平安時代日本史

激動の時代を生きた鴨長明の無常の文学「方丈記」を元大学教員が5分で解説

和漢混交文であることが特徴

方丈記の文体は明快で流麗。和語、漢語、仏教用語を織り交ぜ、和歌の詠嘆法や対句を数多く使っています。このような方法は平安貴族も使っていましたが、戦がなかった平安時代において、おもに女性の書いた文とは異なる新鮮さがありました。

あちこちに男好みの漢文がちりばめられながらも、雅(みやび)な平安文化の雰囲気が残っていることが特徴。長明の心のなかには、平家滅亡とともに消えた貴族文化に対するあこがれやなつかしさがありました。

no-img2″>
 <figcaption class=桜木建二

方丈記は、挫折した知識階級の中年男性が新しい文体で書いた愚痴とあきらめのエッセイと言ってもいい。今では古典の名作と位置付けられているが、当時としては中年男性が世の中を憂う愚痴だったのかもしれない。そう思うと気軽に読んでみたい気がしてきたぞ。

4.時代の激変を生きぬくヒントを与える方丈記

image by PIXTA / 50283387

鴨長明が生きた時代は貴族が力を失い武家が台頭したころ。平氏が政権を取って福原に遷都したものの、源氏に倒されたころです。そのあいだに次々に襲ってきたのが災害。さらには武士による鎌倉幕府成立します。このような激変の時代を生きることを余儀なくされました。長明自身も挫折と敗北を繰り返したことで、時代をどう生き抜くかを思索して人生訓を書くようになったのです。

地震の記録としての方丈記

方丈記のなかで克明に記された地震の様子が東日本大震災の直後にスポットライトを浴びたことは記憶に新しいでしょう。原文では地震の怖さについて次のように生々しく書いています。

そのさま世のつねならず。山はくずれて河を埋み、海は傾きて陸をひたせり。土裂けて水湧き出して巌割れて谷にまろび入る

さらには地震のあとの人の心の変化を「人皆あぢきなきことを述べて、いささか心の濁りも薄らぐと見えしかど、月日重なり年経にし後は言葉にかけて言ひ出づる人だになし」。どんなに恐ろしい目に遭っても月日が経つと忘れられるものだと長明は述べました。

人生訓としての方丈記

鴨長明の暮らしぶりはコロナ禍における巣籠り生活と似ているもの。あるいは、キャンピング生活、ミニマムライフ生活と言ってもいいでしょう。宅配もウーバーイーツもない時代、自分で食材を確保する自給自足生活を実践しました。ある意味、鴨長明は現代人よりたくましいのかも知れません。

そのような日常から生まれた人生訓は「出世するほど貪欲になる」「財があれば心配になる」「貧しければ恨みっぽくなる」「ヤドカリは自分の身の丈に合った小さな貝を好む」など。どれも今の時代にぴったり当てはまるものばかり。この言葉を聞いてドキッとする人も多いでしょう。

no-img2″>
 <figcaption class=桜木建二

鴨長明の人生訓のなかで好きなのは「財があれば心配になる」。ある程度の貯金がたまると、安心するどころかまだ足りないと余計に不安になる人が多いだろう。人生をすっきりさせることで不要な心配がなくなる。そんなミニマムライフの精神がここで実践されていたのはすごいな。

5.方丈記にみる鴨長明が達した人生観

image by PIXTA / 30384322

ここでいちど原点に戻って無常思想についておさらいします。それを肌で感じるためにいちばんいいことは原文を読むこと。無常思想は原文でしか伝わらない雰囲気があるからです。「声に出して詠んで、何となく分かる、と感じるのが良い歌だ」というのは、当時の歌人である藤原定家の言葉。それでは、いっしょに方丈記の冒頭を原文で読んでみましょう。

次のページを読む
1 2 3 4
Share:
hikosuke