今回のテーマは「炭素循環」です。炭素は他の元素を束にしてもまったく歯が立たないほど多様な化合物の世界を作り出しており、多様な状態を示している。炭素は形を変えながら地殻、海洋、生物圏、大気圏を循環しているんです。
生物に詳しい現役理系大学院生ライターCaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立大学の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。

炭素循環とは

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炭素循環とは、生物、海洋、大気、堆積の間、つまり地球上のあらゆる物質の間で炭素が交換されながら循環する生物地球化学的循環です。地球の大部分を形成している4つの元素 (炭素、水素、酸素、窒素) が生物・無生物の間を巡って複雑に絡み合い循環する経路のうちの特に炭素に注目した場合をいいます。

炭素は二酸化炭素、炭酸イオン、炭酸水素イオンなどの形で大気中や海水に含まれ、生体を構成する有機化合物の成分でもあり、土壌や化石燃料を含む鉱物や主要成分です。窒素サイクルと水循環と共に、炭素循環は地球が生命を維持できるようにする鍵となっています。

炭素循環の歴史と4つのリザーバー

炭素循環の歴史と4つのリザーバー

image by Study-Z編集部

炭素循環は、18世紀フランスのアントワーヌ・ラヴォアジエによって最初に述べられ、同じく18世紀のイギリスのジョゼフ・プリーストリーによって論文が発表されました。その後イギリスのハンフリー・デイビーによって普及しました。

炭素循環は一般的に、大気圏、生物圏、海洋圏、地圏(化石燃料を含む有機堆積物)の4つの炭素の保管庫(リザーバー)間を相互に移動し循環する経路で成り立っています。まず大気中にある二酸化炭素は炭素同化作用によって植物を構成する有機物となり、動物はこの植物を食料として有機物をつくる。植物や動物は生きているうちは呼吸作用によって生じた二酸化炭素を体外に放出し、排泄物や死体は地上で細菌、菌類により分解され再び二酸化炭素となり再び大気へと還る。このように炭素循環はめぐっているのです。次にそれぞれのリザーバーについて解説していきます。

様々な炭素循環

ここからは様々な炭素循環をみていきましょう。

1.大気圏の炭素循環

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地球の大気中の炭素は、二酸化炭素とメタンの2つの状態で存在しています。全大気のなかでは0.03~0.04%と少量ですが、これらのガスの両方が大気中の熱を吸収し、保持し、温室効果の役割を果たしているのです。

二酸化炭素は主に光合成を通じて大気中から植物や動物などの生物圏へと入ります。さらに二酸化炭素は、大気から直接水域(海や湖など)に溶け込み、さらに雨滴に溶解し地上へと降り注ぎ、風化反応により炭酸塩として土壌へと吸収され大気から別のリザーバーへと循環するのです。そして生物は呼吸により二酸化炭素を放出し、死後は菌類やバクテリアが遺骸を構成する有機物質を分解し、酸素がある場合は二酸化炭素、酸素が無い場合はメタンへと変え、大気へと炭素を返します。

産業の発達した現代では、化学燃料の燃焼や石灰岩反応(セメントの形成など)による放出も大気中の二酸化炭素レベルの増加を招いている大きな要因です。

\次のページで「2.生物圏の炭素循環」を解説!/

2.生物圏の炭素循環

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炭素は有機物の基本骨格をつくり、すべての生物の構成材料です。このため、生物体の乾重量(乾燥後の重量)の半量近くを占め、地上生物圏に貯蔵されている炭素は生きている生物に約550ギガトン、死んだ生物に約1200ギガトンと言われています。

生物圏のほとんどの炭素は森林に貯蔵されており、地球の地上炭素の約86%です。大気中の炭素は光合成により有機物へと変換されて植物をはぐくみ、動物が植物を食べると、有機炭素は他の形態に変換され、動物が生きていくために利用されます。また動植物は呼吸により二酸化炭素を排出し、大気へと炭素が還るのです。同じことが細菌などにも当てはまり、死んだ植物や動物は分解され、炭素は土壌や大気へ還ります。つまり、生物圏では食物連鎖のあらゆる段階で炭素が、ある生物から別の生物に巡って、さらに他のリザーバーへと巡っているのです。

3.海洋圏炭素循環

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海洋炭素循環は、世界の炭素循環の中心プロセスであり、無機炭素と有機炭素の両方を含んでいます。陸上から河川を通じて炭素を受け取り、水が大気と頻繁に接触する表層では、大気中の二酸化炭素と水に溶けている二酸化炭素の分圧差により炭素の交換が行われており、大気中と溶存無機炭素(DIC)の平衡を保っているのです。

海洋の循環に伴って表層の海水と深層の海水の間でも炭素のやり取りが行われ、海底では炭酸塩鉱物の堆積物として沈殿します。また、海水中の植物性プランクトンにより二酸化炭素が光合成により有機炭素として海洋生物に取り込まれ、一方では有機物が分解されて二酸化炭素に無機炭素に変換されているのです。海洋炭素循環はほかのリザーバー間との炭素の循環だけでなく、非生物と生物間の物質の間の炭素の循環も行っています。

4.地圏の炭素循環

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地圏の炭素循環は他のリザーバーと比較してとてもゆっくりと循環しています。地球のマントルに貯蔵された炭素の多くは、地球が形成されたときにそこに貯蔵された炭素です。地圏に貯蔵された炭素のうち、約80%が石灰岩とその誘導体であり、海洋生物の殻(貝やサンゴなど)に貯蔵された炭酸カルシウムの沈下から形成されています。残りの20%は、化石燃料などの石油や石炭で、これらは枯れた植物や動物の死が細菌などによって消化されず、高い熱と圧力下での不溶性有機物(ケロゲン)として地圏に貯蔵された有機炭素です。これらの地圏の炭素は何百万年もそこに残ることができます。

地圏に含まれる炭素は土壌中の微生物や植物の根に利用されて生物圏へと循環したり、火山活動による堆積物中の炭酸塩から二酸化炭素へと変換され大気圏へと循環するのです。そして、産業革命以降には、化石燃料を燃やして炭素を大気中に放出しています。

炭素循環と地球温暖化

産業革命以降、我々人間は森林を伐採し、化石炭素を地圏から採掘し利用してきました。大気中の二酸化炭素は産業前の水準に比べ52%も増加し、これにより大気中の炭素が増え、二酸化炭素やメタンの持つ温室効果で大気と地球表面の加熱が強まり、地球温暖化を引き起こしているのです。さらに、大気中の二酸化炭素の増加により、海洋表面に溶ける炭素が増え、それにより酸性度も約30%増加し、海洋の化学的性質を根本的に変化させています。

地球温暖化への対策としてその抑制が求められており、炭素循環のメカニズムのすべての過程を取り入れた炭素循環モデルが考えられ、盛んに研究や議論が行われている分野です。この炭素循環システムのバランスの回復は国際的な優先事項であり、パリ気候協定と持続可能な開発目標の両方に記載されています。

イラスト使用元:いらすとや

" /> 3分で簡単「炭素循環」生態系を支える重要な仕組みについて現役理系大学院生がわかりやすく解説! – Study-Z
有機化合物無機物質物質の状態・構成・変化理科生態系生物

3分で簡単「炭素循環」生態系を支える重要な仕組みについて現役理系大学院生がわかりやすく解説!

今回のテーマは「炭素循環」です。炭素は他の元素を束にしてもまったく歯が立たないほど多様な化合物の世界を作り出しており、多様な状態を示している。炭素は形を変えながら地殻、海洋、生物圏、大気圏を循環しているんです。
生物に詳しい現役理系大学院生ライターCaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立大学の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。

炭素循環とは

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炭素循環とは、生物、海洋、大気、堆積の間、つまり地球上のあらゆる物質の間で炭素が交換されながら循環する生物地球化学的循環です。地球の大部分を形成している4つの元素 (炭素、水素、酸素、窒素) が生物・無生物の間を巡って複雑に絡み合い循環する経路のうちの特に炭素に注目した場合をいいます。

炭素は二酸化炭素、炭酸イオン、炭酸水素イオンなどの形で大気中や海水に含まれ、生体を構成する有機化合物の成分でもあり、土壌や化石燃料を含む鉱物や主要成分です。窒素サイクルと水循環と共に、炭素循環は地球が生命を維持できるようにする鍵となっています。

炭素循環の歴史と4つのリザーバー

炭素循環の歴史と4つのリザーバー

image by Study-Z編集部

炭素循環は、18世紀フランスのアントワーヌ・ラヴォアジエによって最初に述べられ、同じく18世紀のイギリスのジョゼフ・プリーストリーによって論文が発表されました。その後イギリスのハンフリー・デイビーによって普及しました。

炭素循環は一般的に、大気圏、生物圏、海洋圏、地圏(化石燃料を含む有機堆積物)の4つの炭素の保管庫(リザーバー)間を相互に移動し循環する経路で成り立っています。まず大気中にある二酸化炭素は炭素同化作用によって植物を構成する有機物となり、動物はこの植物を食料として有機物をつくる。植物や動物は生きているうちは呼吸作用によって生じた二酸化炭素を体外に放出し、排泄物や死体は地上で細菌、菌類により分解され再び二酸化炭素となり再び大気へと還る。このように炭素循環はめぐっているのです。次にそれぞれのリザーバーについて解説していきます。

様々な炭素循環

ここからは様々な炭素循環をみていきましょう。

1.大気圏の炭素循環

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地球の大気中の炭素は、二酸化炭素とメタンの2つの状態で存在しています。全大気のなかでは0.03~0.04%と少量ですが、これらのガスの両方が大気中の熱を吸収し、保持し、温室効果の役割を果たしているのです。

二酸化炭素は主に光合成を通じて大気中から植物や動物などの生物圏へと入ります。さらに二酸化炭素は、大気から直接水域(海や湖など)に溶け込み、さらに雨滴に溶解し地上へと降り注ぎ、風化反応により炭酸塩として土壌へと吸収され大気から別のリザーバーへと循環するのです。そして生物は呼吸により二酸化炭素を放出し、死後は菌類やバクテリアが遺骸を構成する有機物質を分解し、酸素がある場合は二酸化炭素、酸素が無い場合はメタンへと変え、大気へと炭素を返します。

産業の発達した現代では、化学燃料の燃焼や石灰岩反応(セメントの形成など)による放出も大気中の二酸化炭素レベルの増加を招いている大きな要因です。

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