この記事では「無常」について解説する。

端的に言えば無常は「永遠に不変なものはない」という意味ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

情報誌系のライターを10年経験した柊 雅子を呼んです。一緒に「無常」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/柊 雅子

イベントの司会や雑誌の記事作成を仕事としてきたライター、柊 雅子。雪の中に落ちる寒椿、春風に舞い落ちる桜の花びら…巡る季節の中で散りゆく花に無常を感じるという彼女が「無常」について解説する。

「無常」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「無常」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「無常」の意味は?

「無常」には、次のような意味があります。

1.仏語。この世の中の一切のものは常に生滅流転(しょうめつるてん)して、永遠不変のものはないということ。特に、人生のはかないこと。また、そのさま

2.人の死。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「無常」

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり

沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす

これは平家物語の冒頭の一節。平家物語は古文の教科書等で目にしたことがありますよね。

口語訳にすると「祇園精舎の鐘の音には諸行無常の響きがある。沙羅双樹の花の色は勢いの盛んな者も必ず衰えるという道理を表している」となります。ここに「無常」が表現されているのです。「諸行無常」とは「全てのことは移り変わっていくものであり、永遠に変わらないものは存在しない」という意味。「生滅流転」は「すべてのものは『生(生まれる)』と『滅(滅びる)』を繰り返し巡り続け、移り変わっていく」と言う意味で諸行無常」と「生滅流転」は「この世には変わらないものは無く、すべてのものは移り変わる」というものの道理を表しています。

猛きものも遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じとは、「勢いがあるものも結局のところ滅んでしまうものだ。全く風に吹かれれば飛んでいく塵と同じである」という意味。平家物語の冒頭はこのように締めくくられているのですが、人間もこの道理から外れることはできません。この世に生まれた限り死というものから逃れることはできないのです。

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「無常」の語源は?

次に「無常」の語源を確認しておきましょう。

「無常」は仏教用語です。仏教と他の宗教の違いをはっきりせるものに「諸行無常印」「諸法無我印」「涅槃寂静印」という三つの基本理念があり、これらを「三法印」といいます。これら三法印の根底にあり、仏教の核となっている教えの一つがこの「無常」なのですね。

「無常」の使い方・例文

「無常」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

例文1.時代の波を捕まえ、富や名声を手に入れたとしても、それは一時的なものにすぎない。この世は無常だ。

例文2.仏教において「無我」と「無常」は同じような意味をもつ。

例文3.夏の終わり、大きなセミの死骸を小さなアリたちが運んで行くのを見た時、「無常」という言葉が浮かんだ

例文1は「時代の寵児ともてはやされ、富や名声を手に入れてもそれは一時のことで永遠に続くわけではない」ということを「無常」を用いて表していますね。

例文2の仏教における「無我」は私たちが理解している「無我」とは異なります。私たちにとって「無我」は「私心がないこと、無心であること」という意味。しかし仏教用語としての「無我」は「あらゆるものの内側にあって、永遠にありつづけるものは存在しない」という意味。仏教において「無我」と「無常」は同じような意味合いをもつといえます。

例文3は夏の間、我が物顔で鳴いていたセミがその死骸を小さなアリたちに運ばれ、巣に持ち帰られる様子をみて無常を感じたという文章です。巣に持ち帰られたセミの死骸はやがてアリたちの食料となるところが「生きることのはかなさ」を表していますね。

「無常」の類義語は?違いは?

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仏教用語の「無常」にはどんな類義語があるのでしょうか。

\次のページで「「流転」」を解説!/

「流転」

流転とは「移り変わっていくこと」

「無常」と「流転」、この二つの言葉は同じような意味合いに思えますが、仏教用語としては意味が異なります。仏教用語において無常とは「この世の中には永遠に不変なものはない」という道理のこと。そして仏教用語としての「流転」は「一つの場所に留まらず生死をくりかえして迷い、さまよい続けること」という意味を持ちます。同じように「移り変わる」という意味をもつ「無常」と「流転」ですが、この二つの言葉にはこのような違いがあるのですね。

「無常」の対義語は?

続いて「無常」の対義語をみていきましょう。

「常住」

「常住」には「いつも」「普段」という意味や「常に住んでいるところ」という意味がありますが、仏教用語としては「永遠に不変なこと」という意味をもちます。

「無常」の英訳は?

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仏教用語として「永遠に不変なものはない」という意味をもつ「無常」を英語で表現するとどうなるのでしょうか。

英文1. Nothing is forever immutable in this world .

この世は無常だ。

英文2. When I see the fallen leaves, I feel the transience of human life.

落ち葉を見る時、私は人生の無常を感じる。

英語には「無常」をそのまま表現する言葉はありません。無常という言葉が示す意味から無常を英語で表すことになります。

英文1は直訳すると「この世の中には永久に不変なものはない」です。「forever immutable」は「永久に不変の」という意味。「永久に不変なものはない」は「無常」という意味につながりますね。

英文2は直訳すると「落ち葉を見ると、私は人生のはかなさを感じる」。 「transience of human life」「人生のはかなさ」という意味です。「人生のはかなさを感じる」ということは「無常を感じる」ということになります。

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「無常」を使いこなそう

この記事では「無常」の意味・使い方・類語などを説明しました。

「無常」という言葉は仏教用語で「永遠に不変なものはない」という意味をもつ言葉であり、英語には「無常」をストレートに表現する単語がないこと等がわかりましたね。

散っていく桜を「美しい」と思うように日本人は無常の中のはかなさに美しさを見出しました。「平家物語」「徒然草」…日本の古典文学の中にはその根底に無常観が流れる作品も数多くあります。「古典だから…」と敬遠せずに読んでみてくださいね。

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国語言葉の意味

「無常」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説!

この記事では「無常」について解説する。

端的に言えば無常は「永遠に不変なものはない」という意味ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

情報誌系のライターを10年経験した柊 雅子を呼んです。一緒に「無常」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/柊 雅子

イベントの司会や雑誌の記事作成を仕事としてきたライター、柊 雅子。雪の中に落ちる寒椿、春風に舞い落ちる桜の花びら…巡る季節の中で散りゆく花に無常を感じるという彼女が「無常」について解説する。

「無常」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「無常」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「無常」の意味は?

「無常」には、次のような意味があります。

1.仏語。この世の中の一切のものは常に生滅流転(しょうめつるてん)して、永遠不変のものはないということ。特に、人生のはかないこと。また、そのさま

2.人の死。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「無常」

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり

沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす

これは平家物語の冒頭の一節。平家物語は古文の教科書等で目にしたことがありますよね。

口語訳にすると「祇園精舎の鐘の音には諸行無常の響きがある。沙羅双樹の花の色は勢いの盛んな者も必ず衰えるという道理を表している」となります。ここに「無常」が表現されているのです。「諸行無常」とは「全てのことは移り変わっていくものであり、永遠に変わらないものは存在しない」という意味。「生滅流転」は「すべてのものは『生(生まれる)』と『滅(滅びる)』を繰り返し巡り続け、移り変わっていく」と言う意味で諸行無常」と「生滅流転」は「この世には変わらないものは無く、すべてのものは移り変わる」というものの道理を表しています。

猛きものも遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じとは、「勢いがあるものも結局のところ滅んでしまうものだ。全く風に吹かれれば飛んでいく塵と同じである」という意味。平家物語の冒頭はこのように締めくくられているのですが、人間もこの道理から外れることはできません。この世に生まれた限り死というものから逃れることはできないのです。

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