端的に言えば沽券の意味は「体面」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
今回は難関私大の文学部を卒業し、表現技法にも造詣が深い十木陽来を呼んです。一緒に「沽券」の意味や例文、類語などを見ていきます。
ライター/十木陽来
難関私大の文学部卒ライター。現代文芸の表現技法を学びながら趣味で小説を書いたりもしてきた。今回は表情を表す言葉の一つである「沽券」の意味をわかりやすく丁寧に解説していく。
「沽券」の意味や語源・使い方まとめ
「沽券にかかわる」という慣用句は、皆さんもよくご存じだと思います。ですがそもそも「沽券」とは一体何なのでしょうか? それでは早速、「沽券」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。
「沽券」の意味は?
「沽券」には、次のような意味があります。
1.土地・山林・家屋などの売り渡しの証文。沽却状。沽券状。
2.人の値うち。体面。品位。
3.売値。
出典:デジタル大辞泉(小学館)「沽券」
「沽券にかかわる」という言葉では2の意味で用いられ、「体面・品位に差し支える」という意味となります。自身の誇りにかけて何事かをやらねばならない時、あるいはやりたくない時の両方に用いることが可能です。強い意志を表す言葉でもあり、要望が果たされなかった場合は精神的に深く傷つくことを示唆しています。肉体的、物質的な損害に対してはあまり使われません。
意味1及び3に関しては、次の語源の項目で詳しく解説していきます。
「沽券」の語源は?
「沽券」の語源は辞書の意味1に書かれている通り「土地家屋の売り渡し証文」のことです。「沽」という漢字には「売る」と「買う」の両方の意味があり、一文字で「売買」を表します。売買の券ということで売り渡し証文のことを「沽券」と呼ぶようになりました(他にも「売券(ばいけん・うりけん)」「沽却状(こきゃくじょう)」「沽券状(こけんじょう)」などという呼び方もあります)。
江戸時代になると「沽券」は町屋敷の売買証文を指すようになります。当時、町屋敷を所有して税金を払うことは町の構成員として認められることと同義でした。つまり「沽券」は町人としての身分を象徴するものであり、いわば身分証明書のようなものだったのです。このことから転じて、人の体面や品位に影響することを「沽券にかかわる」という慣用句が誕生します。
また同じく江戸時代には意味1から更に派生して「売値」という意味も持つようになりました。このことから「沽券」が「人としての価値」を表すようになり、「沽券にかかわる」という慣用句が生まれたとも言われています。
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