この記事では「生産構造」という考え方について学習していこう。

生産構造は、生態系や植生の遷移などを学ぶ場面で出てくることがある。少し複雑に見えるグラフが登場するため、苦手意識をもつやつも多い内容ですが、見方さえ分かってしまえば難しいことはないぞ。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

生産構造とは?

生物学で登場する生産構造(せいさんこうぞう、英語:productive structure)とは、「植物群落を、同化器官と非同化器官の垂直分布に基づいて分析する考え方」です。群落構造などともよばれます。1950年代に日本人研究者によって提唱されました。

では、もう少しかみ砕いてみましょう。

生産構造というのは、簡単な言葉で説明すれば「植物の集団(=植物群落)を縦方向にみて、光合成する部分(=同化器官)とそれ以外の部分(=非同化器官)がどれくらい存在しているかに注目する考え方」といえます。

”同化器官”は光合成に使われる器官ですので、主に葉のことを指すと思ってください。

image by iStockphoto

ポイントは、それぞれの植物のもつ葉や葉以外の単純な量ではないというところ。”縦方向(垂直方向)”ですので、地表からの高さがポイントになります。

地面から離れた高い場所に葉が多いのか、地面付近の低い位置に葉が多いのか…このような着目点で植物を分析するのが、生産構造という考え方です。

\次のページで「生産構造図」を解説!/

植物がなぜ同化器官をもっているのかといえば、それは紛れもなく光合成をするためですよね。太陽の光を受け、光合成をおこない、有機物を作り出しています。「同化器官をうまく配置し、いかに効率よく日光を受け取ることができるか」は、植物の生き方を左右する重要な問題です。

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植物体は重力に逆らうよう上に伸びていくものが多いです。

高い位置に葉を広げれば、たくさんの日光を得ることができますが、それよりも下部にある葉は日陰となってしまいます。また、上部に位置する葉を支えるために、茎や葉柄などの非同化器官もしっかりしたものをつくらなくてはいけません。

反対に、地表付近に葉を広げる植物はどうでしょうか?葉を上部まで持ち上げる必要がなく、つくらなくてはいけない非同化器官は少なめ。日光も植物体の下部までよくあたります。その反面、背の高い植物が周りにあると、すぐに日陰になってしまう点は不利でしょう。

いうなれば、生産構造に基づいて植物の体のつくりを考察することは、それぞれの植物の戦略の違いを考えることなのです。

「垂直方向のどれくらいの高さに、どれくらい葉をつけるのか」という戦略の違いは、葉の大きさや形、葉のつき方に関係するため、見た目にも差が現れます。

生産構造図

いろいろな植物群落の生産構造を理解しやすくするためにつくられるのが、生産構造図という図です。各群落の生産構造を図示することで、群落同士の生産構造を比較することも簡単になります。

生産構造図は、縦軸に地表面からの高さ、横軸には単位面積当たり(一般的には1平方メートルあたり)の植物体の乾燥重量(乾物重量)をとり、棒グラフを重ねて表現するのが一般的です。真ん中に縦軸をとり、左に同化器官の量、右に非同化器官の量を分けて示すことも多いですね。

一般的な生産構造図は、「層別刈り取り法」という方法でつくられます。

1平方メートルなど、一定面積を枠やロープで定め、その中に生えている植物を一定の高さごとに刈り取っていく方法です。刈り取りの前には、各高さで葉にあたる日光の強さ=照度を計測しておきます。照度の情報は、生産構造図を読み取る際に重要です。

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刈り取りの高さは、10cmや20cmが多いようです。たとえば、地表からの高さで0~10cmの層、10~20cmの層、20~30cmの層…という風に、10cm分の高さの植物体を集めていきます

植物体は引っこ抜くのではなく、自然に生えている状態で刈り取っていくので、もっとも高い位置にある層から着手していかなくてはいけません。

刈り取った各層の植物体を、同化器官(葉)と非同化器官(葉以外)に分け、それぞれ重量を計り、図にまとめれば生産構造図の完成です。

広葉型とイネ科型

植物によっていろいろな生産構造図がつくられますが、とくに草原にみられる植物の生産構造図は、大きく2つのタイプに大別して考えることがよくあります。広葉型イネ科型です。

広葉型

植物体の上部に広い葉を広げるタイプの植物にみられる生産構造図は広葉型とよばれます。上部に大きな葉をつけるため、同化器官が上部に多く見られるかたちがポイントです。

非同化器官は下部から上部にかけて多くなっています。大きな葉を支える茎などをもっているためですね。

image by Study-Z編集部

照度にも注目しましょう。広葉型の生産構造図では、照度がある程度の高さで極端に低下しています。これは、上部の大きな葉が日光が注ぐのを妨げてしまい、群集内部まで十分に光が届かないことを意味していますね。

イネ科型

イネ科型は名前の通り、イネ科の植物などにみられるタイプの生産構造図です。イネやエノコログサ(いわゆる”ねこじゃらし”)の生えている様子を思い浮かべてください。細い葉が、植物体の下部から斜めについていて、広葉型の植物とは大きな違いがあります。

Setaria viridis
Namazu-tron - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

生産構造図では、同化器官が植物体の中部から下部に多く見られ、非同化器官も下部に集中していることが分かります。照度は同化器官の多いところでやはり減衰しますが、広葉型よりも下の方まで光が届くのです。

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草原ではイネ科型が優性!

一般的に、草原ではイネ科型の植物の方が有利だと言われます。広葉型の植物が生えていた草原でも、時間がたつとイネ科型が増えていく傾向にあるのです。

その理由として、「植物体の下部まで光が届きやすいこと」、「からだの重量に対してつくらなくてはいけない非同化器官の量が少ないこと」などがあげられます。

その通りです。光合成できない非同化器官の細胞を生み出し、維持する栄養は、同化器官が作り出したものですからね。イネ科型の方が、光合成産物を無駄にしにくい、効率的な構造、というイメージをもっておくといいかもしれません。

一方で、届く日光が少ない日陰(森林の中など)では、イネ科型がそれほど有利ではないようです。少ない日の光を効率良く利用するためには、なるべく高いところに葉を展開する広葉型のかたちが有利にはたらくでしょう。

広葉型とイネ科型の”違い”に着目!

今回は生産構造や生産構造図についてご紹介しました。

生産構造図は、それ自体の見方だけでなく、グラフや数値が意味するところを考察し、説明できるようになることが重要です。とくに、広葉型とイネ科型の生産構造図が並んで出てきたときには、どこに違いがあるのか、その違いから何が考えられるのかをこたえられるようにしておきましょう。

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理科生態系生物

「生産構造」って何?植物や生態系に重要!広葉型とイネ科型についても現役講師がわかりやすく解説

この記事では「生産構造」という考え方について学習していこう。

生産構造は、生態系や植生の遷移などを学ぶ場面で出てくることがある。少し複雑に見えるグラフが登場するため、苦手意識をもつやつも多い内容ですが、見方さえ分かってしまえば難しいことはないぞ。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

生産構造とは?

生物学で登場する生産構造(せいさんこうぞう、英語:productive structure)とは、「植物群落を、同化器官と非同化器官の垂直分布に基づいて分析する考え方」です。群落構造などともよばれます。1950年代に日本人研究者によって提唱されました。

では、もう少しかみ砕いてみましょう。

生産構造というのは、簡単な言葉で説明すれば「植物の集団(=植物群落)を縦方向にみて、光合成する部分(=同化器官)とそれ以外の部分(=非同化器官)がどれくらい存在しているかに注目する考え方」といえます。

”同化器官”は光合成に使われる器官ですので、主に葉のことを指すと思ってください。

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ポイントは、それぞれの植物のもつ葉や葉以外の単純な量ではないというところ。”縦方向(垂直方向)”ですので、地表からの高さがポイントになります。

地面から離れた高い場所に葉が多いのか、地面付近の低い位置に葉が多いのか…このような着目点で植物を分析するのが、生産構造という考え方です。

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