この記事では「しがらみ」について解説する。
端的に言えばしがらみの意味は「まとわりつくもの」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
情報誌系のライターを10年経験した柊 雅子を呼んです。一緒に「しがらみ」の意味や例文、類語などを見ていきます。
ライター/柊 雅子
イベントの司会や雑誌の記事作成を仕事としてきたライター、柊 雅子。「この世の中、しがらみに縛られることなく過ごしていくことは難しい」と実感している彼女が「しがらみ」について解説する。
「しがらみ」には、次のような意味があります。
1.水流をせき止めるために、川の中にくいを打ち並べて、それに木の枝や竹などを横に結びつけたもの。
2.引き留め、まとわりつくもの。じゃまをするもの。「世間の―」
出典:デジタル大辞泉(小学館)「しがらみ」
「山川に 風のかけたるしがらみは 流れもあへぬ もみぢなりけり」 春道列樹
この歌は小倉百人一首に収められている歌です。「山の中の谷川に風がしがらみをかけている。このしがらみは秋風に舞い落ちた沢山の紅葉でできていたよ」…これは谷川に舞い落ちた美しい紅葉が岩や石にひっかっかり、川の水の流れをせき止めて流れにくくしている情景を詠んだもの。紅葉がひっかかっている情景を「風のかけたるしがらみ(風がかけたしがらみ)」と表現している訳です。また「しがらみ」は水の流れを穏やかにしたり、流れて来るものをせき止めるという例え以外にも使われます。
「秋はぎをしがらみふせてなく鹿の めには見えずておとのさやけさ」古今和歌集・よみ人しらず
「絡みつく秋萩を倒して鳴く鹿の姿は見えないが、澄んだ鳴声は聞こえる」…この歌で「しがらみ」が表しているのは鹿の足元に秋萩が絡みついてくる情景ですね。
また「しがらみ」は水の流れをせき止め、邪魔をすることから「恋の障害の例え」として用いられ歌に詠まれています。そうして「しがらみ」は「絡みつくもの・邪魔をするもの」全般を指す言葉となっていったのですね。
次に「しがらみ」の語源を確認しておきましょう。
「しがらみ」の語源は「柵(しがらみ)」。川などの水の流れを穏やかにしたり、流木等をせき止めたりするために、杭を打ち込み、その杭の間に枝等を通したものを「柵(しがらみ)」といいます。この「柵」には川上から流れて来た色んなものが絡みつきますよね。そこから絡みついて邪魔をしたり引き止めたりするものを「しがらみ」というようになったと言われています。
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「しがらみ」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。
1.その政治家は献金を一切受け取っていないので、しがらみがない。
2.この世の中はしがらみだらけだ。
3.「しがらみを断ち切るためにも、知らない土地へ行って一からやり直そう」とあなたは言った。
例文1~3は「まとわりつくもの・邪魔をするもの」といった意味の「しがらみ」を使った例文です。
政治活動を行うには費用がかかるため、殆どの政治家は献金を募っています。しかし、献金してもらうということは献金する側とされる側に何らかのしがらみができるということ。支持団体と政治家の関係を考えてみるとよくわかりますね。特定の支持団体から献金を受けると、その団体の要求を無視できなくなります。しかし、どこからも献金を受けなければその政治家は自分の信念に基づいて行動することができるということになりますね。
「自分」と「他者」が存在している以上、世の中に「しがらみ」は存在するといえますが、私の親友に「連絡手段としてガラケーは持つが、スマホは持たない」という人がいるのです。「誰かと繋がる必要は私にはない。スマホはしがらみの素」と言い切るその人は潔いと言えますね。
「しがらみ」を断ち切る一番の方法はしがらみのないところへ行くこと。社会生活を営む上でこの方法は簡単に実行できることではありませんが、効果的な方法です。
足かせとは昔、罪人の逃走を防止するために足にはめた拘束具のことです。この拘束具は自由を奪うもの。そこから「行動を妨げ、邪魔をするもの」という意味を持つようになりました。
\次のページで「「しがらみ」の対義語は?」を解説!/
次に「しがらみ」の対義語についてみていきましょう。
「しがらみ」の対義語はありません。
流れを緩やかにしたりする「柵(しがらみ)」にも、「まとわりつくもの・邪魔をするもの」という意味にも対義語はないのです。
英文1. I wanted to escape the constraints of society.
私は世間のしがらみから逃れたいと思った。
英文2. I wanted to get rid of the company's shackles and be free.
私は会社のしがらみを捨てて、自由になりたいと思った。
英文3. The temple in Kyoto has a beautiful fence made of bamboo.
京都の寺院には竹でできた美しい柵があります。
英文1の 「constraints of society」は「世間のしがらみ」と訳されます。「constraints」は「圧迫・堅苦しい感じ」といった意味です。
英文2の「company's shackles」は「会社のしがらみ」という意味。「shackles」は「constraints」よりも「束縛・拘束・足かせ」といった強い意味合いを持ちます。
英文3は「柵(さく)」という意味の「しがらみ」です。
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この記事では「しがらみ」の意味・使い方・類語などを説明しました。
現在では「まとわりつくもの・邪魔をするもの」といったマイナスイメージで用いられる「しがらみ」ですが、最初からそのようなイメージがあった訳ではなく、その語源は水の流れを穏やかにしたり流木から橋を守るために用いられる建築技法であることがわかりましたね。
万葉集や百人一首…歌に詠まれている「しがらみ」。日本語の美しさを感じながら、そこに詠まれている情景を思い浮かべてみてください。