今回は「乾性遷移」「湿性遷移」という二つのキーワードに焦点を当て、学んでいこう。

乾性遷移と湿性遷移は、遷移という自然現象の一種です。遷移について知っておくことは、生態系についての学習をする際に重要になる。それぞれの遷移の具体的な流れを見ながら、乾性遷移と湿性遷移の違いについても考えていこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

1.遷移とは?

今回のテーマは乾性遷移(かんせいせんい)と湿性遷移(しっせいせんい)ですね。これらはいずれも遷移という現象に含まれます。まずは遷移について学んでおきましょう。

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遷移(せんい)とは、ある地域の植生(しょくせい)が時間とともに変化していくことを言います。植生とは、その地域にまとまって生育している植物の集団を指す用語です。

このように書くと難しく聞こえますが、決してそんなことはありません。砂利ばかりの空き地に雑草が茂るようになったり、子どものころに見た草原が、何十年か経って雑木林に変わっていたり…そのような変化こそが遷移なのです。

高校の生物学(生物基礎)で、この遷移という現象を習います。なぜ遷移や植生に注目するかといえば、「その環境にどんな植物が生えているか」は「その環境にどんな動物が生育できるか」につながってくるからです。

植物が一切生えないような環境では、昆虫も、ミミズのような土壌生物も存在できません。すると、植物や昆虫などを餌とするネズミのような小動物も生息できず、その小動物を食べる大型動物も生存が困難になります。

植生の状態や遷移は、植物だけの問題ではなく、他のあらゆる生物の存在を左右する要因の一つになるのです。

\次のページで「一次遷移と二次遷移」を解説!/

一次遷移と二次遷移

さて、この遷移ですが、その過程によって大きく2種類に分けることができます。一次遷移二次遷移です。

一次遷移とは、土壌が形成されておらず、植物も生えていない状態から始まる遷移のことを言います。土壌、いわゆる「土」は、鉱物の粒子に生物由来の有機物が混ざりこんだもの。生物がそれまで存在しなかったような大地では、土壌ができていないのです。

有機物をふくんだ土壌は、窒素やリンなどの養分があり、ふかふかとして保水力もあります。このような土壌が形成されていないところから始まる一次遷移は、進行に長い時間がかかるのが特徴です。

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一方、二次遷移すでに土壌が形成されている場所から始まる遷移です。地中に、以前生えていた植物の種子や根がのこっていることもあります。一次遷移よりも早く遷移が進行することは、想像に難くありませんね。

2.乾性遷移と湿性遷移

大変お待たせしました!では、今回のメインテーマである乾性遷移と湿性遷移について解説していきましょう。

乾性遷移陸地でおきる一次遷移のことを指します。このため、陸性遷移とよばれることもありますね。

一方で、湿性遷移湖沼などの水辺で起きる一次遷移を指す言葉です。地面は水の下になっており、当然ながら乾性遷移の時とはみられる植物が大きく異なってきます。

そうですね。一般的に、二次遷移を乾性遷移と湿性遷移にあてはめることはしないようです。それでは、乾性遷移と湿性遷移はどのように植生が変化していくのか、その一例をご紹介したいと思います。

乾性遷移のながれその1

陸上でおきる一次遷移(=乾性遷移)は、裸地という状態からスタートします。裸地は、土壌がなく植物も生えていない環境のこと。まさに、一次遷移のスタート地点です。

植物の生育に不向きな裸地という環境でも、乾燥や貧栄養に強いコケ類や地衣類が侵入してきます。時間がたつと、これらの生物の残骸が少しずつ蓄積。土壌が形成されます。

\次のページで「湿性遷移のながれその2」を解説!/

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保水力を増した土壌では、それまで生育が難しかった草本類が生えるようになり、全体的に草原へ変化していきます。

やはり時間が経過すると、草原の草本類が枯死し、土壌中の有機物がさらに豊富に。次第に背の低い樹木も生えられるような環境になっていく変化がみられます。低木が多く見られる低木林が少しずつ成立していくのです。

さらに遷移が進むと、発芽・生育に多くの日光を必要とする陽樹とよばれるタイプの高木が生えるようになり、陽樹林へと変化していきます。

樹木は寿命が長いため、大きな撹乱などがない限り安定して陽樹林が保たれるように見えるのですが…長い時間をかけ、樹種はすこしずつ移り変わっていくのです。陽樹の成長が進むと林床が暗くなるため、陽樹自身の種の発芽や幼木の成長が難しくなってしまうことによります。

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暗いところでも発芽し、幼木の成長が可能なタイプの樹木を陰樹といいます。陽樹林の内部では少しずつ陰樹が生長し、遷移の始まりから百数十年たつと、陰樹が主要な樹種となる陰樹林に変化するのです。

湿性遷移のながれその2

養分の少ない、貧栄養の湖から始まる湿性遷移を考えてきましょう。こちらも一次遷移ですので、土壌が形成されていないところから始まります。

このような環境に真っ先に入り込む生物といえばプランクトンのなかまです。植物性プランクトンの数が増えれば、それを食べるような動物性プランクトンも生育できるようになり、それらが死ぬことでさらに有機物が蓄積されていきます。

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有機物の堆積によって土壌が発達し、植生の変化が促されるのは乾性遷移と同じです。注目すべきは、湿性遷移の場合、有機物の堆積が水深を浅していくという変化があることでしょう。深かった湖沼が浅くなると、沈水性の植物などがみられるようになります。

\次のページで「遷移の流れを把握する!」を解説!/

さらに時間が経過すると、浮葉植物注水植物など、体の一部を水面以上の高さに露出するような植物が出現。有機物のさらなる堆積も進み、湖沼だったところは湿原に変化します。

ここに比較的水辺を好むような草本類が侵入すると、草原が成立し、うまくいけばそのまま乾性遷移の時と同じように遷移が進行していくのです。

遷移の流れを把握する!

乾性遷移と湿性遷移の流れをご紹介しましたが、これはあくまでも一例であり、地域や環境によっては例外的な植生の変化がみられることもあります。ですが、”遷移の流れ”の代表的な例を頭に入れておくことは大切です。それぞれの遷移のなかでみられる代表的な植物や、乾性遷移と湿性遷移の違いなどをしっかりと確認しておけば、テストでも確実に点がとれる内容になりますよ。

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理科生態系生物

3分で簡単「乾性遷移」と「湿性遷移」!現役講師がさくっとわかりやすく解説

今回は「乾性遷移」「湿性遷移」という二つのキーワードに焦点を当て、学んでいこう。

乾性遷移と湿性遷移は、遷移という自然現象の一種です。遷移について知っておくことは、生態系についての学習をする際に重要になる。それぞれの遷移の具体的な流れを見ながら、乾性遷移と湿性遷移の違いについても考えていこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

1.遷移とは?

今回のテーマは乾性遷移(かんせいせんい)と湿性遷移(しっせいせんい)ですね。これらはいずれも遷移という現象に含まれます。まずは遷移について学んでおきましょう。

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遷移(せんい)とは、ある地域の植生(しょくせい)が時間とともに変化していくことを言います。植生とは、その地域にまとまって生育している植物の集団を指す用語です。

このように書くと難しく聞こえますが、決してそんなことはありません。砂利ばかりの空き地に雑草が茂るようになったり、子どものころに見た草原が、何十年か経って雑木林に変わっていたり…そのような変化こそが遷移なのです。

高校の生物学(生物基礎)で、この遷移という現象を習います。なぜ遷移や植生に注目するかといえば、「その環境にどんな植物が生えているか」は「その環境にどんな動物が生育できるか」につながってくるからです。

植物が一切生えないような環境では、昆虫も、ミミズのような土壌生物も存在できません。すると、植物や昆虫などを餌とするネズミのような小動物も生息できず、その小動物を食べる大型動物も生存が困難になります。

植生の状態や遷移は、植物だけの問題ではなく、他のあらゆる生物の存在を左右する要因の一つになるのです。

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