この記事では「くたびれる」について解説する。

端的に言えば「くたびれる」の意味は「疲労する」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

博士(文学)の学位を持ち、日本語を研究している船虫堂を呼んです。一緒に「くたびれる」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/船虫堂

博士(文学)。日頃から日本語と日本語教育に対して幅広く興味と探究心を持って生活している。生活の中で新しい言葉や発音を収集するのが趣味。モットーは「自分も楽しみながら詳しく、わかりやすく言葉をご紹介」。まだまだ人生には「くたびれ」ていない。

「くたびれる」の意味や語源・使い方まとめ

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骨折り損のくたびれもうけ(ほねおりぞんのくたびれもうけ)」ということわざがあります。見合わない仕事をして疲れただけという意味で使われますね。その一方で「このシャツはそろそろくたびれてきた」などという言い方もあります。「くたびれる」とはどのような言葉なのでしょうか。それでは早速「くたびれる」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「くたびれる」の意味は?

まず、「くたびれる」の意味を辞書で確認しましょう。『精選版 日本国語大辞典』の「草臥」の項目を引用します。

【草臥】
〘自ラ下一〙 くたび・る 〘自ラ下二〙
1.体や頭を使い過ぎて疲れる。疲労する。
※古今著聞集(1254)一六「さまざまのつとめに身もくたびれにけるにや」
※滑稽本・古朽木(1780)一「なあにあればかり歩いて草臥(クタビレ)るものかい」
2. (特に、動詞の連用形に接続して) その動詞の示す行為を長時間にわたって行なって、その結果、疲れていやになる。「待ちくたびれる」など。
※文机談(1283頃)五「隆円もくちすきほどにかたりくたびれて」
3.人が年老いたり、物などが長く使われたりしたために古びてみすぼらしくなる。
※中華若木詩抄(1520頃)五「鏡を見て、くたびれた也。何事をせんするも、年のわかきときのこと也」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一「ちと疲労(クタビ)れた博多の帯に」
 
[補注]「草臥」の字を慣用するのは、「詩経」の鄘風の跋渉に、クサブシ(草臥)ミヅワタル(水渡)とあることによる。〔大言海〕

出典:『精選版 日本国語大辞典』(小学館)「草臥」より抜粋

1.の「疲労する」という意味がおそらく「くたびれる」という言葉を聞いて第一に浮かんでくる意味なのではないでしょうか。この意味のポイントは疲れる原因で「使いすぎて」という部分が以降の意味に関わってきます。

2.で示されている意味は、主に「待ちくたびれる」の形式で使われる場合の「くたびれる」です。使用される形はほとんど「待ちくたびれる」で、日常使っている言葉では前につく動詞は「待つ」のほかには無いと思われるのですが、他の動詞にも使えるような一般的な説明が書かれています。ここで注目したいのは、前につく動作(例えば「待つ」こと)を長時間にわたって行った結果、疲れて嫌になるという、1で示した「使いすぎて」と共通するという点です。

3.で示されている意味が、先ほど挙げた「シャツがくたびれてきた」など、物の古びてきた状態・様子を表すときに使用する意味で、ここでも「みすぼらしくなる」原因は「長く使われたりしたため」とあります。この意味は物にも人間にも使えるため、人間の場合は「年老いた」、つまり長く生きたことが原因となりますが、「長きにわたって」という点がやはり共通していると言えるでしょう。

まとめると、「くたびれる」は1.疲れたり、2.いやになったり、3.みすぼらしくなったりするわけですが、それは長期間にわたって使用されることによって生じるというニュアンスを含んでいます。

「くたびれる」の語源は?

次に「くたびれる」の語源を確認しておきましょう。まずは漢字表記についてです。辞書の見出しにあるように「くたびれる」は漢字で書くと「草臥れる」と書くのですが、『精選版 日本国語大辞典』では明治期の国語辞典である『大言海』の語源説にある『詩経』(中国最古の詩篇)の記述を引用しています。ただ、この語源説には問題があり、『詩経』の中に「草臥(疲れて草に臥す)」という単語が載っていないという説がるのです。実際に『詩経』をデジタル化したWebサイトで「草臥」の文字列で簡易的に検索をかけてもヒットしません。ですから、この語源説の真偽については注意が必要です。

「くたびれる」の文語体の動詞は「くたびる」なのですが、この動詞を分析すると語の前半が「kut」という音の並びになっています。この「kut」は「朽ちる」の意味の「朽つ」と関連すると言われており、ここからも「長い時間をかけて」物が悪くなるという意味内容を読み取れるでしょう。

\次のページで「「くたびれる」の使い方・例文」を解説!/

「くたびれる」の使い方・例文

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それでは次に「くたびれる」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.いろいろなことが重なってくたびれてしまった。
2.夫の帰りが遅いので待ちくたびれて寝てしまった。
3.このソファーもくたびれてきたから替え時だ。

それぞれの用例は先ほど引用した辞書の意味の説明に対応して作成しています。

まず、1.は、「疲労する」意味での「くたびれる」です。いろいろなことがあったことにより疲労・疲弊してしまったという意味で用いています。この「疲労」については辞書の記述に「頭や体を……」とあるように心身の疲労どちらも表すことが可能です。

つづいて、2.の例文。「待つ」に「くたびれる」が接続して「待ちくたびれる」という定型的な表現になっています。

最後に、3.の例文ですが、これが長い時間使い続けたことにより物が古びてきたという意味の用例です。

「くたびれる」の類義語は?違いは?

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さて、それでは次に「くたびれる」の類義語について検討してみましょう。

「バテる」

俗語に近い表現ですが、「疲れ果てる」という意味の「バテる」という言葉があります。「バテバテ」などのような表現もよく目にしますね。一説によると「疲れ果てる」の「果てる」が語源と言われています。

「くたびれる」との違いは、「疲労」の意味では用いますが、先に挙げたソファーやシャツのようにものが主語の時には使えないという点です。また、「バテる」は体力的な疲労を表すことが主で、気持ちや精神がつかれた場合には使用しない点も相違点と言えるでしょう。

\次のページで「「くたびれる」の対義語は?」を解説!/

「くたびれる」の対義語は?

つづいて、「くたびれる」の対義語について検討していきましょう。面白いことに「疲れをいやす」とか、「疲労を取り除く」と言う言葉はいくつか見られるのですが、「くたびれる」と対応するような「疲れが取り除かれた」という結果を表す言葉はあまり見られません

「回復する」

なんだか面白みのない語をあげてしまった感がありますが、それはなぜかというと、「くたびれる」に対応する、かつ日常使われる和語の対義語が管見の限り見当たらなかったからです。回復する。心身の疲労が取り除かれるという意味で説明するまでもないでしょう。

外来語ですと、リカバーすると言う言葉があり、こちらは「回復しようとする」という意味のほかに「回復した」という意味も持っており、「くたびれる」と対応しそうです。

「くたびれる」を使いこなそう

この記事では「くたびれる」の意味・使い方・類語などを説明しましたが、とくに、語源の所に注目をしました。心身の疲労という意味から転用されて物が疲労する=古びるという意味で用いられる点はこの言葉の面白い点ですね。

一方語源説では辞書にも載っているが真偽のほどが特定できないという例がありました。今回は辞書型の辞書の記述を引用していることにより生じたことですが、語源説に言及するときは元の資料にあたるなど注意を払う必要がありますね。

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国語言葉の意味

「くたびれる」の意味や使い方は?例文や類語を日本語研究家がわかりやすく解説!

この記事では「くたびれる」について解説する。

端的に言えば「くたびれる」の意味は「疲労する」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

博士(文学)の学位を持ち、日本語を研究している船虫堂を呼んです。一緒に「くたびれる」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/船虫堂

博士(文学)。日頃から日本語と日本語教育に対して幅広く興味と探究心を持って生活している。生活の中で新しい言葉や発音を収集するのが趣味。モットーは「自分も楽しみながら詳しく、わかりやすく言葉をご紹介」。まだまだ人生には「くたびれ」ていない。

「くたびれる」の意味や語源・使い方まとめ

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骨折り損のくたびれもうけ(ほねおりぞんのくたびれもうけ)」ということわざがあります。見合わない仕事をして疲れただけという意味で使われますね。その一方で「このシャツはそろそろくたびれてきた」などという言い方もあります。「くたびれる」とはどのような言葉なのでしょうか。それでは早速「くたびれる」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「くたびれる」の意味は?

まず、「くたびれる」の意味を辞書で確認しましょう。『精選版 日本国語大辞典』の「草臥」の項目を引用します。

【草臥】
〘自ラ下一〙 くたび・る 〘自ラ下二〙
1.体や頭を使い過ぎて疲れる。疲労する。
※古今著聞集(1254)一六「さまざまのつとめに身もくたびれにけるにや」
※滑稽本・古朽木(1780)一「なあにあればかり歩いて草臥(クタビレ)るものかい」
2. (特に、動詞の連用形に接続して) その動詞の示す行為を長時間にわたって行なって、その結果、疲れていやになる。「待ちくたびれる」など。
※文机談(1283頃)五「隆円もくちすきほどにかたりくたびれて」
3.人が年老いたり、物などが長く使われたりしたために古びてみすぼらしくなる。
※中華若木詩抄(1520頃)五「鏡を見て、くたびれた也。何事をせんするも、年のわかきときのこと也」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一「ちと疲労(クタビ)れた博多の帯に」
 
[補注]「草臥」の字を慣用するのは、「詩経」の鄘風の跋渉に、クサブシ(草臥)ミヅワタル(水渡)とあることによる。〔大言海〕

出典:『精選版 日本国語大辞典』(小学館)「草臥」より抜粋

1.の「疲労する」という意味がおそらく「くたびれる」という言葉を聞いて第一に浮かんでくる意味なのではないでしょうか。この意味のポイントは疲れる原因で「使いすぎて」という部分が以降の意味に関わってきます。

2.で示されている意味は、主に「待ちくたびれる」の形式で使われる場合の「くたびれる」です。使用される形はほとんど「待ちくたびれる」で、日常使っている言葉では前につく動詞は「待つ」のほかには無いと思われるのですが、他の動詞にも使えるような一般的な説明が書かれています。ここで注目したいのは、前につく動作(例えば「待つ」こと)を長時間にわたって行った結果、疲れて嫌になるという、1で示した「使いすぎて」と共通するという点です。

3.で示されている意味が、先ほど挙げた「シャツがくたびれてきた」など、物の古びてきた状態・様子を表すときに使用する意味で、ここでも「みすぼらしくなる」原因は「長く使われたりしたため」とあります。この意味は物にも人間にも使えるため、人間の場合は「年老いた」、つまり長く生きたことが原因となりますが、「長きにわたって」という点がやはり共通していると言えるでしょう。

まとめると、「くたびれる」は1.疲れたり、2.いやになったり、3.みすぼらしくなったりするわけですが、それは長期間にわたって使用されることによって生じるというニュアンスを含んでいます。

「くたびれる」の語源は?

次に「くたびれる」の語源を確認しておきましょう。まずは漢字表記についてです。辞書の見出しにあるように「くたびれる」は漢字で書くと「草臥れる」と書くのですが、『精選版 日本国語大辞典』では明治期の国語辞典である『大言海』の語源説にある『詩経』(中国最古の詩篇)の記述を引用しています。ただ、この語源説には問題があり、『詩経』の中に「草臥(疲れて草に臥す)」という単語が載っていないという説がるのです。実際に『詩経』をデジタル化したWebサイトで「草臥」の文字列で簡易的に検索をかけてもヒットしません。ですから、この語源説の真偽については注意が必要です。

「くたびれる」の文語体の動詞は「くたびる」なのですが、この動詞を分析すると語の前半が「kut」という音の並びになっています。この「kut」は「朽ちる」の意味の「朽つ」と関連すると言われており、ここからも「長い時間をかけて」物が悪くなるという意味内容を読み取れるでしょう。

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