この記事では「ひしひしと」について解説する。
端的に言えば「ひしひしと」の意味は「強く身に迫って感じるさま」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
ライターのflickerを呼んです。一緒に「ひしひしと」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/flicker

仕事柄、言葉からひらめきをもらうことがよくある。「なるほど。そういうことか!」と言葉への知識・関心がさらに一層広がるように、さらに編プロでの編集経験を活かし理解しやすい精確な解説を心掛ける。

「ひしひしと」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「ひしひしと」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「ひしひしと」の意味は?

「ひしひしと」には、次のような意味があります。

[1] 〘副〙 (多く「と」を伴って用いる)

① 物がおされなどして鳴る音、おしひしがれて鳴る音を表わす語。みしみし。ばりばり。

※源氏(1001‐14頃)夕顔「ものの足音ひしひしと蹈み鳴らしつつ」

② 少しのすきまもなく、ぴったりと寄りつくさまを表わす語。

※金刀比羅本平治(1220頃か)中「顔には砂ひしひしとつき」

③ きびしく迫るさまを表わす語。厳重に。がっちりと。すきまなく。

※半井本保元(1220頃か)上「門門ひしひしと固けり」

④ 少しも猶予・容赦のないさま、手きびしく油断のないさま、手ごころを加えないさまなどを表わす語。ぴしぴし。びしびし。

※今昔(1120頃か)二三「大事なればにや有けむ、蜜音(しのびね)も不為してひしひしと云合たりける」

⑤ =ぴしぴし②

※日葡辞書(1603‐04)「Fixifixito(ヒシヒシト) ウタルル」

⑥ さかんにその行為に集中するさま、盛大なさまを表わす語。

※御湯殿上日記‐文明九年(1477)正月一七日「御ひしひしと御いわゐあり」

⑦ 強く身に迫るさま、強く身にこたえるさまを表わす語。現代では、この意に用いることが多い。

※人情本・英対暖語(1838)四「異見を言ってくれました事まで、身にひしひしと当りますから」

[2] 〘名〙 (形動) ((一)⑥から転じて) 祝儀、酒盛りなどが盛大であるさま、また、盛大な祝儀・酒盛りをいう、女房詞。

※御湯殿上日記‐文明九年(1477)七月二二日「おとこたちめして十とのみありて御ひしひしなり」

出典:コトバンク

「ひしひしと」は切迫して感じられる様子を表す表現であり、やや硬い文章語で文芸作品などに多用されます。「夜になると寒気がひしひしと身に迫ってきた」では「と」が付いて述語にかかる修飾語になりますよ。また、自然の状態やその時の状況、感情、感覚などが主体に切迫して感じられる様子を表し、実感と反省の暗示があります。ちなみに「ひしひし」は「ひし」の状態形ですが、感じられる感情や状態は「ひし」の方が痛切で強いでしょう。

「ひしひしと」の語源は?

次に「ひしひしと」の語源を確認しておきましょう。「ひしひしと」の語源は「犇々」です。「犇」は牛が驚いていっせいに走り出す様子からひしめく、押し合いへし合いするという意味になりました。

\次のページで「「ひしひしと」の使い方・例文」を解説!/

「ひしひしと」の使い方・例文

「ひしひしと」の使い方について例文を挙げて解説していきます。この言葉は、たとえば以下のように用いられますよ。

1.六十過ぎると自分の老いをひしひしと感じる。それに一人暮らしに戻ると家族のありがたみを痛感するようになる。誰かとつながりを持てればとせつに願う今日この頃。

2.独り立ちして会社を立ち上げたが、わが身に迫る金融危険をひしひしと感じた。

3.作家の生の悲しみがひしひしと伝わってくる。

例文1は感覚が主体に切迫して感じられる様子を表していますよ。そして例文2はその時の状況が主体に切迫して感じられる様子を表しています。この他にも「リストラの波はひしひしと迫っているのだった」などと言い表せますよ。例文3は感情が主体に切迫して感じられる様子を表しています。

「ひしひしと」の類義語は?違いは?

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「ひしひしと」と似たような意味をもつ言葉をご紹介します。さっそく見ていきましょう。

その1「じりじり」

「じりじり」は強い焦燥を感じる様子を表しますよ。「じりじりしながらバスを待った」では「…しながら」が付いて述語にかかる修飾語になりますし、「息子は早く泳ぎに行きたくてじりじりしている」では「…している」が付いて述語になります。予定していた行動がなかなか行えないことについて強い焦燥を感じる様子を表しますが、代償行動を起こすことはなく、不安や怒りの暗示はありません。「ひしひしと」との違いは強い焦燥を感じる様子を表すという点でしょう。

\次のページで「その2「じわじわ」」を解説!/

その2「じわじわ」

「じわじわ」はごくわずかずつ浸透する様子を表します。「包帯に血がじわじわと染み出てきた」では「と」が付いて述語にかかる修飾語になりますし、「エイズはじわじわと世界中に広がっていった」ではある状態がわずかずつ進行・変化する場合を表しますよ。また「巨人はじわじわと攻め返してついに逆転した」では目標に少しずつ迫る場合を表し、この場合には不利な状態またはゼロの状態から少しずつ形勢を逆転するときに用いることが多いです。

「ひしひしと」との違いは不安や不気味の暗示を伴うこともあるという点でしょう。

その3「やきもき」

「やきもき」は焦燥と不安を感じる様子を表します。「親がやきもきしながら待っているのをよそに」では「…しながら」が付いて述語にかかる修飾語になりますし、「親はやきもきと心配している」では「…している」がついて述語になります。物事が期待するようには順調に進行しないため、望ましくない結果を恐れる危惧の暗示もありますよ。「ひしひしと」との違いは焦燥と不安を感じる様子を表すという点でしょう。

「ひしひしと」の対義語は?

「ひしひしと」と反対の意味を持つ言葉をご紹介します。さっそく見ていきましょう。

その1「ほっ」

「ほっ」は安どのため息をつく様子を表します。「一仕事終えてほっと一息ついた」では「と」が付いて述語にかかる修飾語になりますし、「とにもかくにも責任を果してほっとした」では「…とする」が付いて述語になりますよ。また「彼女は家に帰るとほっとする間もなく夕飯の支度にかかる」では「…とする」が付いて名詞にかかる修飾語になりますし、「ほっ」だけで感動詞になる現代語用法もあります。

重圧・緊張・責任・ストレスなどの束縛から解放され、心身がリラックスしたときに出てくる息を表しますが、実際にため息をつくかどうかに関係なく、そういうときの精神状態そのものを表し安堵の暗示があるでしょう

その2「ほっかり」

「ほっかり」は安堵を感じる様子を表す表現。「抜糸したらなんだかほっかりした」では「…する」が付いて述語になります。重圧・緊張・責任・ストレスなどの束縛から解放され、心身がリラックスした状態を表し、安堵・快感・充足の暗示がありますよ。また「ほっかり」は「ほっと」と似ていますが、「ほっと」は安堵のため息をつく様子を表し、快感の暗示はありません。

「ひしひしと」の英訳は?

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「ひしひしと」の英訳にはどのようなものがあるのでしょうか。英語で「ひしひしと」と言い表す時の例をさっそく見ていきましょう。

\次のページで「「keenly」」を解説!/

「keenly」

「keenly」は「強烈に、熱心に、鋭く」という意味。「I keenly feel what human warmth is」で「人間の温もりを痛感します」、「The hidden fighting spirit was transmitted from the screen」で「秘めた闘志が画面からひしひしと伝わってきた」と表現することができます。

「ひしひしと」を使いこなそう

この記事では「ひしひしと」の意味・使い方・類語などを説明しました。

「ひしひしと」は切迫して感じられる様子を表す表現で、自然の状態やその時の状況、感情、感覚などが主体に切迫して感じられる様子を表し、実感と反省の暗示がありましたね。「ひしひしと」と似たような意味をもつ擬態語には「じりじり」や「じわじわ」以外にも「ぎりぎり」がありますよ。「ぎりぎり」は極限に切迫している様子を表し、危惧・切迫感の暗示を伴う表現です。この他にも「かつかつ」など物事を達成できる最低限の状態に近接している様子を表し、強い切迫感の暗示がある表現が存在しますよ。

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国語言葉の意味

「ひしひしと」の意味や使い方は?例文や類語をプロダクション編集者がわかりやすく解説!

この記事では「ひしひしと」について解説する。
端的に言えば「ひしひしと」の意味は「強く身に迫って感じるさま」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
ライターのflickerを呼んです。一緒に「ひしひしと」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/flicker

仕事柄、言葉からひらめきをもらうことがよくある。「なるほど。そういうことか!」と言葉への知識・関心がさらに一層広がるように、さらに編プロでの編集経験を活かし理解しやすい精確な解説を心掛ける。

「ひしひしと」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「ひしひしと」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「ひしひしと」の意味は?

「ひしひしと」には、次のような意味があります。

[1] 〘副〙 (多く「と」を伴って用いる)

① 物がおされなどして鳴る音、おしひしがれて鳴る音を表わす語。みしみし。ばりばり。

※源氏(1001‐14頃)夕顔「ものの足音ひしひしと蹈み鳴らしつつ」

② 少しのすきまもなく、ぴったりと寄りつくさまを表わす語。

※金刀比羅本平治(1220頃か)中「顔には砂ひしひしとつき」

③ きびしく迫るさまを表わす語。厳重に。がっちりと。すきまなく。

※半井本保元(1220頃か)上「門門ひしひしと固けり」

④ 少しも猶予・容赦のないさま、手きびしく油断のないさま、手ごころを加えないさまなどを表わす語。ぴしぴし。びしびし。

※今昔(1120頃か)二三「大事なればにや有けむ、蜜音(しのびね)も不為してひしひしと云合たりける」

⑤ =ぴしぴし②

※日葡辞書(1603‐04)「Fixifixito(ヒシヒシト) ウタルル」

⑥ さかんにその行為に集中するさま、盛大なさまを表わす語。

※御湯殿上日記‐文明九年(1477)正月一七日「御ひしひしと御いわゐあり」

⑦ 強く身に迫るさま、強く身にこたえるさまを表わす語。現代では、この意に用いることが多い。

※人情本・英対暖語(1838)四「異見を言ってくれました事まで、身にひしひしと当りますから」

[2] 〘名〙 (形動) ((一)⑥から転じて) 祝儀、酒盛りなどが盛大であるさま、また、盛大な祝儀・酒盛りをいう、女房詞。

※御湯殿上日記‐文明九年(1477)七月二二日「おとこたちめして十とのみありて御ひしひしなり」

出典:コトバンク

「ひしひしと」は切迫して感じられる様子を表す表現であり、やや硬い文章語で文芸作品などに多用されます。「夜になると寒気がひしひしと身に迫ってきた」では「と」が付いて述語にかかる修飾語になりますよ。また、自然の状態やその時の状況、感情、感覚などが主体に切迫して感じられる様子を表し、実感と反省の暗示があります。ちなみに「ひしひし」は「ひし」の状態形ですが、感じられる感情や状態は「ひし」の方が痛切で強いでしょう。

「ひしひしと」の語源は?

次に「ひしひしと」の語源を確認しておきましょう。「ひしひしと」の語源は「犇々」です。「犇」は牛が驚いていっせいに走り出す様子からひしめく、押し合いへし合いするという意味になりました。

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