この記事では「耽美」について解説する。

端的に言えば、耽美の意味は「美におぼれること、心酔すること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

かつて新聞記者として活躍し、ライターとしての経験が20年のトラコを呼んです。一緒に「耽美」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/トラコ

全国紙の記者を7年。その後、雑誌や書籍、Webでフリーの記者などとして活動中。文字の正確さ、使い方に対するこだわりは強い。

「耽美」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「耽美」が持つ意味や使い方などを見ていきましょう。

「耽美」の意味は?

まず「耽美」には、次のような意味があります。

美を最高の価値として、ひたすらその世界に心を傾け陶酔すること。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「たん-び【耽美】」

耽美は、言葉にもある「美」が、意味のポイントです。美しさを最も高く崇め、その美の世界にのめり込む、酔いしれることなどを指します。

そもそも「耽」は、度を過ごして楽しむこと、夢中になること、溺れることなどの意味です。「耽」と「美」が組み合わさったことで、耽美が持つ意味となります。

「耽美」の使い方・例文

耽美」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

\次のページで「「耽美」の類義語は?違いは?」を解説!/

1.あの紳士は、一目見た淑女に耽美さを覚え、どんどん溺れていった。
2.耽美派の作家として、日本では永井荷風、谷崎潤一郎らが知られる。
3.耽美主義は、19世紀後半のフランス・イギリスを中心に起こった。

例文1は、耽美が持つ言葉の意味をそのまま使った文になります。耽美に加え、その美しさに溺れていく様子が目に浮かぶのではないでしょうか。

例文2は、耽美派に関する説明です。耽美派は、日本では明治末期から大正にかけて輸入され、その影響を受けた作家たちのことを指します。森鴎外や上田敏らが紹介、先導し、雑誌「スバル」「三田文学」などが推し進めたことが有名です。

例文3の耽美主義も同様で、もともと19世紀後半にフランス・イギリスを中心に起こって生活そのものを芸術として官能の享楽を求めた思想でした。唯美主義、審美主義ともいわれます。

「耽美」の類義語は?違いは?

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続いて「耽美」の類義語を見てみましょう。主に「甘美」「耽溺」「心酔」などがあります。

その1「甘美」

「甘美」は「かんび」と読みます。「甘美な菓子」といった文章で使われるのが一般的です。その場合の意味は、味が程よく甘い、美味しい様子のことをさすので、覚えておきましょう。

一方で、甘美には、心地よくうっとりとした気持ちにさせるという意味もあります。例えば「甘美な気持ち」「甘美な夢」などです。こちらのほうが、耽美に近い意味となります。

その2「耽溺」

続いて、「耽溺」です。「たんでき」と読みます。

耽溺の意味は、1つのことに夢中になり、他を顧みなくなってしまうことです。お酒やギャンブルなど、不健全な遊びに溺れてしまう時などに使われます。

明治42年(1909年)に発表された、岩野泡鳴の小説のタイトルでも知られ、その内容は、主人公の作家が愛欲に溺れる生活を描いたものでした。

\次のページで「その3「心酔」」を解説!/

その3「心酔」

「心酔」は「しんすい」と読み、ある物事に心を奪われて夢中になること、ある人を心から慕って尊敬することを意味します。

耽美と1つ異なる点は、夢中になる対象が美しさに限らないことです。

「耽美」の対義語は?

耽美の対義語として、まず覚えておきたいのが、美しいものに対して醜いもの、美しくないものではないということです。耽美はあくまで、価値観や態度などを表現する言葉であり、人間の態度を表す言葉が対義語になります。そのため、耽美の対義語は、主に「自然」「現実的」「写実」などです。

その1「自然」

耽美の対義語、その1つが「自然」です。これは、耽美派がかつて、反自然主義と呼ばれたことにも由来します。

文学において、自然主義は19世紀末、フランスを中心に起こり、自然の事実を観察して真実を描く、あらゆる美化を否定する風潮でした。チャールズ・ダーウィンの「進化論」が有名です。

その2「現実的」

現実的の意味は、現実に即した様子、実利のみを追求することです。美におぼれる意味の耽美とは真逆で、美しくても醜くても同じ、ありのままを受け入れることを意味します。

そのため、耽美は非現実的なことでもあることも、覚えておいて損はありません。

その3「写実」

「写実」とは、物事をありのままに描写することです。写実主義という言葉が、よく知られています。

日本文学界で、写実主義の風潮が存在した時期もありました。写実主義は、坪内逍遥の「小説神髄」から始まり、二葉亭四迷の「浮雲」が本格的な出発点とする流れが一般的です。その後、島崎藤村の「破戒」や田山花袋の「布団」「田舎教師」など自然主義へと発展していきました。

「耽美」の英訳は?

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耽美を英語に訳すと「aestheticism」です。ただ、この単語は一般的にあまりなじみがなく、「pursuit of beauty」「obsession with beautiful things」など英熟語のほうが、耽美が持つ意味として大変わかりやすいと言えます。

\次のページで「その1「aestheticism」」を解説!/

その1「aestheticism」

aestheticism」は、耽美そのものという意味のほか、日本文学における耽美主義も、このaestheticismがそのまま用いられます。耽美主義者なども、aestheticismから派生した言葉です。

それでは、例文を見てみましょう。

・aesthete/esthete
耽美主義者

・aesthetic school
耽美派

・aesthetic
耽美的な

その2「pursuit of beauty」

耽美をわかりやすく英訳したのが「pursuit of beauty」です。そのまま英訳すると、美を追求する美しさに心酔するという、まさに耽美の意味となります。

obsession with beautiful things」という英訳もあり、これも耽美について上手に英単語が組み合わさった熟語です。

「耽美」を使いこなそう

この記事では「耽美」の意味・使い方・類語などを説明しました。

耽美は、明治時代末期から大正時代にかけて一世を風靡した耽美主義、耽美派といった風潮で有名です。その名称だけはずっと知っていても、耽美が持つ本来の意味、さらに、耽美主義とはどういった文学だったのか、類義語や対義語までしっかり知っておくことで、より知識が深まります。

耽美について、ぜひ覚えておきましょう。

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国語言葉の意味

「耽美」の意味や使い方は?例文や類語を元新聞記者がわかりやすく解説!

この記事では「耽美」について解説する。

端的に言えば、耽美の意味は「美におぼれること、心酔すること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

かつて新聞記者として活躍し、ライターとしての経験が20年のトラコを呼んです。一緒に「耽美」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/トラコ

全国紙の記者を7年。その後、雑誌や書籍、Webでフリーの記者などとして活動中。文字の正確さ、使い方に対するこだわりは強い。

「耽美」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「耽美」が持つ意味や使い方などを見ていきましょう。

「耽美」の意味は?

まず「耽美」には、次のような意味があります。

美を最高の価値として、ひたすらその世界に心を傾け陶酔すること。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「たん-び【耽美】」

耽美は、言葉にもある「美」が、意味のポイントです。美しさを最も高く崇め、その美の世界にのめり込む、酔いしれることなどを指します。

そもそも「耽」は、度を過ごして楽しむこと、夢中になること、溺れることなどの意味です。「耽」と「美」が組み合わさったことで、耽美が持つ意味となります。

「耽美」の使い方・例文

耽美」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

\次のページで「「耽美」の類義語は?違いは?」を解説!/

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