モノが光るのはどんな時でしょうか。光を発するためには「電気」や「火」など何かしらの必要であろう。しかし、非常時の避難経路表示などでエネルギーが供給できない場合や省エネの観点などから電気や火を使わずに光を得たい時があるな。その方法として「蛍光」や「蓄光」があり、どちらも他の光源から得たエネルギーを使って光るもので、原理はよく似ている。その違いについて、物質内の電子レベルの動きに着目して理科教員免許を持ったライターR175と解説していこう。

ライター/R175

とある国立大の理系出身。理科の教員免許持ち。共通テストでも重視される「日常の身近な現象との関連性」を重視した解説を強みとする。

1.モノが光るのはどんな時か

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まずは、そもそも「光る」のはどんなときか。光るモノと言えば、自然界では太陽や月、惑星、恒星、炎、蛍、そして人工物では電気やネオン、ナトリウムなどを使った照明器具など。

これらが光る時の共通点は何でしょうか。分かりやすいもので、電気照明を例に挙げると、光るためには電源が必要ですね。電気の単位としてW(ワット)が使われることからも分かるように、電気の正体はエネルギーです。電気照明は電気のエネルギーを光に変換しています。他の例においても何かしらのエネルギーを光に変換しているのですが、それはどんな原理なのか。もちろんその原理はこの記事の主題である「蛍光」や「蓄光」にも共通するものです。

エネルギーを光に変える仕組み

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エネルギーを光に変えるメカニズムは、光などのエネルギーによって物質を構成うする分子や原子内電子を一旦エネルギーが低い「基底状態」からエネルギーが高い「励起状態」にした後、再びエネルギーの低い「基底状態」に戻る時に余ったエネルギーが光となって出てくるというものです。「基底状態」と「励起状態」の違いは電子のポジションの違いですが、それに関してもう少し掘り下げて解説していきましょう。

電子軌道

電子軌道

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物質は+電荷を持つ「原子核」の周りにーの電荷を持つ「電子」が存在しますが、電気的な引力斥力等のバランスから電子が存在しやすいポジションが決まっていて、そのポジションが「電子軌道」です。

電子の軌道は、電子が存在できるポジションの候補であり、軌道は1通りではありません。また、1つの軌道内には2つの電子が存在でき、お互いが対になるもの。もちろん1つの軌道に電子が1つしかない場合や1つもない場合もあり得ます。

電子の軌道にはエネルギーが低い時に存在する軌道と、エネルギーが高い時に存在する時の軌道があるのです。

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基底状態

基底状態とは、簡単に言うと「エネルギーが低い状態」。電子が存在するポジションの候補が「電子軌道」ですが、いくつか軌道の候補があるうち最もエネルギーが低い軌道に電子が存在する状態を基底状態といいます。

wikipredaiaさんの言葉をお借りすると「系の固有状態のうち最もエネルギーが低い状態」です。原子核や電子は様々な配置を取りえますが、最もエネルギーが低い状態というと「絶対零度」、つまり分子の運動が0の状態を指すことになってしまいますが、電子配置の基底状態を言う場合は絶対零度でなくても最もエネルギーが低い低い軌道にあれば「基底状態」と表現します。

励起状態

励起状態

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電子にエネルギーを与えると、エネルギーレベルが低い軌道には居られなくなります。少し乱暴な例えですが、大人しい状態の電子なら前述の基底状態の軌道におさまることができますが、動き回るようになるとそこには収まっていられなくなり、別の軌道に移ってしまうもの。

このように、基底状態よりエネルギーが高い軌道に電子が存在する状態が励起状態です。エネルギーレベルの高い軌道はいくつか存在しますが、基底状態よりもエネルギーレベルがが高い軌道に電子が存在すれば一律に「励起状態」といいます。

励起状態から基底状態に戻ると

励起状態から基底状態に戻ると

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エネルギーが与えられると安定していられなくなった電子が別の軌道に移ってエネルギーレベルの高い「励起状態」となりますが、励起状態は不安定なのでエネルギーレベルの低い「基底状態」に戻ろうとするものです。エネルギーレベルの低い基底状態に戻ると、エネルギーが余ってしまいますね。このエネルギーが光として現れるわけです。

2.蛍光と蓄光の相違点

蛍光と蓄光、両者の性質と共通点、違う点をまとめてみましょう。

蛍光

蛍光とは、ガードレールの反射板やアクセサリーなど、他の光を一時的に跳ね返す現象。光を当てるのをやめるとすぐに暗くなります。蛍光状態では、他の光源からエネルギーを得て、蛍光物質内の電子が励起状態になり、その後すぐに基底状態に戻るもの。蛍光での励起の仕方は「第一重項励起」とよばれるもので、「基底状態」に戻るまでの時間が短いのです。

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蓄光

蓄光も蛍光と同じく、他の光をエネルギーを得て光るもの。この原理が使われているのは避難誘導の表示などで、消防法の第26条でその規定が定められています。光る仕組みは大枠は蛍光と同じで物質内の電子が励起状態になってから基底状態に戻るときに余ったエネルギーが光になるというもの。ただし、蛍光と違うのは光を当てるのをやめてもしばらく「光り続けている」こと。

蓄光では、電子が励起状態から基底状態にゆっくりと戻るからです。蓄光での励起の仕方は「第三重項励起」と呼ばれ、基底状態に戻るのに時間がかかります。

3.励起の仕方の違いと電子スピン

蛍光では第一重項励起、蓄光では第三重項励起が起きており励起の仕方が異なる。両者の違いは電子のスピン量子数のちがいで、スピン量子数は電子のスピン(自転)に関する値です。

電子スピンとは?

電子が持つ「角運動量」のこと。よく例えられるのは「電子の自転」に例えられますが、電子がクルクルと回転運動をしているのとは若干イメージが異なります。

スピンは固有の挙動

回転運動は、外部からの力を受けて起こりますが電子のスピンはそうではなく、回転の向きや速さが固有の値となります。物質が持つ「質量」が普遍であるのと同じようにスピンも固有の挙動です。

スピン量子数

スピン量子数は各々の電子が持つ回転の向きと大きさを数値化したものですが、その値は1/2かその正反対の向きの-1/2しか取りません。

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スピン量子数の合計

スピン量子数の合計

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電子2個が同じ軌道を回る場合、両者のスピンの向きが逆向きのため打ち消し合いスピン量子数は0に。軌道内に電子が1個しかない(不対電子という)場合は、対にになる電子がないためスピンは打ち消されません。原子or分子全体でのスピン量子数の合計0の場合は一重項1/2なら二重項、1なら三重項と呼ばれます。

 

例えば、不対電子を1つ持っていればスピン量子数の合計は1/2で二重項、不対電子が2つあるが両者のスピンの向きが逆向きの場合はスピン量子数の合計が0で一重項、不対電子が2つあって両者のスピンの向きが同じならスピン量子数の合計が1で三重項という状態です。

蛍光と蓄光の違いは励起の仕方の違い

蛍光ではエネルギーを受けて電子が一重項の状態で励起しますが、蓄光の場合は三重項励起となります。イメージとしては、前者はスピンの向きを打ち消し合っているからすぐにエネルギーが低い基底状態に戻りますが、打ち消し合わない場合はしばらくタイムラグが生まれることが想像されますね。これが、蓄光でしばらくの間光を発する所以です。

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化学原子・元素理科量子力学・原子物理学

蓄光と蛍光の違いとは?モノが光る仕組みは?理科教員免許ありのライターがわかりやすく解説

モノが光るのはどんな時でしょうか。光を発するためには「電気」や「火」など何かしらの必要であろう。しかし、非常時の避難経路表示などでエネルギーが供給できない場合や省エネの観点などから電気や火を使わずに光を得たい時があるな。その方法として「蛍光」や「蓄光」があり、どちらも他の光源から得たエネルギーを使って光るもので、原理はよく似ている。その違いについて、物質内の電子レベルの動きに着目して理科教員免許を持ったライターR175と解説していこう。

ライター/R175

とある国立大の理系出身。理科の教員免許持ち。共通テストでも重視される「日常の身近な現象との関連性」を重視した解説を強みとする。

1.モノが光るのはどんな時か

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まずは、そもそも「光る」のはどんなときか。光るモノと言えば、自然界では太陽や月、惑星、恒星、炎、蛍、そして人工物では電気やネオン、ナトリウムなどを使った照明器具など。

これらが光る時の共通点は何でしょうか。分かりやすいもので、電気照明を例に挙げると、光るためには電源が必要ですね。電気の単位としてW(ワット)が使われることからも分かるように、電気の正体はエネルギーです。電気照明は電気のエネルギーを光に変換しています。他の例においても何かしらのエネルギーを光に変換しているのですが、それはどんな原理なのか。もちろんその原理はこの記事の主題である「蛍光」や「蓄光」にも共通するものです。

エネルギーを光に変える仕組み

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エネルギーを光に変えるメカニズムは、光などのエネルギーによって物質を構成うする分子や原子内電子を一旦エネルギーが低い「基底状態」からエネルギーが高い「励起状態」にした後、再びエネルギーの低い「基底状態」に戻る時に余ったエネルギーが光となって出てくるというものです。「基底状態」と「励起状態」の違いは電子のポジションの違いですが、それに関してもう少し掘り下げて解説していきましょう。

電子軌道

電子軌道

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物質は+電荷を持つ「原子核」の周りにーの電荷を持つ「電子」が存在しますが、電気的な引力斥力等のバランスから電子が存在しやすいポジションが決まっていて、そのポジションが「電子軌道」です。

電子の軌道は、電子が存在できるポジションの候補であり、軌道は1通りではありません。また、1つの軌道内には2つの電子が存在でき、お互いが対になるもの。もちろん1つの軌道に電子が1つしかない場合や1つもない場合もあり得ます。

電子の軌道にはエネルギーが低い時に存在する軌道と、エネルギーが高い時に存在する時の軌道があるのです。

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