今回は、生物学の中で使われる「作用」をキーワードとして考えていこう。

「作用」は比較的一般的な言葉ですが、高校の生物学では生態系について学習する際に、覚えなければいけいない用語の一つとして登場する。その意味や具体例、生態系という考え方などを確認していこうじゃないか。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

生物学(生態学)のなかの「作用」とは?

今回のテーマは「作用(さよう)」ですね。

いうまでもありませんが、「作用」という言葉自体は、日常生活でも使われるものです。「薬が作用した」とか、「洗浄作用」などというところで耳にします。

とはいえ、わたしは生物学の講師ですから、この記事では生物学の中で使われる「作用」という用語について説明していきましょう。

「作用」という言葉が登場するのは、生物学のなかでも、生態系について研究する生態学の分野です。

\次のページで「生態系とは?」を解説!/

image by iStockphoto

生物学(生態学)において作用とは、環境(非生物的環境)が生物に影響を与えることをいいます。非生物的環境というのは文字通り、”生物以外の環境”です。水や土、空気などが当てはまるでしょう。

生物と環境の関係について思いを巡らせることは、生態系という考え方のベースです。せっかくですので、生態系について解説させていただきたいと思います。

生態系とは?

生物どうしの「相互作用」

私たち人間を含め、地球上には多種多様な生物が存在しています。動物、植物、菌類…目に見えないような細菌も、立派な生物ですね。

当たり前のようですが、生物というのは基本的に1個体(1匹)だけでは生きていけません

動物であれば、他の動物や植物のからだを食べて命をつなぎます。光合成によって有機物を生み出せる植物も、葉や枝が落ちたり、枯れてしまったときに分解してくれる細菌などの生物がいなければ、次の植物が生えてくるのが難しくなるでしょう。

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生態学では、光合成で有機物を生み出すことができる植物などを生産者、他の生物を食べることで有機物を得る生物(主に動物)を消費者とよびます。また、動物の遺体や排出物、植物の落葉、落枝、枯死部などの有機物をとりこみ、無機物にまで分解する生物が、分解者とよばれる存在です。

生物は捕食や被食、共生などを通してお互いに影響し合っています。これを生物の「相互作用(そうごさよう)」と言ったりするので、覚えておきましょう。

「生態系」という考え方

さて、もう少し視点を広げてみると、生物の存在を考えるにはその周囲にある生物以外の環境(非生物的環境)についても考えなくてはいけないということに気づきます。

例えば、植物は生育に適した土壌や水がなくては生きていけません。動物も呼吸をし、水を飲み、気温や湿度に合わせて体をコントロールします。

生物とその周囲の非生物的環境を”ひとまとまり”として考えたのが「生態系(英語:ecosystem)」です。地球上にはそれぞれの地域で異なる生物、異なる非生物的環境が存在し、異なる生態系が成立しています。

\次のページで「”作用”と”環境形成作用”」を解説!/

話がそれてしまうので今回は触れませんが、生態系を守り保全していくことは、野生の動植物だけでなく、我々人間の生活を守ることにもつながります。むしろ、今すぐにでも手を打たなくてはいけない課題なんです。

”作用”と”環境形成作用”

生態系の中では、生物と非生物的環境が常に影響を及ぼしあっています。この記事の初めにも少しふれたとおり、非生物的環境が生物に影響を及ぼすことが、今回のテーマである「作用」です。

その一方で、生物も非生物的環境に影響を及ぼしており、これは「環境形成作用」とよばれます。

ここまで出てきたキーワードを、一枚の図にまとめてみましょう。

image by Study-Z編集部

では、少し作用と環境形成作用の具体例を考えてみたいと思います。

ある地域の生態系を例にとって考えましょう。先ほども少しだけ触れましたが、その地域の土壌に含まれる養分や保水力、気温や降水量によって、生育できる植物が決まってきます。

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生物間の相互作用のバランスがうまく保てていても、異常気象などで雨が降らなくなれば、生育している植物が枯れてしまうでしょう。このような例は非生物的環境が生物に影響を与える、作用だと考えることができますね。

さらに、植物が減れば、その生態系の他の動物にも影響が及びますが、これは相互作用といえます。

場所によっては、火山の噴火や地震、洪水などのような災害が発端となり、生物が大きな影響を受けるような作用も起きるかもしれませんよね。

反対に、土壌中の養分が増えたり、雨の少ない土地でたっぷりの雨が降ったりすれば、植物をはじめとする生物の量が増えることもあるでしょう。良かれ悪かれ、多かれ少なかれ、生物は非生物的環境に作用を受けながら生存しているのです。

\次のページで「生態系は”生物”のみからなるのではない」を解説!/

生物もまた、非生物的環境に影響を与えています。たとえば、生育している植物が枯死したり、動物が死んで分解者により分解されると、土壌中の成分が変化していきますよね。

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枯葉などの分解しきれていない有機物によって保水力が増したり、窒素やリンなどの量が増えたり…大きな樹木がたくさん生えるようになれば、多くの水を必要とするため土壌中の水分量が変化するかもしれません。また、生物が放出する酸素や二酸化炭素によって、空気中の気体成分の割合も変化する可能性があります。

生態系は”生物”のみからなるのではない

普段あまり意識することはありませんが、生物のいるところにはその地域特有の生態系が成り立っており、生物と非生物的環境の間にはかならず”作用”や”環境形成作用”がみられます。生態系を考えるときには、生物だけではなく、非生物的環境にも目を向けなければならないのです。

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理科生態系生物

生態学でいう「作用」とは?環境形成作用との関係は?現役講師がわかりやすく解説します

今回は、生物学の中で使われる「作用」をキーワードとして考えていこう。

「作用」は比較的一般的な言葉ですが、高校の生物学では生態系について学習する際に、覚えなければいけいない用語の一つとして登場する。その意味や具体例、生態系という考え方などを確認していこうじゃないか。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

生物学(生態学)のなかの「作用」とは?

今回のテーマは「作用(さよう)」ですね。

いうまでもありませんが、「作用」という言葉自体は、日常生活でも使われるものです。「薬が作用した」とか、「洗浄作用」などというところで耳にします。

とはいえ、わたしは生物学の講師ですから、この記事では生物学の中で使われる「作用」という用語について説明していきましょう。

「作用」という言葉が登場するのは、生物学のなかでも、生態系について研究する生態学の分野です。

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