今回は「色素体」という用語について解説していこう。

色素体は、植物や藻類が生きていくために必要不可欠な存在です。聞きなれない言葉かもしれないが、我々がよく知る”あの細胞小器官”も色素体のなかまに含まれる。どんなものが色素体とよばれるのか、その全体像を俯瞰してみたい。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

色素体とは?

色素体(しきそたい)は、植物や藻類の細胞内にみられる細胞小器官で、糖などを貯蔵したり、化合物を作り出す機能をもったものをまとめてさす言葉です。

英語ではプラスチド(plastid)とよびます。専門性の高い生物の教科書では、当たり前のようにプラスチドという言葉が使われていることも多いですね。

image by iStockphoto

名前からもなんとなく想像できますが、色素体は何らかの色素をふくんでいたり、色素を合成する能力をもったものが多いです。後ほど詳しくご説明しますが、植物の光合成を担うことでおなじみの葉緑体も、色素体に含まれます。

\次のページで「さまざまな色素体」を解説!/

そうですね。ただ、葉緑体でも緑色以外の色素をふくむことで、緑以外の色に見える葉緑体となっているものもあります。

では、いろいろな色素体の種類を、葉緑体も含めてご紹介していきましょう。

さまざまな色素体

1.葉緑体

前述の通り、私たちがよく知る葉緑体は色素体の一種です。英語ではクロロプラスト(chloroplast)といいます。インターネットで情報を検索するときなどは、この英語での呼び名を知っておくと便利です。

中学校の理科で学習することですが、葉緑体は光合成をするための細胞小器官です。葉緑体中に含まれる色素(光合成色素)を利用し、無機物から有機物を生み出す光合成の反応をすすめます。

葉緑体の内部構造も簡単に確認しておきましょう。葉緑体を構成する膜の内側の空間はストロマとよばれます。ストロマには葉緑体のDNAやリボソーム、酵素のほか、光合成色素をふくんだチラコイド(tylakoid)という袋が存在しているのです。チラコイドが重なった部分はとくにグラナ(granum)とよばれます。

image by Study-Z編集部

葉緑体にみられる光合成色素は1種類ではありません。

クロロフィルは、多くの植物の葉緑体でとくによくみられる色素です。このクロロフィルが緑色に見えるため、多くの陸上植物の葉は緑色に見えることになります。また、カロテノイド(もしくはカロチノイド)という色素もある程度ふくんでいますね。

image by iStockphoto

藻類の中でも、ワカメやコンブのような褐藻(かっそう)の仲間は、葉緑体にカロテノイドの一種であるフコキサンチンという色素も多く含んでいるため、藻体は褐色(茶色っぽい色)になります。

また、テングサやフノリなどの紅藻(こうそう)の仲間は、フィコビリンという色素をもつために紅色にみえるのです。

\次のページで「2.有色体」を解説!/

2.有色体

有色体(ゆうしょくたい)は、カロテノイドとよばれる色素をたくさん含んだ色素体です。英語ではクロモプラスト(chromoplast)といいます。

そうですね。ただ、有色体では葉緑体と違って緑色のクロロフィルをつくらないため、色味が異なります。

カロテノイドは、色素として認められるいくつもの化合物の総称です。先ほど名前の出たフコキサンチンのほか、βカロテンやリコピン、アスタキサンチン、ルテインなどが、カロテノイドの中に含まれます。

健康食品やサプリメントの成分としてよく知られているものもありますね。

βカロテンは黄色味の強い色素です。私たちの体内ではビタミンAの材料になる化合物で、カボチャやニンジンなどの緑黄色野菜に多く含まれます。

リコピンは赤色の色素。トマトやカキ(柿)に多く含まれ、高い抗酸化作用が注目されている物質です。

image by iStockphoto

アスタキサンチンも赤色を呈す色素ですが、こちらはエビやカニの殻やサケの切り身などに多く存在します。

ルテインは黄色で、ホウレンソウやブロッコリーに多く含まれる色素です。近年は眼病予防への効果が期待されている成分でもあります。

そのとおり!ニンジンやトマトの赤色、黄色い花びらなどにはこのカロテノイドを多く含んだ有色体がたくさん存在しています。これが原因となり、黄色や赤、オレンジ色を呈するのです。

\次のページで「3.白色体」を解説!/

3.白色体

白色体(はくしょくたい)は、色素体のなかまであるにもかかわらず色素をふくまないものを指します。植物のからだの中でも白っぽい色をしているところ…例えば根や、”斑(ふ)入り”の葉の白い部分の細胞などに含まれている色素体です。

白色体はその機能に応じてさらに細かく分類されます。一般的には、アミロプラスト、エライオプラスト、プロテイノプラストの3種類に分けることが多いようです。

image by iStockphoto

アミロプラスト(amyloplast)はその内部にデンプン粒を貯蔵した白色体です。イネやコムギの胚乳や、サツマイモ、ジャガイモの可食部に、このアミロプラストが多く含まれます。私たちがこれらの植物を主食として食べるのは、アミロプラスト内のデンプンを得るためなのです。

エライオプラスト(elaioplast)は油滴や脂質顆粒をふくんだ白色体。脂質を合成したり、それを貯蔵する役割があります。オレンジなどの柑橘類の皮にたくさん含まれていますよ。

プロテイノプラスト(proteinoplast)はプロテイン…つまりタンパク質を多く含んだ白色体です。その機能についてはまだ未知の部分が多く、これからの研究が期待されます。

色素体の元・原色素体

以上のようなさまざまな色素体は、すべて原色素体(げんしょくそたい)とよばれる小さな色素体が分裂・増殖し、分化することで生じます。原色素体は分裂組織に含まれており、どんどん分裂しながら数を増やし、それぞれの細胞に必要な色素体になっていくのです。

植物の”色”を意識してみよう!

こうやって見ると、植物や藻類ではどんな色素体をどれほど含むかによって、その色が左右されるということが分かりますね。色素体とは別の細胞小器官である液胞にも色素が含まれることがあり、それによっても葉や花弁の色は変わってきますが…色素体の存在が色を決める大きな要因であることに変わりはありません。

植物のもつ”色”を意識するようになると、食卓に並ぶさまざまな色の野菜にも深い意味が感じられるようになります。「この野菜はどうしてこんな色なんだろう?」という素朴な疑問を”色素体”によって説明できるようになりたいですね。

" /> 「色素体」って何?植物の色を決めている!?現役講師がざっくりわかりやすく解説 – Study-Z
理科生物細胞・生殖・遺伝

「色素体」って何?植物の色を決めている!?現役講師がざっくりわかりやすく解説

今回は「色素体」という用語について解説していこう。

色素体は、植物や藻類が生きていくために必要不可欠な存在です。聞きなれない言葉かもしれないが、我々がよく知る”あの細胞小器官”も色素体のなかまに含まれる。どんなものが色素体とよばれるのか、その全体像を俯瞰してみたい。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

色素体とは?

色素体(しきそたい)は、植物や藻類の細胞内にみられる細胞小器官で、糖などを貯蔵したり、化合物を作り出す機能をもったものをまとめてさす言葉です。

英語ではプラスチド(plastid)とよびます。専門性の高い生物の教科書では、当たり前のようにプラスチドという言葉が使われていることも多いですね。

image by iStockphoto

名前からもなんとなく想像できますが、色素体は何らかの色素をふくんでいたり、色素を合成する能力をもったものが多いです。後ほど詳しくご説明しますが、植物の光合成を担うことでおなじみの葉緑体も、色素体に含まれます。

\次のページで「さまざまな色素体」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: