この記事では「行尸走肉」について解説する。
端的に言えば行尸走肉の意味は「役立たず」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
自治体広報紙の編集を8年経験した弘毅を呼んです。一緒に「行尸走肉」の意味や例文、類語などを見ていきます。
ライター/八嶋弘毅
自治体広報紙の編集に8年携わった。正確な語句や慣用句の使い方が求められるので、正しい日本語の使い方には人一倍敏感。
「行尸走肉」には、次のような意味があります。
からだだけあって魂がない者のたとえ。転じて、知識や才能をもたず、何の役にも立たない者のたとえ。
出典:四字熟語辞典(学研)「行尸走肉」
「行尸走肉」の「尸」という漢字を見るのは初めてという方も多いのではないでしょうか。これは「しかばね」と読みます。「屍」という漢字なら見たことがあるのではありませんか。意味はまったく同じです。従って「行屍走肉」という書き方もあります。「行尸」は歩くしかばね、「走肉」は魂のない走る肉体のことです。転じて体だけで能力のない無学な人物を嘲笑するときに使うようになりました。
次に「行尸走肉」の語源を確認しておきましょう。「行尸走肉」の文字が見られるのは古代中国の奇怪な話を集めた小説集『拾遺記(しゅういき)』です。その巻六に収録された一文に「夫人好學,雖死若存;不學者雖存,謂之行屍走肉耳」(女性は死んでいるのに学びたがっている。しかし彼女が学者でなければ行尸走肉と呼ばれる)とあります。
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「行尸走肉」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。
1.医療知識のないあなたは行尸走肉です。治療の邪魔になりますから引っ込んでいてください。
2.人として生まれてきた以上行尸走肉で終わらず、なにか偉大な仕事を成し遂げたい。
3.あいつは普段からご立派なことを言ってるが、しょせん行尸走肉だよ。
「行尸走肉」という言葉はまず使うことがないので「無能」とか「役立たず」と面と向かって誰かを非難しにくい時に使うと案外便利かもしれません。しかし言われた本人が意味がわからないのでちょっとした気晴らしにしかならないかもしれませんが。
日本の教育者・思想家の新渡戸稲造の著書『自警録』にも「行尸走肉」という言葉が出てきます。新渡戸稲造は『武士道』という著書が人気ですが『自警録』も隠れた名著と言われているものです。心の持ち方や人生訓を書いたものですが、その内容は今日でも十分通用するでしょう。この著書の中に「人もどれほど『王佐棟梁(おうさとうりょう』の才であっても、これを利用もせず懶惰(らんだ)に日を送れば、小技小能(しょうぎしょうのう)なるいわゆる『斗筲(とそう)の人』で正直に努める者に比して、一人前と称しがたく、ただ大なる『行尸走肉』たるに過ぎぬ」という一文があります。これは、たとえ帝王の仕事を助けるほどの能力があってもそれを使うことなく日々を無駄に過ごすようなら、才能がない正直者より無能だという意味です。
「行尸走肉」の類義語として「昼行灯(ひるあんどん)」が挙げられます。「行灯」とは江戸時代に普及した照明器具で、ろうそくや油脂を光源としたものです。行灯を昼間にともしてもぼんやりして明るくありませんね。昼行灯のように役に立たない人をあざけってそう呼ぶようになりました。ですから「昼行灯」というのは褒め言葉ではないのです。
しかし無能を装っていざという時に有能な働きをする人間のことを指すと勘違いしている方もいます。これは時代劇『忠臣蔵』の影響でしょう。主君浅野内匠頭の仇討ちもしないで遊郭で遊びほうける家老の大石内蔵助は昼行灯と揶揄されていました。しかし時節到来を待って一転決起し敵である吉良上野介を討ち取ったストーリーから「能ある鷹は爪を隠す」と同じ意味だと思っている方がいます。このような間違いをしないよう気をつけてください。
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「酒嚢飯袋(しゅのうはんたい)」の「嚢」は袋の意味です。つまり「酒嚢飯袋」とは酒を入れる袋と飯を入れる袋を指します。これが転じて酒を飲み飯を食うだけのなんの役にも立たない人物のことを表すようになりました。「行尸走肉」と同じ意味を持つ言葉と言えるでしょう。
「行尸走肉」がなんの役にも立たない人のことを指すのなら、非常に有能であらゆる方面にわたって優れている人を意味する言葉が対義語になります。ここではそんな対義語を紹介しましょう。
「八面六臂(はちめんろっぴ)」とは、一体の仏像が八つの顔と六つの腕を持っていることで一人で多方面にわたって活躍することを意味します。「行尸走肉」の人とは正反対ですね。「三面六臂」と言うこともありますが、顔の数が違うだけで意味は同じです。「八面六臂の大活躍」とか「三面六臂の大活躍」のような使い方をします。
「The Walking Dead」という言葉をあなたも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。ゾンビ(zombie)が出てくる米国の人気テレビドラマですね。日本でも有料動画サイトで今でも観ることができます。「walking dead」が日本語の「行尸走肉」に当たる英語です。ちなみにzombieには「生き返った死体」のほか「魂が抜けたような無気力な人」という意味もあります。
「walking dead」を使った文章を一つ挙げておきましょう。「Useless person who only alive that is walking dead body.」で「生き返って歩いている役立たずの死体」となります。
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この記事では「行尸走肉」の意味・使い方・類語などを説明しました。「行尸走肉」のような難しい日本語より「walking dead」の方がなじみがありますね。日頃から辞書に親しんで難しい言葉を見つけたら英語に訳してみるのもいいでしょう。そこからあなたの知らなかった意外な英語のヒントが見つかるかもしれません。