この記事では「細胞群体」について勉強していこう。

細胞群体は高校の生物で紹介される用語ですが、中学理科でも内容にふれる先生がいるかもしれない。この細胞群体というのは、簡単そうでなかなか深い生き物なんです。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

細胞群体とは?

細胞群体(さいぼうぐんたい)とは、単細胞生物のような細胞が集まり、”群体”をつくっている状態の生物を指します。細胞群体になって生息している生物は限られているので、のちほど具体例をご紹介しましょう。

なお、細胞群体をつくる生物では、そのからだを構成する細胞の数がある程度決まっているものが多くあります。そのため、細胞群体は定数群体(ていすうぐんたい)という用語でよばれることもあるんです。

多細胞生物と細胞群体の違い

細胞群体は、単細胞生物のような細胞が緩やかにつながってできています。その様子はまるで一つの多細胞生物のようにも見えるのですが…多細胞生物と細胞群体には大きな違いがあるのです。

そもそも多細胞生物というのは、それぞれの機能に分化したたくさんの細胞が、協調しながら一つの個体をつくっている生物。この「分化した細胞」というのが重要なポイントになります。

そうですね。我々人間も間違いなく多細胞生物です。細胞は、「表皮の細胞」「肝臓の細胞」「神経の細胞」などという風に分化しています。当然ですが、個々の細胞はばらばらにしてしまうと、基本的に生存することはできないですよね。

一方、多細胞生物とは違い、細胞群体では個々の細胞は基本的に分化していません。同じ機能・形態の細胞…それも、それぞれの細胞が単細胞生物のようにふるまうことができる細胞が、ゆるやかに”集まっているだけ”なのです。

\次のページで「細胞群体の例:ボルボックス目のなかま」を解説!/

image by Study-Z編集部

さらに、細胞群体を構成する細胞は、ばらばらにしてしまっても生存が可能なことが多いという特徴がみられます。

以上のポイントをふまえると、細胞群体という存在は、単細胞生物から多細胞生物が進化する道のりの、ちょうど中間あたりにいるような生物なのではないかと考えられるのです。

細胞群体の例:ボルボックス目のなかま

それでは、細胞群体として生きる生物の例をいくつかご紹介していきましょう。

細胞群体の中でもよく知られているのが、ボルボックス目(オオヒゲマワリ目)に属する生物たちです。このなかまは、単細胞生物のクラミドモナスによく似た細胞があつまって、群体をつくっています。

クラミドモナスは緑藻綱ボルボックス目の単細胞生物です。小さな楕円形の細胞に2本の鞭毛をもっており、これを動かすことで水中を移動できます。生物学の中では、遺伝子や細胞小器官の研究などによく使われる生物です。

これからあげる生物は、クラミドモナスによく似た細胞が集まってできています。注意してほしいのは、それらはあくまで「クラミドモナスに”よく似た”細胞」であり、クラミドモナスそのものが集まっているわけではないという点です。間違えやすいので気を付けてくださいね。

1.ゴニウム

ゴニウムは、クラミドモナスのような細胞が8個、または16個、ときに32個の細胞が集まって群体を構成しています。日本語でヒラタヒゲマワリとよばれることもありますね。

この「ゴニウム」という名称は、正確にいうと属名です。ボルボックス目ゴニウム科ゴニウム属の生物をまとめて「ゴニウム」とよぶことが多く、ゴニウム属の中にはさらに細かくいくつかの種が分類されています。

Gonium pectorale EPA.jpg
Environmental Protection Agency - http://www.epa.gov/glnpo/image/viz_nat6.html, パブリック・ドメイン, リンクによる

ゴニウムの特徴は、細胞同士が平面的に結合しているところにあります。立体的に重なるのではなく、タイルを敷き詰めるように、平らな群体をつくっているのです。群体全体はゼラチン質の物質で包まれています。細胞には鞭毛があるので、その運動によって水中を異動することが可能です。

2.パンドリナ

ボルボックス目パンドリナ科パンドリナ属の生物が、まとめてパンドリナとよばれます。パンドリナの細胞数は、16個か32個、文献によっては8個と書いてあることもあるようです。

細胞全体は球のようになります。一つ一つの細胞はぎゅっとあつまり、少し形が角ばったようになっているのも面白いところです。

和名ではクワノミモとよばれます。

\次のページで「3.ユードリナ」を解説!/

3.ユードリナ

ユードリナ属のなかまは16個、もしくは32個の細胞からなる細胞群体をつくります。和名ではタマヒゲマワリといい、教科書などにも比較的よく登場する生物です。

パンドリナのように、細胞は集まって球形になりますが、パンドリナほど細胞同士が密着しません。そのため、それぞれの細胞の丸さが比較的よくわかります。

4.ボルボックス

目の名称にもなっているボルボックスは、これまで紹介したものよりもたくさんの細胞が群体となっている生物です。オオヒゲマワリという和名でもよく知られています。

大きなボールの中に小さなボールが入っているような姿をしていることで有名ですね。

image by iStockphoto

このボルボックスも、本当によく教科書で名前を見るのですが…じつは、ここまで紹介してきたゴニウムやパンドリナ、ユードリナとは、少し違う特徴をもっています。

まず、ボルボックスは細胞の数が一定ではないという点。クラミドモナスのような細胞が数千個あつまっています。「8個、16個」というような”定数”がないので、定数群体に含めるのは少し難しい存在かもしれません。

これに加えボルボックスでは、簡単ではありますが細胞の分化がみられるのです。ボルボックスの内側に見える小さなボールには、次世代の群体となる専用の細胞があります。これが細胞分裂し、生長して、大きなボールを突き破って出ていくのです。

はい。こうなると、他の細胞群体(定数群体)と同じでいいのかは、迷ってしまうところです。限りなく多細胞生物に近い細胞群体、というイメージの方が良いかもしれませんね。

細胞群体の例:ヨコワミドロ目のなかま

ボルボックス目とおなじく緑藻綱であるヨコワミドロ目にも細胞群体として生きる生物が含まれています。アミミドロ科のアミミドロ属とクンショウモ属、イカダモ科のイカダモ属を覚えましょう。

1.アミミドロ

image by iStockphoto

アミミドロは淡水にみられる、五角形や六角形の網目状をした藻類です。小さな円柱形の細胞が集まり、全体が網のようになっています。

アミミドロの細胞数は2万個ほどのことが多いようですが、ゴニウムやユードリナのような決まった数があるわけではないため、こちらも”定数群体”とは言いにくい存在かもしれません。

\次のページで「2.イカダモ」を解説!/

2.イカダモ

複数の細胞がいかだのようにつながった構造をしているのがイカダモです。イカダモ科の中の、イカダモ属とデスモデスムス属に、一般的に「イカダモ」とよばれる生物が含まれています。

image by iStockphoto

細胞の数は4個や8個が多く、細胞同士は一列の直線状に並んでいるものや、2列で互い違いになるように配置しているものなどがあります。

3.クンショウモ

細胞が円を描くように平面的に配置され、その姿がまるで勲章のように見えることから名付けられた藻類がクンショウモです。8個、16個、32個などの細胞によって構成されます。

ボルボックス目の細胞がもっているような鞭毛は持たないため、あまり動きません。そのため、学校では観察教材としてよく利用されます。

単細胞生物と多細胞生物をつなぐ存在?

初めにも少し述べましたが、細胞群体が注目される理由の一つに「単細胞生物と多細胞生物をつなぐ存在」なのではないかと考えられている点があります。ばらばらになっても生きていけるけど、あえて集まり、ゆるくお互いを固定している…長い進化の道筋の中で、このような生物が生き残ってきたということを考えれば、細胞群体にはなんらかの利点があるのかもしれません。

学校で生物学を勉強中の皆さんは、代表的な細胞群体の名前を言えるようにしておきましょう!

イラスト提供元:いらすとや

" /> 「細胞群体」って何?簡単そうで奥が深い生物たち!現役講師がわかりやすく解説します – ページ 4 – Study-Z
理科生物生物の分類・進化

「細胞群体」って何?簡単そうで奥が深い生物たち!現役講師がわかりやすく解説します

2.イカダモ

複数の細胞がいかだのようにつながった構造をしているのがイカダモです。イカダモ科の中の、イカダモ属とデスモデスムス属に、一般的に「イカダモ」とよばれる生物が含まれています。

image by iStockphoto

細胞の数は4個や8個が多く、細胞同士は一列の直線状に並んでいるものや、2列で互い違いになるように配置しているものなどがあります。

3.クンショウモ

細胞が円を描くように平面的に配置され、その姿がまるで勲章のように見えることから名付けられた藻類がクンショウモです。8個、16個、32個などの細胞によって構成されます。

ボルボックス目の細胞がもっているような鞭毛は持たないため、あまり動きません。そのため、学校では観察教材としてよく利用されます。

単細胞生物と多細胞生物をつなぐ存在?

初めにも少し述べましたが、細胞群体が注目される理由の一つに「単細胞生物と多細胞生物をつなぐ存在」なのではないかと考えられている点があります。ばらばらになっても生きていけるけど、あえて集まり、ゆるくお互いを固定している…長い進化の道筋の中で、このような生物が生き残ってきたということを考えれば、細胞群体にはなんらかの利点があるのかもしれません。

学校で生物学を勉強中の皆さんは、代表的な細胞群体の名前を言えるようにしておきましょう!

イラスト提供元:いらすとや

1 2 3 4
Share: