この記事では「衆生」について解説する。

端的に言えば衆生の意味は「生きとし生けるものすべて」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

日本語検定一級を持ち、文学部に所属する現役大学生ライターである文学少女を呼んです。一緒に「衆生」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/文学少女

文学部で学んでいる読書好きの現役大学生。大学のみならず、日々の読書や日本語検定・漢字検定などで学んだ知識を活かして、種々の言葉を丁寧に解説する。

「衆生」の意味や語源・使い方まとめ

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仏教を語る上で欠かすことができない語です。それでは早速「衆生」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「衆生」の意味は?

「衆生」には、次のような意味があります。

仏語。迷いの世界にあるあらゆる生類。仏の救済の対象となるもの。いきとしいけるもの。

出典:精選版 日本国語大辞典(小学館)「衆生」

「衆生」は「しゅじょう」(「すじょう」「しゅうせい」など揺れあり)と読み、生類全般という意味です。特に迷いある生き物としての人間を指すことが多いですが、原義的にはその他の動物なども含まれています。なお、植物は基本的には当てはまりませんが、一部宗派ではこの語の範疇とされることもあるようです。

この語の背景には、仏教における十界という考え方があります。これは、生命の境地を十種類(地獄界・餓鬼界・畜生界・修羅界・人界・天界・声聞界・縁覚界・菩薩界・仏界)に分類したものです。この内特に前六つをまとめて「六道」と、後四つを「四聖」と呼びます。それぞれの詳細は省略しますが、大まかには「六道」が輪廻世界を指し、「四聖」はそこから解脱した世界です。「衆生」は輪廻に迷う、つまり六道に属する存在全てを指すと考えればよいでしょう。

「衆生」の語源は?

次に、「衆生」の語源を確認しておきましょう。仏教用語であり、仏典を記述する際に用いられたサンスクリット語由来です。いくつかのサンスクリット語の単語にまたがる漢訳語として使われていますが、一般的にはसत्त्व(sattva:薩埵)と対応しています。この語は、「生存している」という意味のsatに抽象名詞をつくるtvaを加えた語です。他には、बहुजन(bahujana)やजगत्(jagat)の訳語でもあります。これらはそれぞれ、「(世間の)人々」「世界」を意味する語です。

\次のページで「「衆生」の使い方・例文」を解説!/

「衆生」の使い方・例文

「衆生」の使い方を実際に見ていきましょう。ここでは例文というよりも、「衆生」という語を含んだ慣用表現をいくつか紹介します。

1.一切衆生悉有仏性は、大乗仏教を支える思想である。
2.縁なき衆生は度し難しとはこのことだ。

1の「一切衆生悉有仏性」は「いっさいしゅじょうしつうぶっしょう」と読み、文字通り生きとし生けるものは全て仏性(仏になる可能性)を有しているということを意味します。出典は涅槃経。この語は、利他の行いで全ての衆生を救済することを目指す、大乗仏教という宗派で特に大切です。この大乗仏教と対照的な宗派が、上座部仏教となります。上座部仏教は、出家して修行を積むことであくまでその修行者本人のみが救われるという思想を基にしたものです。

2の「縁なき衆生は度し難し」ということわざは、文学作品等で目にしたことがあるかもしれません。ここでいう「縁」とは仏教上のつながり、つまり仏縁であることに注意しましょう。また、「度す」とは仏が悟りの境地へと導くことです。つまり、このことわざは「仏の教えを耳にする機会がなかったり、あっても信じない人は、仏であっても救うことができない」ことを意味します。そこからより一般的な意味に転じて、「人の話を聞かないものは救われない」ことを表すことわざとして使われるようになりました。

「衆生」の類義語は?違いは?

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「衆生」の類義語について見ていきましょう。

「有情」

「ゆうじょう」ではなく「うじょう」と読みます。基本的には、「衆生」と同じくsattvaの訳語(「衆生」が旧訳で「有情」が新訳)です。一方、「有情」は山川草木を含む概念であり「衆生」よりも意味が広いとする立場も存在しています。ただし、やはり主流であるのは両者を同一視する立場であるということは把握しておきましょう。少なくとも、おおよそsattvaの訳語として用いられている限りは、両者の意味を区別する必要はありません。他にも、「含識」含霊」含生」含情」「群生」「群萌」群類」などの、ほぼ同一の意味を持つ訳語が存在します。

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「衆生」の対義語は?

「衆生」の対義語についても確認します。

「仏/菩提」

教化の対象としての(六道に属する)迷える生命という意味での「衆生」に対しては、既に悟りによって六道から解脱し人々を導く「仏」が対義語となるでしょう。しかし、かなり広義の意味での「衆生」の語には菩薩や仏も含まれることがあり、それを採用するとむしろ同義語となります。以下の辞典の引用も、参考にして下さい。

インドでは仏教も他の諸宗教も、人と動物との間に根本的な区別を設けず、業(ごう)(カルマ)によって種々に生まれ変わる(輪廻(りんね))と説く。仏教では地獄・餓鬼(がき)・畜生(ちくしょう)・阿修羅(あしゅら)・人・天の六道を輪廻転生すると説く。通常は輪廻に迷う存在を衆生とみなすが、広義には輪廻から脱(ぬ)け出した(解脱(げだつ))仏・菩薩(ぼさつ)も衆生に含める。また、竜、羅刹(らせつ)、夜叉(やしゃ)、乾達婆(けんだつば)、緊那羅(きんなら)、摩呼洛迦(まごらか)など神話上の異類や、地獄の獄卒(ごくそつ)などを衆生とみなす場合もある。

出典:日本百科全書(小学館)「衆生」より一部引用

また、菩提とは仏の悟りの境地のことです。「下化衆生(げけしゅじょう)」「上求菩提(じょうぐぼだい)」という四字熟語があります。これらの語の意味を考える際には、仏-菩薩-衆生の三層構造を想像してみてください。「下化衆生」は、仏や菩薩からみて下に位置する衆生を救済・教化することです。一方、「上求菩提」は菩薩が上に位置する仏を目指し、さらなる悟りへと励むことを意味します。この二つをまとめた「上求下化」という四字熟語も覚えておきましょう。

「非情」

山川草木や国土など心を持たず、輪廻をしない存在を指す語です。直接的には「有情」の対義語ですが、類義語の欄で述べたように「衆生」「有情」はほぼ同一視出来るため、「衆生」の対義語とも言えるでしょう。

「衆生」の英訳は?

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語源の欄で紹介した「sattva」がそのまま英訳となります。形容詞として使う場合には「sattvic」の形です。なお、サンスクリット語における語源satを共有するその他の英単語としては、「satya」(真実)や「satī」(サティー)があります。

\次のページで「「衆生」を使いこなそう」を解説!/

「衆生」を使いこなそう

この記事では「衆生」の意味・使い方・類語などを説明しました。日常生活ではあまり耳にしたことが無かったかもしれませんが、その根底にある思想は日本人の精神にも密接に結びついていることが感じられたでしょうか。今回は紹介しきれませんでしたが、「衆生の恩」「衆生済度」など「衆生」を基礎とした熟語や仏教用語はまだまだ沢山存在します。この記事をきっかけとして、奥深い仏教の世界に少しでも関心を持ってもらえたら幸いです。

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国語言葉の意味

「衆生」の意味や使い方は?例文や類語を現役文学部生がわかりやすく解説!

この記事では「衆生」について解説する。

端的に言えば衆生の意味は「生きとし生けるものすべて」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

日本語検定一級を持ち、文学部に所属する現役大学生ライターである文学少女を呼んです。一緒に「衆生」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/文学少女

文学部で学んでいる読書好きの現役大学生。大学のみならず、日々の読書や日本語検定・漢字検定などで学んだ知識を活かして、種々の言葉を丁寧に解説する。

「衆生」の意味や語源・使い方まとめ

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仏教を語る上で欠かすことができない語です。それでは早速「衆生」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「衆生」の意味は?

「衆生」には、次のような意味があります。

仏語。迷いの世界にあるあらゆる生類。仏の救済の対象となるもの。いきとしいけるもの。

出典:精選版 日本国語大辞典(小学館)「衆生」

「衆生」は「しゅじょう」(「すじょう」「しゅうせい」など揺れあり)と読み、生類全般という意味です。特に迷いある生き物としての人間を指すことが多いですが、原義的にはその他の動物なども含まれています。なお、植物は基本的には当てはまりませんが、一部宗派ではこの語の範疇とされることもあるようです。

この語の背景には、仏教における十界という考え方があります。これは、生命の境地を十種類(地獄界・餓鬼界・畜生界・修羅界・人界・天界・声聞界・縁覚界・菩薩界・仏界)に分類したものです。この内特に前六つをまとめて「六道」と、後四つを「四聖」と呼びます。それぞれの詳細は省略しますが、大まかには「六道」が輪廻世界を指し、「四聖」はそこから解脱した世界です。「衆生」は輪廻に迷う、つまり六道に属する存在全てを指すと考えればよいでしょう。

「衆生」の語源は?

次に、「衆生」の語源を確認しておきましょう。仏教用語であり、仏典を記述する際に用いられたサンスクリット語由来です。いくつかのサンスクリット語の単語にまたがる漢訳語として使われていますが、一般的にはसत्त्व(sattva:薩埵)と対応しています。この語は、「生存している」という意味のsatに抽象名詞をつくるtvaを加えた語です。他には、बहुजन(bahujana)やजगत्(jagat)の訳語でもあります。これらはそれぞれ、「(世間の)人々」「世界」を意味する語です。

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