
5分で分かる「平衡移動」温度や圧力の変化で平衡はどう変わる?京大卒の研究員がわかりやすく解説!

まずは化学平衡が成り立つ条件を学び、その後に平衡移動における重要な原理である「ルシャトリエの原理」を学んでいこう。化学に詳しいライター珈琲マニアと一緒に解説していくぞ。

解説/桜木建二
「ドラゴン桜」主人公の桜木建二。物語内では落ちこぼれ高校・龍山高校を進学校に立て直した手腕を持つ。学生から社会人まで幅広く、学びのナビゲート役を務める。
ライター/珈琲マニア
京都大学で化学を学び、現在はメーカーの研究職として勤務。学生時代の専門である物理化学に関する知識が豊富なライター。
1.化学平衡とギブズエネルギー

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「平衡」という用語は化学反応における重要なキーワードの一つです。平衡を移動させることでより多くの生成物を得られることができるため、化学平衡に関する理論は工業的にも重要な役割を担っています。
一方で化学平衡は難しいというイメージがあるかもしれません。高校の参考書では各物質の濃度の分数で表される平衡定数(K)の式がいきなり出て、それを覚えたのではないでしょうか。私自身、高校時代に平衡定数の式の意味がよく理解できなかった経験がありました。
そこで今回は大学で学ぶ化学の知識を使って、まず平衡定数の式の意味を確認します。そして次に平衡移動について詳しく学んでいきましょう。
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1-1.ギブズエネルギーと化学反応

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化学平衡は原子や分子の化学構造が変化する現象の一つであり、このような原子や分子の状態が変化するときに熱などの形でエネルギーの変換が生じます。このようなエネルギーの変換を議論するうえで有用な学問分野、それが熱力学です。
化学熱力学の中でも重要なキーワードの一つとして、ギブズエネルギーというものがあります。なぜ重要なのか、それはギブズエネルギーが化学反応の進みやすさと密接に関係しているためです。AからBへの化学変化、物理変化を考えてみましょう。もし温度、圧力が一定ならば「AよりもBのギブズエネルギーが小さいとき、AからBへの変化が自発的に起こる」という法則が成り立ちます。つまり反応前の系と反応後の系のギブズエネルギーの大きさから反応が進むかどうか判定できるというわけです。
1-2.ギブズエネルギーの変化と化学平衡

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ギブズエネルギー以外の重要なキーワードとして「化学ポテンシャル」というものがあります。これは「圧力、温度一定の条件で物質量(モル)が変化したときのギブズエネルギーの変化量」として定義される値です(数学的に言うと「物質量によるギブズエネルギーの偏微分」です)。
ここでA→Bというシンプルな変化を考えてみましょう。このとき、ギブズエネルギーの変化(反応ギブズエネルギー⊿rG)は化学ポテンシャルを用いて以下のように表されます。そして温度、圧力が一定ならば反応ギブズエネルギーの値を見ることで反応が進むか、逆反応が進むか、それとも平衡状態なのか判断することができるのです。つまり平衡状態とは「反応前後の化学ポテンシャルが等しく、反応ギブズエネルギーがゼロ」である状態と言えます。
1-3.ギブズエネルギーと平衡定数
先ほど反応ギブズエネルギーの値によって反応が進行するかどうか、もしくは平衡状態にあるかどうか予想できることを学びました。さて、詳細は割愛しますが反応ギブズエネルギーは以下のような式で表すことができます。
ここで平衡状態の条件、すなわち反応ギブズエネルギーにゼロを代入してみましょう。すると標準反応ギブズエネルギーは一定の値となることが分かります。そしてこの式で対数の中に入っている定数Kが平衡定数となるのです。つまり熱力学の原理から「反応ギブズエネルギーがゼロ」となる状態が「平衡状態」と定義されており、そのときの濃度や圧力を定数と結びつけたものが平衡定数と言えます。

化学反応において順反応が進行するか、それとも逆反応が進行するかは反応ギブズエネルギーの正負によって決まる。そして平衡状態は反応ギブズエネルギーがゼロとなる場合のみに成り立つ特殊な状態なんだ。
次の章では平衡定数の式も確認しながら、平衡移動の重要な原理である「ルシャトリエの原理」を学んでいくぞ。
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