化学有機化合物無機物質物質の状態・構成・変化理科

5分で分かる「HSAB原理」酸と塩基が硬いとはどういうこと?京大卒の研究者が分かりやすく解説!

1-3.ルイス酸塩基と錯体

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ルイス酸とルイス塩基の定義ではプロトンの授受が必ずしも必要としません。例としてトリメチルボランB(CH3)3とアンモニアの反応を見ていきましょう。トリメチルボランのホウ素は電子を6つ持っており、電子対が1つ足りていない状態です。一方アンモニアは孤立電子対を1つ持っています。ここでアンモニアがルイス塩基、トリメチルボランがルイス酸として働くため電子対の移動が発生。両者の間に結合が作られます。

また原子番号が大きい元素は必ずしもオクテット則(最外殻電子の数が8つ)というルールに従うわけではありません。このような原子が含まれる化合物では電子対を受け取って新たなイオンを作ることがあります。例えば四フッ化ケイ素SiF4はフッ素イオンFと反応して[SiF6]2-を形成。つまり四フッ化ケイ素はルイス酸、フッ素イオンがルイス塩基として働くのです。ちなみにこのようなルイス酸とルイス塩基が付加することで形成されるイオンを「錯体」と呼びます。

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ブレンステッド-ロウリーの定義では酸と塩基をプロトンの授受によって定義する。一方でルイスの定義では電子対の授受によって酸と塩基を定義している。ほぼ全ての化合物やイオンは電子対を持っているため、ルイスの定義のほうが酸と塩基の定義としては対象が広いんだ。

次の章ではルイス酸、ルイス塩基を考える上で重要となるHSAB原理について学んでいくぞ。

2.HSAB原理

前の章ではルイス酸とルイス塩基について学びました。この章ではルイス酸とルイス塩基とHSAB原理の関係について学んでいきましょう。HSAB原理では酸と塩基を硬い(ハード)、柔らかい(ソフト)という言葉を使って分類します。あまり聞き馴染みが無い言葉かもしれませんが、無機化学において重要な概念であるため、しっかり学んでみてくださいね。

2-1.硬い酸塩基と柔らかい酸塩基(HSAB)

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ルイス酸とルイス塩基は電子対の授受によって定義されることを学びました。しかし、電子対を持っている化合物は多種多様であるため、どのような化合物が電子を渡すのか、どのような化合物が電子を受け取るのか判断するための法則が必要です。そのようなルールとして提案されたのが硬い酸と塩基(Hard Acid,Base)と柔らかい酸と塩基(Soft Acid,Base)でした。

酸と塩基の硬さを大まかに分けるものとしてイオン、化合物の大きさが挙げられます。サイズが小さいカチオン(陽イオン)は「硬い酸」であり、代表例としてプロトン(H+)、リチウムイオンやナトリウムイオン。サイズが大きいカチオンは「柔らかい酸」で、代表例として銅イオンや銀イオンなどが挙げられます。同様に「硬い塩基」の例としてはフッ素イオンや水酸化物イオン。「柔らかい塩基」としてはヨウ素イオンやシアン化物イオンが挙げられます。

2-2.硬さの意味

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HSAB原理で用いられる「硬い」、「柔らかい」という表現は化学的にどのような意味があるのでしょうか。一般的に硬い酸と塩基同士、柔らかい酸と塩基同士で錯体を形成しやすいのですが、これは酸と塩基の間に形成される結合の種類が硬さによって変わる、つまり相互作用の種類が違うことに由来しています。

硬い酸と硬い塩基は電荷を持ったイオンとして振る舞うことが多く、錯体で形成される結合は「イオン結合」です。つまり陽イオンと陰イオンの間で電子がほとんど移動せず、静電気の引力で結合しているわけですね。一方で柔らかい酸、塩基は電子が動く、つまり分極が起こりやすいため錯体で形成される結合は「共有結合」の性質を持っています。結合を形成する相手に電子を渡しているイメージです。

HSAB原理は錯体形成における重要な理論の一つ

今回は酸と塩基について、ブレンステッド-ロウリーの定義とルイスの定義を学習しました。電子対の授受で酸と塩基を説明するルイスの定義はやや専門的で難しいかもしれませんが、様々な領域に適用できる重要な定義です。

またルイス酸とルイス塩基に関連して、今回HSAB原理も学習しました。硬い酸と塩基、柔らかい酸と塩基というグループ分けはあまりイメージしにくいかもしれません。しかし、金属錯体を理解するためにはHSAB原理は非常に重要です。多種多様な元素を扱う無機化学という分野を理解するためにはHSAB原理は学んで損はない用語と言えるでしょう。

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