ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテはドイツで活躍した詩人。劇作家、小説家、自然科学者という顔も持っている。若きウェルテルの悩みやファウストという作品の名前を聞いたことがある人も多いでしょう。文学史を代表する詩人であると同時に恋多き男でもあった。

ゲーテという名前は知っているものの、実際にどんな作品を書いたのか、どんな人物だったのか知っている人は少ない。そんなゲーテの人生や作品の特徴彼に関連する逸話について世界史に詳しいライターひこすけと一緒に解説していきます。

ライター/ひこすけ

アメリカの歴史や文化を専門とする元大学教員。ゲーテは文学史を学ぶと必ず登場する有名人。しかし実は彼のことをほとんど知らないことに気が付く。そこで、ゲーテの人物像や作品の内容について調べてみた。

1.ゲーテとはどんな人物?

Johann Heinrich Wilhelm Tischbein - Goethe in der roemischen Campagna.jpg
ヨハン・ハインリヒ・ヴィルヘルム・ティシュバイン - Neu abphotographiert im Städel-Museum Frankfurt von Martin Kraft, vorher: The Yorck Project (2002年) 10.000 Meisterwerke der Malerei (DVD-ROM), distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH. ISBN: 3936122202., パブリック・ドメイン, リンクによる

ゲーテの正式な名前はヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。18世紀のなかごろ、ドイツのフランクフルトにて生れました。小説、戯曲、詩集、叙事詩、多くの格言や名言を世に出したことでも知られています。読書家でなくてもゲーテの名前は世界中の人が知っているでしょう。まさに地球規模で知られている文豪。そして、政治家、法律家、自然学者、物理科学者でなど、並外れたマルチな天才でもありました。

1-1ゲーテが生きた時代について

ゲーテの生きていた18から19世紀にかけては世界的な大変動が起こった時代。社会の構造そのものが大きく変化し、フランスでは王政が崩壊したました。この動乱期なくして現在の民主主義は生れなかったと言われる重要な時期です。ゲーテはこの動乱の世界を体験し、数々の作品に活かしてきました。

イギリスでは産業革命が起こり、労働者階級が出現。市民こそ社会の中心という考えが生まれました。新大陸アメリカでは独立戦争が起こりアメリカは独立。ヨーロッパではフランス革命が起こり、王妃マリー・アントワネットは処刑されました。43歳のゲーテはフランス軍とプロシャ軍の闘いにプロシャ側に付いて従軍。この戦いを目撃し「ここから、そしてこの日から新たな時代が始まる」と発表。その考えが多数の人々に支持されました。

1-2ゲーテとふたりの大天才

ゲーテに影響を与えた同時代の天才は数多くいます。そのひとりがフランス皇帝ナポレオン。ナポレオンはゲーテの小説『若きウェルテルの悩み』を戦地にまで携え7回読んだとも言われています。ゲーテの作品の愛読者だったナポレオンは、1808年にゲーテと対面したとき感極まって「ここに人あり」と叫び、その後ゲーテに勲章を与えました。

ゲーテより20歳年下の天才作曲家ベートーヴェンが崇拝していたのもゲーテ。そしてゲーテもベートーヴェンの才能に衝撃を受けました。交響曲の運命を聴いたとき「こんな演奏では建物が壊れる」と叫んだという話もあるほど。ベートーヴェンはゲーテのあまりに宮廷風のふるまいに嫌気を覚え、ゲーテはベートーヴェンの難聴に同情しながらも彼の尊大なふるまいを嫌っていました。二人は互いをリスペクトしながらも、あまりに気質や思想が違っていたため距離が生れました。

2.ゲーテはどのような作品を生み出したの?

Donat Werther et Lotte.jpg
Von Johann Daniel Donat (1744-1830) - Hans Wahl, Anton Kippenberg: Goethe und seine Welt. Insel-Verlag, Leipzig 1932, S.35, Gemeinfrei, Link

ゲーテの作品はあまりに多くのジャンルにわたっているので簡単に紹介することは困難。共通していることは、どの作品も女性との恋から生まれ、恋の体験が執筆の動機になっていること。数えきれないほどの恋愛、失恋なしに彼の作品は生まれなかったのです。身分違いと世間にバッシングされた恋、人妻との恋もあります。

2-1生涯仕事を生きがいとしたゲーテ

初期の代表的作品のひとつが小説『若きウェルテルの悩み』。ゲーテが25歳のことに書いた作品です。ゲーテの名を不滅にするとともに、ナポレオンの愛読書でした。叙事詩である『ヘルマンとドローテア』はゲーテが20代の時に書いた詩劇。このころ『ファウスト』執筆に取りかかります。『ウィルヘルム・マイスターの修業時代』を発表。26歳でワイマール公国の閣僚、33.歳で宰相になりって政治に没頭します。その後大学で法律を学び弁護士になりました。

政治家をリタイアすると文学に没頭。37歳で『イタリア紀行』を発表し、文学者として再び脚光を浴びます。41歳で解剖学、植物学、光学を学び、『色彩論』『植物変態論』など出版。20代から書き続けていたライフワーク『ファウスト』1部と2部を死の直前で完成させました。ゲーテはまさに仕事人。82歳まで文を書く仕事をしていたのです。

\次のページで「2-2ゲーテの知られざる名作たち」を解説!/

2-2ゲーテの知られざる名作たち

「わらべは見たり、野なかのバラ」という歌は、一定世代以上の人ならよく知っているもの。この『野ばら』の歌詞はゲーテの詩で、恋人フリーデリケにささげたものです。『五月の歌』と並ぶ美しい抒情詩で、日本でも愛唱されました。『西東詩集』は東洋に対する興味から作られた作品。そのほか、自伝『詩と真実』などさまざまなジャンルの作品を意欲的に書きました。

ゲーテと同時代に活躍した文学者たちのなかにグリム兄弟がいます。ふたりは自分たちがまとめた『ドイツ語辞典』に、ゲーテの作品の言葉を数多く引用しました。つまり現代ドイツ語はゲーテによって完成させられたと言ってもいいほど。そのため『ドイツ語辞典』もゲーテの業績のひとつにカウントされています。

3.恋多き男だったゲーテ

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ゲーテが愛した女性の数は両手の指にあまるほど。世に名前の知られていない人もたくさんいると言われています。名前こそ知られていなくても、その恋のすべてが世界的名作となりました。現代なら許されない人妻との恋。現代では考えられないことですが、身分違いゆえに非難された恋も含まれています。彼女たちはゲーテの熱い恋の対象になったことで、永遠に生き続けられているのです。

3-1青年期に大恋愛と失恋をくりかえす

初恋は14歳の時、グレートヒェンという年上の娘でした。『ファウスト』のヒロインのモデルがまさにその人です。大学時代、年上のケートヒェンを想うようになり、詩集『アネッテ』を作ります。19歳でスザンナに失恋。『ウィルヘルム・マイスターの修業時代』第6部は彼女との対話とラブレターから成り立っています。20代で牧師の娘フリーデリケとの恋愛から『野ばら』『五月の歌』などの詩が生れました。

『若きウェルテルの悩み』のモデルとなったシャルロッテに続き、永遠の恋人シュタイン夫人と出会います。33歳年上でなん7人の子持ち。それでも12 年間交際しました。夫人との間に子をもうけましたが関係は終わります。その後、クリスティアーネが内縁の妻となり4人の子供をもうけることに。ナポレオン軍がゲーテ宅に侵入したとき、兵士たちと力を合わせゲーテを助けたことでも知られています。感動したゲーテは20年間内縁関係だったクリスティアーネと正式に結婚。 彼女との関係から『親和力』が生まれました。

3-2晩年の恋からも名作が生れる

リリー・シェーネマンとは婚約するも破局。運命の女性であるシュタイン夫人とも決裂するなど、結婚後も複数の女性と同時に関係を結んでいました。最期の恋と思われるのが72歳の時。相手は17才の少女ウルリーケでした。プロポーズするものの断られ、かなりの落ち込み見せたものの、ドイツ最大の恋歌と言われる『マリーエンバートの悲歌』を生み出しました。

二人の年齢は言い伝えによって多少違いがありますが、ゲーテと55歳ほどの差があったことは確実。あまりの年齢差にウルリーケの両親は猛反対したため、ゲーテは自分の主君に仲介を頼んで正式にプロポーズしたようです。

4.ゲーテの生涯は波乱万丈

image by PIXTA / 66747633

ゲーテの一生は現代では考えられないほど栄光と波乱に満ちたものでした。文学だけではなく権力志向の時期もありましたが、結局は文学一筋に生きる道を選びました。彼の人生は多く女性、そして当時の天才と呼ばれる友人たちに彩られています。彼らの名を聞いただけで、世界史の教科書の内容を思いだせるほど。豪華キャストが目白押しです。

\次のページで「4-1清教徒としての教育をほどこされたゲーテ」を解説!/

4-1清教徒としての教育をほどこされたゲーテ

ゲーテは4人兄妹だったものの二人が早くに亡くなったため、二人の兄妹で育ちました。裕福な家庭で、清教徒として育てられます。幼少期から頃から英才教育を受け、語学の才能がを開花されることに。少年時代に英語、フランス語、イタリア語、ラテン語、ギリシャ語、ヘブライ語をマスターしました。少年時代の愛読書は『ロビンソン・クルーソー』だったそうです。

大学で法律を学び弁護士になったゲーテ。その後、政治家になりますが、文豪シラー、英雄ナポレオン、エッカーマンなど、同時代の有名人と交友をもちます。またゲーテは亡くなったあとも、多くの思想家に影響を与えました。マルクスは「ゲーテは偉大な詩人であり、もっとも偉大なドイツ人である」と絶賛していたそうです。

4-2人間について興味を深めるゲーテ

ゲーテは人間についてさまざまなコメントを発表しています。インターネットがない時代でもあるにもかかわらず、彼のコメントはヨーロッパ中に広がりました。どれも気軽なものですが、当時の人たちの考え方をあらわしています。

学者は「たった一つの発見で有名になることもある。(略)だから人さまの創意をやっかむ」
女性は「女の一生というものは他の人のために支度したり間に合わせたりするものです」
シェークスピアは「スイスの山脈のようなものだ。その大きさにあきれて君は口もきけないだろう」。
ナポレオンは「大した男だ。何をなすべきかをつねに明確に知っていた」。

自分自身に対しては「これまでの75 年間を通して本当に楽しかったことは一月もなかった」と『エッカーマンとの対話』のなかで述べています。ゲーテにとって自分の人生は、まわりが思うほど素晴らしいものではなかったようです。

5.ゲーテの名言は今も活きるもの

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ゲーテはいろいろな人との対話からたくさんの名言や格言を残しています。彼の文学作品や名言は日本の作家たちにも大きな影響を与えることになりました。

5-1あやまちこそ人間を愛すべきものにする

読むだけでゲーテが伝えたかったことが分かるシンプルなもの。そんな名言・格言を抜粋します。

\次のページで「5-2すべての法律は老人と男によって作られている」を解説!/

人間のあやまちこそ人間をほんとうに愛すべきものにする。
人間がほんとうに悪くなると、人を傷つけて喜ぶこと以外に興味を持たなくなる。
人間は気高くあれ。情け深く、やさしくあれ。
試練は年齢とともに高まる。
人は子供を大目に見るように老人を大目に見る。
仕事をせずにのんびりしている人間ほどみじめなものはない。
人生は悪い冗談だ。

どれも私たちに人生に当てはまるもの。心当たりがあるのか、ハッとさせられるものばかりです。

5-2すべての法律は老人と男によって作られている

社会に対しても鋭く切り込むのがゲーテ流。格差や差別、世の中の不条理に関する名言も残しています。

すべての法律は老人と男によって作られている。
二つの平和な暴力がある。法律と礼儀作法とがそれだ。

さらに、人生の困難に直面したときに読んでみたいのが、この言葉。

気持ち良い生活を作ろうと思ったらすんだことをくよくよせぬこと、めったなことに腹をたてぬこと、いつも現在を楽しむこと、とりわけ人を憎まぬこと、未来を神にまかせること。

ゲーテがどうして今でも語り継がれているのかは、この素晴らしい言葉に触れれば一目瞭然でしょう。

ゲーテは激動の時代に人間を探究した天才

ゲーテが生きた時代はまさに時代の転換期。いままで当たり前のようにあった社会が崩壊していったころです。そのため、多くの人が将来に対する不安と希望を同時に抱いていました。そのようななか、自分の感情の赴くままに女性を愛し、それを作品として完成させたゲーテ。さらには、人間そのものや社会の不合理に深く切り込んでいった名コメンテーターでもありました。そんなゲーテの作品や言葉は、今の時代にも生きるもの。ゲーテの名言集は簡単に読めるので、いちど手に取ってみてはいかがでしょうか。

" /> 「ゲーテ」は何した人?人間について探求したドイツの名詩人について元大学教員が5分でわかりやすく解説 – Study-Z
ドイツヨーロッパの歴史世界史

「ゲーテ」は何した人?人間について探求したドイツの名詩人について元大学教員が5分でわかりやすく解説

ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテはドイツで活躍した詩人。劇作家、小説家、自然科学者という顔も持っている。若きウェルテルの悩みやファウストという作品の名前を聞いたことがある人も多いでしょう。文学史を代表する詩人であると同時に恋多き男でもあった。

ゲーテという名前は知っているものの、実際にどんな作品を書いたのか、どんな人物だったのか知っている人は少ない。そんなゲーテの人生や作品の特徴彼に関連する逸話について世界史に詳しいライターひこすけと一緒に解説していきます。

ライター/ひこすけ

アメリカの歴史や文化を専門とする元大学教員。ゲーテは文学史を学ぶと必ず登場する有名人。しかし実は彼のことをほとんど知らないことに気が付く。そこで、ゲーテの人物像や作品の内容について調べてみた。

1.ゲーテとはどんな人物?

Johann Heinrich Wilhelm Tischbein - Goethe in der roemischen Campagna.jpg
ヨハン・ハインリヒ・ヴィルヘルム・ティシュバイン – Neu abphotographiert im Städel-Museum Frankfurt von Martin Kraft, vorher: The Yorck Project (2002年) 10.000 Meisterwerke der Malerei (DVD-ROM), distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH. ISBN: 3936122202., パブリック・ドメイン, リンクによる

ゲーテの正式な名前はヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。18世紀のなかごろ、ドイツのフランクフルトにて生れました。小説、戯曲、詩集、叙事詩、多くの格言や名言を世に出したことでも知られています。読書家でなくてもゲーテの名前は世界中の人が知っているでしょう。まさに地球規模で知られている文豪。そして、政治家、法律家、自然学者、物理科学者でなど、並外れたマルチな天才でもありました。

1-1ゲーテが生きた時代について

ゲーテの生きていた18から19世紀にかけては世界的な大変動が起こった時代。社会の構造そのものが大きく変化し、フランスでは王政が崩壊したました。この動乱期なくして現在の民主主義は生れなかったと言われる重要な時期です。ゲーテはこの動乱の世界を体験し、数々の作品に活かしてきました。

イギリスでは産業革命が起こり、労働者階級が出現。市民こそ社会の中心という考えが生まれました。新大陸アメリカでは独立戦争が起こりアメリカは独立。ヨーロッパではフランス革命が起こり、王妃マリー・アントワネットは処刑されました。43歳のゲーテはフランス軍とプロシャ軍の闘いにプロシャ側に付いて従軍。この戦いを目撃し「ここから、そしてこの日から新たな時代が始まる」と発表。その考えが多数の人々に支持されました。

1-2ゲーテとふたりの大天才

ゲーテに影響を与えた同時代の天才は数多くいます。そのひとりがフランス皇帝ナポレオン。ナポレオンはゲーテの小説『若きウェルテルの悩み』を戦地にまで携え7回読んだとも言われています。ゲーテの作品の愛読者だったナポレオンは、1808年にゲーテと対面したとき感極まって「ここに人あり」と叫び、その後ゲーテに勲章を与えました。

ゲーテより20歳年下の天才作曲家ベートーヴェンが崇拝していたのもゲーテ。そしてゲーテもベートーヴェンの才能に衝撃を受けました。交響曲の運命を聴いたとき「こんな演奏では建物が壊れる」と叫んだという話もあるほど。ベートーヴェンはゲーテのあまりに宮廷風のふるまいに嫌気を覚え、ゲーテはベートーヴェンの難聴に同情しながらも彼の尊大なふるまいを嫌っていました。二人は互いをリスペクトしながらも、あまりに気質や思想が違っていたため距離が生れました。

2.ゲーテはどのような作品を生み出したの?

Donat Werther et Lotte.jpg
Von Johann Daniel Donat (1744-1830) – Hans Wahl, Anton Kippenberg: Goethe und seine Welt. Insel-Verlag, Leipzig 1932, S.35, Gemeinfrei, Link

ゲーテの作品はあまりに多くのジャンルにわたっているので簡単に紹介することは困難。共通していることは、どの作品も女性との恋から生まれ、恋の体験が執筆の動機になっていること。数えきれないほどの恋愛、失恋なしに彼の作品は生まれなかったのです。身分違いと世間にバッシングされた恋、人妻との恋もあります。

2-1生涯仕事を生きがいとしたゲーテ

初期の代表的作品のひとつが小説『若きウェルテルの悩み』。ゲーテが25歳のことに書いた作品です。ゲーテの名を不滅にするとともに、ナポレオンの愛読書でした。叙事詩である『ヘルマンとドローテア』はゲーテが20代の時に書いた詩劇。このころ『ファウスト』執筆に取りかかります。『ウィルヘルム・マイスターの修業時代』を発表。26歳でワイマール公国の閣僚、33.歳で宰相になりって政治に没頭します。その後大学で法律を学び弁護士になりました。

政治家をリタイアすると文学に没頭。37歳で『イタリア紀行』を発表し、文学者として再び脚光を浴びます。41歳で解剖学、植物学、光学を学び、『色彩論』『植物変態論』など出版。20代から書き続けていたライフワーク『ファウスト』1部と2部を死の直前で完成させました。ゲーテはまさに仕事人。82歳まで文を書く仕事をしていたのです。

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