今回は「もぬけの殻」という言葉について見ていきます。この言葉、聞いたことがないという人は多分いないでしょう。

「もぬけの殻」はずばり言えば「人が抜け出した後の空間」です。ただ、「殻」の意味は分かっても「もぬけ」って何だ?って思った人もいるんじゃないか。

今回はその「もぬけの殻」の意味・語源や類義語を、「もぬけ」の意味を含めて、大学院卒の日本語教師・むかいひろきに解説してもらうぞ。

ライター/むかいひろき

ロシアの大学で2年間働き、日本で大学院修了の日本語教師。その経験を武器に「言葉」について分かりやすく解説していく。

「もぬけの殻」の意味と語源は?

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「もぬけの殻」という言葉、聞いたことがない人はいないのではないでしょうか。ただ、正確な意味を問われるとちょっと困りませんか?ここでは「もぬけの殻」も意味や語源を、辞典を参考にしながら見ていきましょう。

「もぬけの殻」は“人が抜け出した後の空間”

国語辞典では、「もぬけの殻」の意味は次のように掲載されています。

1 蝉や蛇のぬけがら。もぬけ。

2 人の抜け出たあとの寝床や住居。「捜査員が踏み込んだ時には、部屋はすでに―だった」

3 魂の抜け去った体。死体。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「もぬけ‐の‐から【×蛻の殻】」

「もぬけの殻」は、辞書には上記のように3つ意味が掲載されていることが多いですね。ただ、現代語で用いられるのは原則2番目の意味です。よって、本記事では「もぬけの殻」の意味を「人が抜け出した後、いなくなった後の空間」として解説を進めていきます。

「もぬけ」は「セミやヘビの抜け殻」

では、「もぬけの殻」の「もぬけ」とは何でしょうか。この「もぬけ」は「セミやヘビが脱皮すること」「セミやヘビが脱皮した後の抜け殻」という意味の古語でした。

そして、「もぬけ」には時代が進むにつれて意味が増えていきます。「人が抜け出した後の寝床」「人の魂が抜けたような様子」の2つの意味に派生しました。その内の「人が抜け出した後の寝床」の意味が少しずつ変化し、「人が抜け出した後、いなくなった後の空間」という意味になり、現代に至ります。

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「もぬけの殻」と類義語を比較!違いは?

次に、「もぬけの殻」の意味を類義語と比較しながら見ていきましょう。例文と一緒に考えていきます。「もぬけの殻」の類義語は、「無人」「猫の子一匹いない」「人っ子一人いない」です。

「無人」人がいない

1つ目の類義語は「無人」です。字を見て分かる通り「人がいないこと」という意味の単語ですね。「もぬけの殻」も”人がいない状態”を示す語であるので、類義語と言えるでしょう。例文を利用して違いを見ていきましょう。

1.ようやく詐欺グループのアジトを突き止め現場に急行したが、我々が着いた時にはもぬけの殻で、大量の電話が残されていただけだった。
2.隣の家は、5年前におじいさんが死んで以来、誰も住んでおらずもぬけの殻だ。

3.A駅は開業以来ずっと無人駅だ。
4.隣の家は、5年前におじいさんが死んで以来、誰も住んでおらず無人だ。

「もぬけの殻」と「無人」の違いは、「もぬけの殻」には”以前まで人がいた”というニュアンスがあることです。例えば例文1番では、現場は詐欺グループのアジトであったため、以前は詐欺グループが滞在し、使用していたことが窺えます。例文2、4も、5年前まではおじいさんがいたことが分から読み取れますね。このような場合に「もぬけの殻」を使用します。(もちろん、「無人」も使用可能ですよ。)

一方、「もぬけの殻」が使用できないのは例文3のような場合です。例文3では、A駅が開業以来ずっと無人で管理されている駅、つまり無人駅だということを述べています。この場合、”以前まで人がいた”のではなく、”最初から人がいなかった”というニュアンスになるので、「もぬけの殻」は使用できません

「猫の子一匹いない」人が全くいない

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猫の子一匹いない」は「人が全くいない」という意味の慣用句です。”人間はおろか、猫の子までも一匹もいない”というニュアンスで、”誰もいない”(無人である)ことを強調しています。”人がいない状態”を示す語である「もぬけの殻」は、類義語と言えるでしょう。

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1.昨日は試合がありたくさんの人が集まったスタジアム。今日はもぬけの殻だ。

2.昨日は試合がありたくさんの人が集まったスタジアム。今日は猫の子一匹いない
3.知らない町をサイクリングしているが、どうやらこの辺りは猫の子一匹いないようだ。

「もぬけの殻」と「猫の子一匹いない」の違いは、「もぬけの殻」には”以前まで人がいた”というニュアンスがあることです。一方の「猫の子一匹いない」は”誰もいない”ことを強調するニュアンスはありますが、それ以前の状態については焦点が当たっていません。

例文1と2は、”昨日はたくさん人がいた”ということが文から読み取れます。このような場合に「もぬけの殻」は使用可能、同様に「猫の子一匹いない」も使用可能です。

一方の例文3は、この文面からは”今は人はいないが、それ以前は分からない”状態ですね。”以前までは人がいた”というニュアンスが文にない場合は、「もぬけの殻」は使用できません。

「人っ子一人いない」1人もいない

人っ子一人いない」は「人が1人もいない」という意味の慣用句です。”誰も人がいない”ということを強調するニュアンスをもった表現ですね。意味や使われる場面は「猫の子一匹いない」と違いはありません。”人がいない状態”を示す語である「もぬけの殻」は、類義語と言えるでしょう。

1.高級着物の窃盗犯の自宅を突き止めたが、逮捕状を持って乗り込んだ時にはもぬけの殻だった。

2.高級着物の窃盗犯の自宅を突き止めたが、逮捕状を持って乗り込んだ時には人っ子一人いなかった
3.目が覚めたら、人っ子一人いない広い部屋にいた。

「もぬけの殻」と「人っ子一人いない」の違いは、「もぬけの殻」には”以前まで人がいた”というニュアンスがあることです。一方の「人っ子一人いない」は”誰もいない”ことを強調するニュアンスはありますが、それ以前の状態については焦点が当たっていません。「猫の子一匹いない」との違いと全く同じですね。

例文1は「もぬけの殻」を使うことで、”窃盗犯の自宅には以前は確かに人がいた”というニュアンスを表すことができます。一方で、例文2の場合は、以前に人がいたかどうかについては焦点が当たっていません。

また、例文3のように”今は人はいないが、それ以前は分からない”状態の場合は、「もぬけの殻」は使用できませんね。

「もぬけの殻」の英語表現は?

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つづいて「もぬけの殻」の英語表現をご紹介します。ただ、「もぬけの殻」という意味を表す英語の熟語や慣用句はありません。そこで、今回は近い意味を表すことができる表現を紹介します。

「gone」

「gone」は「go(行く)」の過去分詞で、「過ぎ去った」「消失した」「なくなった」「行ってしまった」などという意味を表します。この「行ってしまった」という意味では、場合によって「もぬけの殻」を訳語として使うことができますね。

1.When I went to his room, he had gone. 私が彼の部屋に行ったときには、もぬけの殻になっていた。
2.By the time the police got to the hideout of the criminals, they were gone. 警察が犯人たちのアジトについたときにはもぬけの殻だった。

「蛻る(もぬける)」という動詞も存在する!?

最後に、「もぬけの殻」に関連する言葉についてご紹介します。現代ではほとんど使われなくなりましたが、「蛻る(もぬける)」という動詞があり、「脱皮する」「外へ抜け出る」という意味を持っていました。「もぬけの殻」の大元である「もぬけ」から派生した言葉ですが、こちらはなぜかほとんど使われなくなってしまったようですね。

以前はいたのに今は無人「もぬけの殻」

今回は「もぬけの殻」についてご紹介しました。「もぬけの殻」は「人が抜け出した後、いなくなった後の空間」という意味の表現です。「もぬけ」は「セミやヘビが脱皮すること」「セミやヘビが脱皮した後の抜け殻」という意味の古語で、その「もぬけ」から派生して誕生したのが「もぬけの殻」となります。「もぬけの殻」と類義語との違いは、「もぬけの殻」には”以前まで人がいた”というニュアンスがあることですね。ニュアンスの違いに気をつけて、是非実生活でも使ってみてください。

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国語言葉の意味

“もぬけ”って何?「もぬけの殻」の意味・語源や類義語を院卒日本語教師がわかりやすく解説

「もぬけの殻」と類義語を比較!違いは?

次に、「もぬけの殻」の意味を類義語と比較しながら見ていきましょう。例文と一緒に考えていきます。「もぬけの殻」の類義語は、「無人」「猫の子一匹いない」「人っ子一人いない」です。

「無人」人がいない

1つ目の類義語は「無人」です。字を見て分かる通り「人がいないこと」という意味の単語ですね。「もぬけの殻」も”人がいない状態”を示す語であるので、類義語と言えるでしょう。例文を利用して違いを見ていきましょう。

1.ようやく詐欺グループのアジトを突き止め現場に急行したが、我々が着いた時にはもぬけの殻で、大量の電話が残されていただけだった。
2.隣の家は、5年前におじいさんが死んで以来、誰も住んでおらずもぬけの殻だ。

3.A駅は開業以来ずっと無人駅だ。
4.隣の家は、5年前におじいさんが死んで以来、誰も住んでおらず無人だ。

「もぬけの殻」と「無人」の違いは、「もぬけの殻」には”以前まで人がいた”というニュアンスがあることです。例えば例文1番では、現場は詐欺グループのアジトであったため、以前は詐欺グループが滞在し、使用していたことが窺えます。例文2、4も、5年前まではおじいさんがいたことが分から読み取れますね。このような場合に「もぬけの殻」を使用します。(もちろん、「無人」も使用可能ですよ。)

一方、「もぬけの殻」が使用できないのは例文3のような場合です。例文3では、A駅が開業以来ずっと無人で管理されている駅、つまり無人駅だということを述べています。この場合、”以前まで人がいた”のではなく、”最初から人がいなかった”というニュアンスになるので、「もぬけの殻」は使用できません

「猫の子一匹いない」人が全くいない

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猫の子一匹いない」は「人が全くいない」という意味の慣用句です。”人間はおろか、猫の子までも一匹もいない”というニュアンスで、”誰もいない”(無人である)ことを強調しています。”人がいない状態”を示す語である「もぬけの殻」は、類義語と言えるでしょう。

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