生物に詳しい現役理系大学院生ライターCaoriと一緒に解説していきます。
ライター/Caori
国立大学の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。
1.染色体と性染色体
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今回のテーマである「性染色体」を解説する前に、まずは最も基本となる「染色体」について解説しておきますね。染色体はDNAが太く折り畳まれたもので、遺伝情報の発現・伝達という重要な役割を持っている生体物質です。ヒトの場合は、父親・母親からそれぞれ受け継いだ46本の染色体が23対のペアになって細胞の核の中に収納されています。
ヒトの染色体の46本のうち44本は「常染色体」といい、互いに同形同大の染色体同士がペアになっている「相同染色体」です。常染色体は44本、22対で染色体のサイズが大きい順に1~22の番号がついています。そして残りの2本、1対が「性染色体」です。性染色体には番号ではなく、XまたはYというアルファベットがついています。この性染色体のXとYの組み合わせで性別が決定する仕組みです。ヒトの場合、性染色体がXXのペアになると女性に。性染色体がXYのペアになると男性になります。
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性染色体と性別決定
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ヒトの体を作っている体細胞は染色体が46本23対で存在する2倍体ですが、卵子と精子などの生殖にかかわる細胞(配偶子)は減数分裂により染色体の数を半分に減らしています。配偶子に含まれる染色体は体細胞の染色体の半分、23本です(1倍体)。染色体を23本もった配偶子が2つ集まる(受精)することで、受精卵は体細胞と同じ量の染色体を得ることになります。
女性の性染色体はXXのため、卵子の染色体はすべてXです。男性の性染色体はXYのため、精子は「Xの染色体をもつ精子」と「Yの染色体をもつ精子」の2種類が存在します。「X染色体をもつ精子」と受精すると性染色体がXXのペアになるので女性に。「Y染色体をもつ精子」と受精し、性染色体がXYのペアになると男性になります。男女の性別は受精の段階ですでに決まっているのです。
2.Y染色体をもつと男性になる理由
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Y染色体は常染色体やX染色体と比べると比較的遺伝子が乏しく、約20のタンパク質をコードする78の遺伝子しかありません。ではなぜそんな遺伝情報の少ないY染色体をもつだけで男性になるのでしょうか。その理由は、Y染色体の上にSRY(Sex-determining region Y)遺伝子、日本語ではY染色体性決定領域遺伝子が存在するためです。
胎児の生殖系は妊娠6週目までは両性に分化可能な性腺として発生し、7週目以降にSRYの発現が性決定のスイッチとなり、SRY遺伝子が発現すると精巣へと分化、SRY遺伝子が発現しなければ卵巣へ分化する、という形で発生します。SRY遺伝子により性腺が精巣へと分化すると、精巣のライディッヒ細胞がステロイドホルモンのアンドロゲン(別名、男性ホルモン)を分泌し、男性器の形成と発達を促しオスへと性分化するのです。
3.性染色体と伴性遺伝
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伴性遺伝とは性染色体に依存する遺伝形式です。伴性遺伝の中で、片側の性のみに遺伝する場合、例えば前述したSRY遺伝子などY染色体に特有の遺伝子によっておこる遺伝を「限性遺伝」と呼びます。
伴性遺伝の例としては、ショウジョウバエの白眼や三毛猫(白・茶色・黒の3色の猫)が有名です。三毛猫を例に解説すると、三毛猫は原則としてメスしか生まれず、オスは滅多に出現しません(オスの三毛猫の確率は三万分の一)。これは、猫の茶色(オレンジ)に関するO遺伝子がX染色体に依存する伴性遺伝のためです。三毛猫の茶色い毛色はO遺伝子が対立するo遺伝子とのヘテロ接合になった場合のみ発現するのため、性染色体がXXの雌だけが三毛猫の毛色になることができます。
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