この記事では「てにをは」について解説する。

端的に言えばてにをはの意味は「日本語の助詞や助動詞を表す言葉の一つ」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

博士(文学)の学位を持ち、日本語を研究している船虫堂を呼んです。一緒に「てにをは」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/船虫堂

博士(文学)。日頃から日本語と日本語教育に対して幅広く興味と探究心を持って生活している。生活の中で新しい言葉や発音を収集するのが趣味。モットーは「楽しみながら詳しく、わかりやすく言葉をご紹介」。

「てにをは」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「てにをは」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。「てにをは」の、現代使われている一般的な意味は日本語の助詞に相当する言葉、つまり「て」、「に」、「を」、「は」に類する言葉、もしくはもう少し広く意味をとって助詞に助動詞を加えたいわゆる「付属語」一般のことを言います。

なお、この「てにをは」という不思議な言葉(字)の並びは、平安時代以降行われるようになったといわれる「漢文訓読」の方法が由来です。

「てにをは」の意味は?

「てにをは」について、以下のような歴史的経緯の説明があります。『精選版 日本国語大辞典』を参照してみましょう。

てにをは【弖爾乎波・手爾遠波】
〘名〙 (主要な助詞「て」「に」「を」「は」の四つを連結して、同類の諸語の総称としたもの)
1. 漢文を訓読する時、補読しなければならないような語。国語の助詞、助動詞、接尾辞、用言の活用語尾など。てには。
※八雲御抄(1242頃)六「わが身も草におかぬばかりをといへる歌は、いとしもなき人は、おかぬばかりぞなどいふにや。それは又、てにをはのやうをしらざる也」
2. 助詞・助動詞等の用法。文の表現法。言葉づかい。てには。
※八雲御抄(1242頃)六「てにをはの少したがひたるよりは、それを合はせんとだびて聞えたるは、まさりてわろし」
※談義本・根無草(1763‐69)後「虚言(うそ)あれば、てれんあり。〈略〉文(あや)なすといひ、懸けるといふ。手爾於葉(テニオハ)の違(たが)ひはあれど」
3. 話の前後の関係。話のつじつま。てには。
※談義本・教訓乗合船(1771)四「古き軍談上手の弁者は、〈略〉てにをはを面白く談じ」
4. 付属語のうち、活用のないもの。助詞をいう。大槻文彦の用法。てには。〔語法指南(1889)〕
 
[語誌]平安時代、漢文訓読に使用されたヲコト点のうち、博士家で用いた点図では、漢字の四隅の点を、左下から右まわりに読むと「てにをは」となる(左下から読むのは、漢字の四声、平上去入の呼び方と同じ)。これによって点法を「てにをは点」と総称するとともに、この「て・に・を・は」四語によって、点図の点で表わされる付属語の類を代表させたのである。→「てには」の語誌

出典:『精選版 日本国語大辞典』(小学館)「弖爾乎波・手爾遠波」より

1.で示されている意味が最も語源に近い意味合いでの用法です。漢文の訓読は、そもそも中国大陸から渡ってきた古文献を日本人が日本語の文法に置き換えて読むことで、現代人の我々は訓点、つまり返り点や送り仮名、句読点を手掛かりに読んでいます。それは何のためかというと、古代中国語と日本語(文語体)は言葉を並べる仕組みが異なるため、日本語の読み方に即して読むためには辞書の記述にあるような助詞や助動詞、活用語尾などを補って読む必要があるからです。その、漢文訓読の際に補う言葉という意味で「てにをは」と言う言葉はそもそも使われていました。

2.と3.はそこから派生した意味合いで、用法とか規範というニュアンスを含みます。2.は言葉遣いの文法的な規範の意味で使われます。これは「てにをはがおかしい」など、現代でも通用する用法なのではないでしょうか。3.となるとより大きな括りとなり、「てにおは」、つまり助詞や助動詞が繋ぐの関係を指す用法です。

ここまでが一般的な用法と言えるでしょう。

4.は日本語学の文法研究の専門用語です。大槻文彦(1847-1928)は日本初の近代的国語辞典『言海』の編纂者として知られる国語学者ですが、辞書『言海』の編纂と同時に日本語の文法研究にも着手しており、その功績はのちの国語学、日本語学の文法研究に多大な影響を与えました。大槻文彦が活躍した明治初期の時代は多くの学者たちが西洋の知見を採り入れながら日本語文法の整備に取り組んだ時代ですが、大槻文彦がまとめた、いわゆる「大槻文法」の中にこの用語が出てくるのです。現在一般に使用されている文法用語でいう「助詞」にあたります。

「てにをは」の語源は?

次に「てにをは」の語源を確認しましょう。これは『精選版 日本国語大辞典』の[語誌]の項目が役に立ちます。なぜ、漢文訓読で補う言葉のことを「てにをは」と呼んだのか。それは昔の日本人が開発した漢文訓読法である「ヲコト点」が由来となっているのです。

「ヲコト点」とは、平安時代中期から中世にかけておもに用いられたといわれる漢文訓読のためにほどこす補助記号で、流派によってさまざまな点の打ち方があるのですが、学術の分野で朝廷に仕えた家系である「博士家」で使用された点の並びからヲコト点と呼ばれるようになりました。そして、そのヲコト点の点の並びが「てにをは」の語源になっているのです。

ちなみに「てにをは」の由来となったヲコト点の並びは以下の通り。右上から下に読んでいくと「ヲ・コ・ト」となり、四隅を左下から右回りに読んでいくと「テ・ニ・ヲ・ハ」となりますね。

    ム    
 〇━━━〇━━━〇
 ┃       ┃
 ┃       〇コト
カ〇   〇   ┃
 ┃   ノ   〇ト 
 ┃       ┃
 〇━━━〇━━━〇
    ス    

 

\次のページで「「てにをは」の使い方・例文」を解説!/

「てにをは」の使い方・例文

「てにをは」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.てにをは一つで発言のニュアンスが変わってくる。
2.てにをはにおかしいところがあったら教えてください。
3.てにをはをおろそかにせずに書きましょう。

1.の例文は最も広い意味で「てにをは」を使った用法です。発言内の言葉の使い方、言い回しという意味合いで「てにをは」を使用しています。

2.の例文ではもう少し意味を狭めて文法的な規範という意味で「てにをは」を用いた例文です。他人に文章を添削してもらう時などに用いられます。

3.はもっとも厳密な意味での「てにをは」です。作文の指導をする先生の発言のつもりで作成しました。助詞や助動詞を正しく使って書きましょうという意味です。

「てにをは」の類義語は?違いは?

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てにをはの類義語として考えられるのは、現代で言うと「助詞」でしょう。ただ、文法用語であるため日常語として使いづらいという点が「てにをは」とは異なります。また、他の品詞を含むことができるという点で「てにをは」の方が意味の範疇が広いと言えるでしょう。

「助詞」

日本語の文を構成している単位に文節というものがあり、文節は自立語もしくは自立語と付属語で構成されていると国語や古典の授業で習ったことを覚えている方、また現在学習中の方もいらっしゃるのではないでしょうか。「助詞」とは自立語に後続する(くっつく)付属語のうち、「が」や「を」のように活用しない語のことを言います。

\次のページで「「てにをは」の対義語は?」を解説!/

「てにをは」の対義語は?

文法用語の世界では「てにをは」、すなわち助詞と助動詞(付属語)に対して自立語と言う言葉があり、対義語として挙がるとすればこれが最も有力でしょう。しかし、日常会話の中で自立語と言う言葉が使われることはほぼないと考えられますので、そういった点では日常会話レベルでは「てにをは」の対義語は「無い」と言って差支えが無いのではないでしょうか。

「てにをは」の英訳は?

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狭義の「助詞」という意味の"particle"と、広義の「ことば遣い」という意味で使う単語"lamguage"を紹介します。

その1「particle」

まさに、そのまま「助詞」の英訳です。英語には助詞はありませんが前置詞や冠詞、接続詞などの品詞のことをまとめてparticleを言うことがあります。

その2「language」

「言語」という意味で一般に知られる単語ですが、主に書き言葉の、言い回しや言葉遣いという意味も持っており、例えば「丁寧な言葉遣い」は"polite language"と訳すことができます。

「てにをは」を使いこなそう

この記事では「てにをは」の意味・使い方・類語などを紹介しました。「てにをは」とは漢文訓読の世界から生まれた言葉で助詞や助動詞、広くは言葉遣いのことを指す言葉です。様々な場面で「正確な」「美しい」文章を書きたいという気持ちはだれもがもつもの。「てにをは」に気を付けて豊かな文章を書きたいものですね。

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国語言葉の意味

「てにをは」の意味や使い方は?例文や類語を日本語研究家がわかりやすく解説!

この記事では「てにをは」について解説する。

端的に言えばてにをはの意味は「日本語の助詞や助動詞を表す言葉の一つ」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

博士(文学)の学位を持ち、日本語を研究している船虫堂を呼んです。一緒に「てにをは」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/船虫堂

博士(文学)。日頃から日本語と日本語教育に対して幅広く興味と探究心を持って生活している。生活の中で新しい言葉や発音を収集するのが趣味。モットーは「楽しみながら詳しく、わかりやすく言葉をご紹介」。

「てにをは」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「てにをは」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。「てにをは」の、現代使われている一般的な意味は日本語の助詞に相当する言葉、つまり「て」、「に」、「を」、「は」に類する言葉、もしくはもう少し広く意味をとって助詞に助動詞を加えたいわゆる「付属語」一般のことを言います。

なお、この「てにをは」という不思議な言葉(字)の並びは、平安時代以降行われるようになったといわれる「漢文訓読」の方法が由来です。

「てにをは」の意味は?

「てにをは」について、以下のような歴史的経緯の説明があります。『精選版 日本国語大辞典』を参照してみましょう。

てにをは【弖爾乎波・手爾遠波】
〘名〙 (主要な助詞「て」「に」「を」「は」の四つを連結して、同類の諸語の総称としたもの)
1. 漢文を訓読する時、補読しなければならないような語。国語の助詞、助動詞、接尾辞、用言の活用語尾など。てには。
※八雲御抄(1242頃)六「わが身も草におかぬばかりをといへる歌は、いとしもなき人は、おかぬばかりぞなどいふにや。それは又、てにをはのやうをしらざる也」
2. 助詞・助動詞等の用法。文の表現法。言葉づかい。てには。
※八雲御抄(1242頃)六「てにをはの少したがひたるよりは、それを合はせんとだびて聞えたるは、まさりてわろし」
※談義本・根無草(1763‐69)後「虚言(うそ)あれば、てれんあり。〈略〉文(あや)なすといひ、懸けるといふ。手爾於葉(テニオハ)の違(たが)ひはあれど」
3. 話の前後の関係。話のつじつま。てには。
※談義本・教訓乗合船(1771)四「古き軍談上手の弁者は、〈略〉てにをはを面白く談じ」
4. 付属語のうち、活用のないもの。助詞をいう。大槻文彦の用法。てには。〔語法指南(1889)〕
 
[語誌]平安時代、漢文訓読に使用されたヲコト点のうち、博士家で用いた点図では、漢字の四隅の点を、左下から右まわりに読むと「てにをは」となる(左下から読むのは、漢字の四声、平上去入の呼び方と同じ)。これによって点法を「てにをは点」と総称するとともに、この「て・に・を・は」四語によって、点図の点で表わされる付属語の類を代表させたのである。→「てには」の語誌

出典:『精選版 日本国語大辞典』(小学館)「弖爾乎波・手爾遠波」より

1.で示されている意味が最も語源に近い意味合いでの用法です。漢文の訓読は、そもそも中国大陸から渡ってきた古文献を日本人が日本語の文法に置き換えて読むことで、現代人の我々は訓点、つまり返り点や送り仮名、句読点を手掛かりに読んでいます。それは何のためかというと、古代中国語と日本語(文語体)は言葉を並べる仕組みが異なるため、日本語の読み方に即して読むためには辞書の記述にあるような助詞や助動詞、活用語尾などを補って読む必要があるからです。その、漢文訓読の際に補う言葉という意味で「てにをは」と言う言葉はそもそも使われていました。

2.と3.はそこから派生した意味合いで、用法とか規範というニュアンスを含みます。2.は言葉遣いの文法的な規範の意味で使われます。これは「てにをはがおかしい」など、現代でも通用する用法なのではないでしょうか。3.となるとより大きな括りとなり、「てにおは」、つまり助詞や助動詞が繋ぐの関係を指す用法です。

ここまでが一般的な用法と言えるでしょう。

4.は日本語学の文法研究の専門用語です。大槻文彦(1847-1928)は日本初の近代的国語辞典『言海』の編纂者として知られる国語学者ですが、辞書『言海』の編纂と同時に日本語の文法研究にも着手しており、その功績はのちの国語学、日本語学の文法研究に多大な影響を与えました。大槻文彦が活躍した明治初期の時代は多くの学者たちが西洋の知見を採り入れながら日本語文法の整備に取り組んだ時代ですが、大槻文彦がまとめた、いわゆる「大槻文法」の中にこの用語が出てくるのです。現在一般に使用されている文法用語でいう「助詞」にあたります。

「てにをは」の語源は?

次に「てにをは」の語源を確認しましょう。これは『精選版 日本国語大辞典』の[語誌]の項目が役に立ちます。なぜ、漢文訓読で補う言葉のことを「てにをは」と呼んだのか。それは昔の日本人が開発した漢文訓読法である「ヲコト点」が由来となっているのです。

「ヲコト点」とは、平安時代中期から中世にかけておもに用いられたといわれる漢文訓読のためにほどこす補助記号で、流派によってさまざまな点の打ち方があるのですが、学術の分野で朝廷に仕えた家系である「博士家」で使用された点の並びからヲコト点と呼ばれるようになりました。そして、そのヲコト点の点の並びが「てにをは」の語源になっているのです。

ちなみに「てにをは」の由来となったヲコト点の並びは以下の通り。右上から下に読んでいくと「ヲ・コ・ト」となり、四隅を左下から右回りに読んでいくと「テ・ニ・ヲ・ハ」となりますね。

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