5分で分かる「平衡移動」温度や圧力の変化で平衡はどう変わる?京大卒の研究員がわかりやすく解説!
2.平衡移動とルシャトリエの原理
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前の章では化学熱力学の考え方を用いてギブズエネルギーと化学反応について考え、最後に平衡定数の中身について確認しました。この章では温度や圧力など、外的条件が変化したときに平衡がどのように変化するか学んでいきます。
平衡の変化、すなわち平衡移動を学ぶ上で重要なのが「ルシャトリエの原理」です。外的条件の変化によって平衡定数がどのような影響を受けるか見ながら、ルシャトリエの原理についても学んでいきましょう。
2-1.ルシャトリエの原理
http://en.wikipedia.org/wiki/Image:Lechatelier.jpg, パブリック・ドメイン, リンクによる
初めに平衡移動における重要な原理である「ルシャトリエの原理」を学びます。ルシャトリエの原理とは「平衡にある系の圧力、濃度、温度が変化すると、その変化量を少なくする方向に平衡が移動する」という原理です。
ただ、これだけではもしかしたらイメージがつきにくいかもしれません。この原理を単純化して説明すると、系の圧力が上がったら圧力を下げる方向に平衡が移動し、温度が上がったら温度が下がる方向に平衡が移動する、とも言えます。以下では圧力が変化したとき、温度が変化したときの平衡移動について実際に見ていきましょう。
2-2.圧力変化と平衡移動
圧力変化に対する平衡移動を考えていきます。ここでは気体の平衡A⇄2Bを考えてみましょう。ある圧力においてこの平衡が成り立つとき、平衡定数Kは以下の式で表すことができます。
さて、ここで系の体積を小さくする(圧縮する)と平衡はどのように変化するでしょうか。圧縮されると平衡定数のなかのpA,pBはいずれも大きくなります。しかし、平衡定数Kは圧力によらず一定の値にならないといけません。つまり、pAの増加量はpBの増加量の2乗になる必要があるのです。この要求を満たすには生成物Bの量を減らしてAを生成させなくてはなりません。すなわち初期状態に比べて2B→Aの反応が多くなり、平衡が移動するのです。
この現象をルシャトリエの原理に当てはめてみましょう。圧縮することによる系の圧力の増加を受けて、平衡は系の圧力をできるだけ小さくする方向に移動します。圧力を小さくするには系の分子数を減らすことが必要です。したがって2B→Aの反応が進む、と解釈することができます。
2-3.温度変化と平衡移動
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次に温度が変化したときの平衡移動について考えてみましょう。化学反応には反応が進むことによって熱が放出される発熱反応、反応が進むと熱が吸収される吸熱反応があります。
では系の温度を上げると平衡はどのように変化するでしょうか。このときの平衡移動は非常に単純で、系の温度を上昇させると発熱反応ならば反応物が増え、吸熱反応ならば生成物が増えます。
2-4.平衡移動の応用例
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最後に平衡移動の応用例について学んでいきましょう。ここでは窒素ガス、水素ガスからアンモニアを合成する反応について考えます。この反応を化学反応式で表すとN2+3H2→2NH3となりますね。
ここで系の圧力を増加させてみると平衡はどのように移動するでしょうか。ルシャトリエの原理から、圧力を増加させると圧力を下げる方に平衡は移動します。この反応においては左辺の水素、窒素の分子数は4、右辺のアンモニアの分子数は2であるため、アンモニアが生成したほうが系の圧力は下がるということがわかりますね。したがって圧力を上げることでより多くのアンモニアを生成することができるのです。このように圧力や温度などの反応条件を変えることでより多くの生成物を得る、という検討は化学産業で頻繁に行われています。
熱力学から化学平衡を理解すると平衡移動を深く理解できる
今回は化学熱力学から化学平衡が成り立つ条件を確認し、平衡定数の起源を学びました。そしてルシャトリエの原理を学び、系の圧力や温度などが変化したときに平衡がどのように移動するか学びました。
今回は一部割愛しましたが、ルシャトリエの原理もギブズエネルギーなどの熱力学の理論を使うことで説明することができます。平衡という現象は化学反応において非常に重要なものの一つであるため、もし余力がある方はご自身でも熱力学、溶液の物理化学を学んでみてはいかがでしょうか。高校化学では暗記するだけであった平衡定数の物理的な意味が理解できると化学反応に対する理解が更に深まるはずです。