今回は「ひねもす」という言葉について見ていきます。ひょっとしたら古文の授業で聞き覚えのある人もいるかもしれませんね。

実はこの「ひねもす」、現代語でも古語と同じ意味で使用されている時間に関連した言葉です。ただ、具体的にどのあたりの時間を指すのかを尋ねられると分からない人もいるんじゃねぇか。

今回はその「ひねもす」を、類義語や対義語と比較しながら、大学院卒の日本語教師・むかいひろきに解説してもらうぞ。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学で2年間働き、日本で大学院修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「ひねもす」の意味や語源は?

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「ひねもす」は日常生活ではあまり聞かず、古文で学習したことならある…という人が多いかもしれません。ですが、実は現代語でも使用可能です。まずはそのような「ひねもす」の意味や語源を、国語辞典を参考にしつつ見ていきましょう。

「ひねもす」の意味は一日中…だが注意が必要

「ひねもす」は、国語辞典では次のような意味が収録されています。

[副]朝から晩まで続くさま。一日中。しゅうじつ。「―読書にふける」

出典:デジタル大辞泉(小学館)「ひねもす【終=日】」

ひねもす」は「一日中」という意味の言葉です。漢字で書くと「終日」になります。ですが、”一日中”とははたしてどのくらいの時間を示すのかを疑問に感じる方もいるのではないでしょうか。24時間?それとも日中の時間?…と色々な候補があがると思います。

この「ひねもす」が示すのは”朝から晩まで”です。ただ、24時間ではなく、人が活動せず寝ている夜中の時間帯は除外されます。

「ひねもす」はとても古い言葉

「ひねもす」はとても古くから使用されている言葉で、8世紀後半の『万葉集』にて既に使用が確認されています。「ひねもすがら」という「一日中」という意味の古語の形が徐々に変化して誕生したのではないかと考えられていますね。

当初は「ひねもす」という形でしたが、平安時代後期~江戸時代にかけては「ひめもそ」「ひめむす」「ひねむす」などの表記もありました。ただ、江戸時代に再び「ひねもす」という形にまとまり、現代に至ります。

\次のページで「「ひねもす」が示す時間は?類義語や対義語との比較」を解説!/

「ひねもす」が示す時間は?類義語や対義語との比較

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次に、「ひねもす」が示す時間を、類義語や対義語と比較してみましょう。比較をすることで、より「ひねもす」の表す時間帯がハッキリします。

「ひねもす」と「終日」は違う?

「ひねもす」と似た意味を持つ言葉に「終日(しゅうじつ)」があります。(※「ひねもす」も漢字表記は「終日」ですが、「終日(しゅうじつ)」とは別の言葉だとお考え下さい。)

この「終日(しゅうじつ)」には3つの意味があります。まず1つは、「ひねもす」と同じ「朝から晩まで」という意味です。そして2つ目は、「丸一日(24時間)」という意味ですね。最後の3つ目は「活動・営業時間内」という意味です。例文で確認していきましょう。

1.昨日はひねもす部屋でマンガを読んでいた。
2.昨日は終日(しゅうじつ)部屋でマンガを読んでいた。

3.このお店はひねもす営業している。→朝から晩まで営業している。24時間とは限らない
4.このお店は終日(しゅうじつ)営業している。→24時間営業している場合を指すことが多い

5.当店は会社員の方は終日(しゅうじつ)半額でご利用いただけます。

例文の1番と2番は、「ひねもす」と「終日」が同じ意味を指す場合です。1番と2番はどちらも”朝から晩まで部屋でマンガを読んでいた”という意味になります。24時間ではありません。

例文の3番と4番は、「ひねもす」と「終日」が異なる意味を示す場合です。3番は"朝から晩まで営業している"という意味を表すのに対し、4番は”24時間営業している”という意味を指す場合が多いですね。(3番と同じ意味の場合もあります。)

例文5番は、”営業時間の最初から最後まで”という意味で「終日(しゅうじつ)」が使用されていますね。この意味では「ひねもす」は基本的に使用しません。

「ひねもす」+「夜もすがら」=24時間?

次に「ひねもす」の対義語としてもよく紹介される「夜もすがら」を見ていきましょう。この「夜もすがら」は「一晩中」という意味の言葉で、”夜の間、日が昇るまでずっと”というニュアンスで使用されますね。

「ひねもす」は多くの場合で、人が活動する時間帯の「朝から晩まで」を指します。一方の「夜もすがら」は「一晩中」という意味で、”夜の間、日が昇るまでずっと”というニュアンスであるため、「ひねもす」と「夜もすがら」を足すと24時間になる、ということができるでしょう。

\次のページで「「ひねもす」のその他の類義語は?違いは?」を解説!/

「ひねもす」のその他の類義語は?違いは?

次に、「ひねもす」のその他の類義語を見ていきましょう。「ひねもす」のその他の類義語には、「日一日」「日すがら」「四六時中」があります。どれも聞いたことはあっても正確な意味までは…という言葉かもしれませんね。

「日一日」朝から夕暮れまでの間

日一日」は読み方によって意味が異なります。まず「ひひとひ」と読む場合は、「朝から夕暮れまでの間」という意味になり、「ひねもす」と意味やニュアンスの違いはほぼありません。ただ、こちらも古語が現代まで生きている言葉ですが、「ひねもす」以上に現代では使用されていません。

ひいちにち」と読む場合は、「ひねもす」と同じ意味を示す場合と、「一日一日と日がたつごとに物事が変化していくこと。日に日に。」という意味を表す場合があります。現代では後者の「一日一日と日がたつごとに物事が変化していくこと。日に日に。」という意味を表す場合がほとんどで、「ひねもす」と同じ意味ではほぼ使用されていません。

「日すがら」朝から晩まで

日すがら」は「朝から晩まで」という意味の言葉です。「ひねもす」と意味やニュアンスの違いはありません。字を見ても分かる通り、先ほど紹介した「夜もすがら」に対応する言葉です。”「日すがら」+「夜もすがら」=24時間”だと考えることができるでしょう。また、「日もすがら」という語もありますが、こちらも「ひねもす」「ひすがら」と同じ意味です。

「四六時中」4×6=24時間?

四六時中」は「しろくじちゅう」と読む、「一日中」「日夜」という意味の言葉です。この「四六時中」は、「ひねもす」とは異なり”24時間”というニュアンスが入ってきます。もともと、明治時代に西洋の暦や時間の概念が入ってくるまでは「二六時中」という言葉でした。これは、かつては1日が12刻だったことに由来しています。明治になり、1日が24時間に代わったことで「四六時中」に変化したのですね。

「ひねもす」の他の対義語は?

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「ひねもす」の対義語として「夜もすがら」を先ほど紹介しました。それ以外にはどのような言葉が対義語とされるでしょうか。

「ひねもす」は”朝から晩まで”というニュアンスで「一日中」という非常に長い時間を表します。そこで、反対に非常に短い時間を表す表現が対義語に当たると言えるでしょう。「一時的なこと」という意味の「かりそめ」や、「ほんの少しの間」という意味の「須臾(しゅゆ)」が対義語に該当します。

\次のページで「「ひねもす」は24時間ではない」を解説!/

「ひねもす」は24時間ではない

今回は「ひねもす」を紹介しました。「ひねもす」は”朝から晩まで”というニュアンスで「一日中」という意味を表します。「24時間」という意味ではないので注意が必要ですね。「また、類義語には「終日(しゅうじつ)」がありますが、「ひねもす」も漢字で表記する場合は「終日」です。「終日」は「しゅうじつ」と読むか「ひねもす」と読むかによって、若干意味が変わってくる場合があるので気をつけましょう。

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国語言葉の意味

「ひねもす」って何?時間と関連した言葉?意味・語源や類義語を院卒日本語教師がわかりやすく解説

今回は「ひねもす」という言葉について見ていきます。ひょっとしたら古文の授業で聞き覚えのある人もいるかもしれませんね。

実はこの「ひねもす」、現代語でも古語と同じ意味で使用されている時間に関連した言葉です。ただ、具体的にどのあたりの時間を指すのかを尋ねられると分からない人もいるんじゃねぇか。

今回はその「ひねもす」を、類義語や対義語と比較しながら、大学院卒の日本語教師・むかいひろきに解説してもらうぞ。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学で2年間働き、日本で大学院修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「ひねもす」の意味や語源は?

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「ひねもす」は日常生活ではあまり聞かず、古文で学習したことならある…という人が多いかもしれません。ですが、実は現代語でも使用可能です。まずはそのような「ひねもす」の意味や語源を、国語辞典を参考にしつつ見ていきましょう。

「ひねもす」の意味は一日中…だが注意が必要

「ひねもす」は、国語辞典では次のような意味が収録されています。

[副]朝から晩まで続くさま。一日中。しゅうじつ。「―読書にふける」

出典:デジタル大辞泉(小学館)「ひねもす【終=日】」

ひねもす」は「一日中」という意味の言葉です。漢字で書くと「終日」になります。ですが、”一日中”とははたしてどのくらいの時間を示すのかを疑問に感じる方もいるのではないでしょうか。24時間?それとも日中の時間?…と色々な候補があがると思います。

この「ひねもす」が示すのは”朝から晩まで”です。ただ、24時間ではなく、人が活動せず寝ている夜中の時間帯は除外されます。

「ひねもす」はとても古い言葉

「ひねもす」はとても古くから使用されている言葉で、8世紀後半の『万葉集』にて既に使用が確認されています。「ひねもすがら」という「一日中」という意味の古語の形が徐々に変化して誕生したのではないかと考えられていますね。

当初は「ひねもす」という形でしたが、平安時代後期~江戸時代にかけては「ひめもそ」「ひめむす」「ひねむす」などの表記もありました。ただ、江戸時代に再び「ひねもす」という形にまとまり、現代に至ります。

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