

端的に言えば弄るの意味は「動かす」だが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
国立大で国語学を学んだライターのタケルを呼んだ。言葉の解説を得意としていて、大学時代はクイズサークルに所属していたので雑学にも詳しい。一緒に「弄る」の意味や例文、類語などを見ていくぞ。

解説/桜木建二
「ドラゴン桜」主人公の桜木建二。物語内では落ちこぼれ高校・龍山高校を進学校に立て直した手腕を持つ。学生から社会人まで幅広く、学びのナビゲート役を務める。

ライター/タケル
某国立大で日本語学を専攻。ある日、事あるごとにスマホを弄っている自分に気付いた。スマホなんて必要最低限でしか使わないと思っていたが、やはり便利なものは便利だ。
「弄る」の意味は?
「弄る」には、次のような意味があります。
1.指先や手で触ったりなでたりする。「ネクタイを―・る」
2.物事を少し変えたり、動かしたりする。「編成を―・る」
3.趣味として楽しむために、あれこれと手を加えたり、操作したりする。仕事などを趣味のように扱っていう場合もある。「盆栽を―・る」「会社では、毎日パソコンを―・っています」
4. おもしろ半分に、いじめたり、からかったりする。「先輩が新入社員を―・って楽しむ」「何にても芸をせよ、と―・る」〈浮・一代男・四[補説] 自分のことをいう場合には、軽い自嘲や謙遜の気持ちを、相手のことでは、小ばかにした気持ちを含むことがある。
出典:デジタル大辞泉(小学館)「弄(いじ)・る」
「弄る」(いじる)の元の意味は辞書1の「触る」です。そこから派生したのものが辞書の2以下の意味となります。
「触ったものを動かす」という意味が2です。そこから実体のある物だけでなく、予定や人事などの実体がないものも「弄る」と言うようになりました。さらに、「触って動かして体験する」ことが辞書の3、実際には触らずとも「人にふれてからかう」ことが4の意味となります。
ここまでは「いじる」について説明しましたが、「弄る」の読み方は「いじる」だけではありません。辞書にはもう1つ「弄る」が掲載されていますので、そちらも見ていきましょう。
手先であちこち探す。指先でいじる。もてあそぶ。「バッグの中を―・る」「数珠(じゅず)を―・る」
出典:デジタル大辞泉(小学館)「弄(まさぐ)・る」
「弄る」は「まさぐる」とも読みます。紛らわしいですよね。「まさぐる」の意味は、辞書にある「いじる」の意味1と2に近いと言えます。ただし、双方にはわずかに違いがあり、「軽く触る」程度が「いじる」です。「まさぐる」は「あちこち触る」ですので、文意によって判断しなければなりません。
ここまでに、「弄る」が「いじる」と「まさぐる」という2通りの読み方があると説明しました。しかし、現代ではどちらも漢字を用いずに、平仮名で表記されることが多くなっています。というのも、「弄」という漢字は中学生で学習しますが、習う読みは音読みの「ロウ」と訓読みの「もてあそ(ぶ)」のみです。「いじ(る)」や「まさぐ(る)」などは常用外のため、学校では教えてくれません。
しかも、国語辞典に掲載されないこともありますが、「弄る」と書いて「いじ(る)」や「まさぐ(る)」の他にも「いじく(る)」「あなど(る)」という読みもあります。よって、現状では紛らわしさを避けるためにも「弄る」という表記を使わないようになりました。
「弄る」の語源は?
次に「弄る」の語源を確認しておきましょう。
一説には、「いんじ」と「いる」が合わさったものとされます。「いんじ」は子供が石を投げ合う「印地」という遊び、「いる」は「射る」です。石を投げるような素振りを見せて他者をからかうことが「いじる」の語源とされます。
ついでではありますが、「弄」という漢字の由来も興味深いので紹介しましょう。上の部分は、3つの玉石を紐で通したものです。「王」ではありません。3本の横線が玉石で、それを縦線の紐が貫いている形です。そして、「弄」の下の部分は両手を表しています。「十」と「十」で2つの手です。つまり、「弄」という漢字は紐に通してある玉石を手で「弄って」遊ぶ姿からできました。
「弄る」の使い方・例文
「弄る」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。
1.彼は緊張すると眼鏡を弄る癖がある。
2.せっかくチームの調子が上がってきたのに、あの監督はすぐスタメンを弄りたがるから期待できない。
3.父は定年を迎えてからは趣味にのめり込むようになり、最近ではもっぱら機械弄りで1日を費やし、今日の朝などはドローンを弄って飛ばしていたようだ。
例文1の「弄る」が「触る」という意味の「弄る」です。例文2の「物事を動かす」という意味の「弄る」とともに、ある程度は見かけることがあるでしょう。
それらよりも、「あれこれと手を加える、操作する」という、例文3と同じ意味の「弄る」がよく使われる傾向にあります。「庭弄り」「機械弄り」といった具合です。名詞の後に「弄り(いじり)」が付いて、それを趣味にしているという意味にもなります。

バラエティ番組を見ると、お笑い芸人が他の芸人を「弄る」(イジる)ところをよく見かけるだろう。『笑点』で回答者がお互いを笑いの種にしているのが好例だ。
しかし、芸人が「イジる」のは他の芸人だけではない。むしろ寄席などで客を「イジった」ことの方が先だ。芸人は客を笑わせるのが仕事だから、程良い距離感で客とコミュニケーションを図らなければならない。特に会場が小さいときは必要だな。その一環で客を「イジる」ことにより、その客だけでなく他の客にも喜んでもらおうとすることが「客イジり」だ。人によっては邪道としているようだが、それも立派な技術ではないだろうか。
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