などがあげられます。この語は盗賊や時の政府への反逆者を表す語です。この語に限らずとも、国家を乱すような行いをする人々は広く「木鐸」の対義語と言って良いでしょう。「悪人」「凶賊」「悪玉」「悪人」などいくらでも類例は挙げることができると思います。やや文学的ではありますが、(いわゆる妖怪というよりも、良くないことの象徴的存在としての)「鬼」もその範疇に入るかもしれません。
具体的な物体としての木鐸を表す場合には直接対応する一語はなく、例えばこのような表現になります。直訳すると「木製(wooden)の打器(striker)付きの金属製(metal)の鈴(bell)」です。「wooden」と「metal」は形容詞、「bell」は普通名詞、「striker」は動詞「strike(打つ、叩くなど)」が名詞化したものと分解することができます。
教え導くものとしての象徴的意味については、このような英訳になります。詳しくは類義語の欄を参照して下さい。
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この記事では「木鐸」の意味・使い方・類語などを説明しました。日常生活で耳にすることは多くないですが、冒頭にも述べたように、堅めの文章では好んで使われる表現です。特に、マスメディアについて論じる際には欠かせません。もしそうした文章でこの語を見かけたら、今回紹介した意味だけなく、その語源や由来となった故事成語についても思い返してみて下さい。より語のニュアンスを味わうことができ、文章の解像度も格段に高まるはずです。