水に食塩を入れると塩水になる、これは当たり前の現象です。では食塩を水に入れ続けるとどうなるでしょうか。ある限界点を超えると水に食塩は溶けなくなり、水中に食塩が残った「飽和状態」になる。今回学習する「溶解平衡」とは、このような飽和状態における物質の挙動を表すものです。
はじめに化学平衡に関する一般的な知識を学んだ後に、「ものが水に溶ける」という現象を見ていこう。その後にほとんど水に溶けない固体の溶解平衡などを学んでいく。化学に詳しいライター珈琲マニアと一緒に解説していきます。

ライター/珈琲マニア

京都大学で化学を学び、現在はメーカーの研究職として勤務。学生時代の専門は物理化学であり、溶液に関する知識も豊富。

1.塩(えん)の溶解と溶解平衡

食塩水をはじめとして、身の回りには結晶を液体に溶解させたものが多数存在します。このような結晶の中にはイオンが静電気の引力によってつながった「塩」(読み方は「えん」。食塩(塩化ナトリウム)と異なるので注意してください)と呼ばれるものがあり、今回学ぶ「溶解平衡」も塩(えん)の溶解に関する現象の一つです。

この章でははじめに化学平衡について学んだ後に溶解平衡について学習します。また、食塩が水に溶けるときを例として、「溶解する」とはどんな現象なのかという点についても学んでいきましょう。

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1-1.平衡状態と平衡定数

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溶解平衡は化学平衡の一種です。通常の化学反応では左辺に書いた「反応物」から右辺に書いた「生成物」への変化が起こりますが、化学平衡では両方向の変化が起こります。そして平衡状態は「反応物から生成物への変化」と「生成物から反応物への変化」の量が同じ。つまり「見た目では反応が止まっているように見える」ことが特徴です。

このような平衡状態における反応物、生成物の量(濃度)は物質によって異なります。そこで平衡状態を表すために用いられる関係式が「平衡定数」です。平衡定数とは左辺の反応物の濃度の積を分母、右辺の生成物の濃度の積を分子で書き表される値で、温度、圧力が一定ならば各々の化学平衡における平衡定数はそれぞれ固有の値を持っています。

1-2.塩の溶解と溶媒和

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次に塩が溶解するときの挙動について詳しく見ていきましょう。ここでは身近な例として水に食塩 (塩化ナトリウム、これも「塩」の一種です)が溶けるときの挙動を取り上げます。なおイオン化合物全体を表す「塩」という用語と区別するために、ここでは食塩を「塩化ナトリウム」という正式名称で表記しますね。

塩化ナトリウムは陰イオンである塩素イオンと陽イオンであるナトリウムイオンが交互に並んだ構造を持っています。一方水分子は一見プラス、マイナスの電荷を持っているように見えません。しかし実際は酸素のほうが水素よりも電子を引っ張る力(電気陰性度)が大きいため水の酸素原子はマイナス、水素原子はプラスに寄った電荷を持っています。

ここで水と塩化ナトリウムを近づけてみましょう。すると静電気の引力によって塩素イオンは水の水素原子に囲まれ、ナトリウムイオンは水の酸素原子に囲まれます。これが溶媒和という現象です。溶媒和によってエネルギー的に安定になるため、塩化ナトリウムを始めとする塩は水などの極性溶媒に溶ける傾向があります。

1-3.溶解平衡

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次に溶解平衡時に起こっている現象を細かく見ていきましょう。先ほどと同様に食塩を例に取り上げます。水に食塩を入れ続けると、あるところで食塩が水中に残るようになりますね。このように「それ以上食塩が溶解しない状態」の食塩水を「飽和食塩水」と呼びます。そしてこの飽和状態が「溶解平衡」と呼ばれる状態です。

溶解平衡の状態の場合、見た目では食塩の溶解が止まったように見えます。しかし実際は溶解が完全に停止しているわけではありません。実は「食塩が水に溶ける」速度と「水中から食塩が析出する」速度が同じ状態になっているのです。

2.様々な条件での溶解平衡

前の章では塩の溶解現象と溶解平衡について学びました。この章では難溶性の塩の溶解平衡、複数のイオンが存在するときの溶解平衡、温度が変わったときの溶解平衡といった様々な溶解平衡を学びます。

条件は複雑かもしれませんが、一つ一つ平衡定数の式と照らし合わせて見ていきましょう。

2-1.難溶性の塩の溶解平衡

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塩の中には全く溶けていないように見える「難溶性」と呼ばれる塩もあります。しかし難溶性の塩も液体に何一つ溶けていないわけではありません。実はごく微量の塩は水中に溶けているのです。

ここでは難溶性の塩として塩化銀(AgCl)を例にして考えてみましょう。このとき前の章で考えた化学平衡を書いてみます。ただしここでは溶媒である水を省略して書いている点に注意してください。この化学平衡において平衡定数と同じように塩の「溶解度定数」を定義することができます。難溶性の塩は溶解したイオンの濃度が非常に小さいため、この溶解度定数も非常に小さい(例えば塩化銀の溶解度定数は10のマイナス10乗)です。

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2-2.複数の塩を含む溶液の溶解平衡

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次に複数の塩が含まれた水溶液の溶解平衡を考えてみましょう。ここでは塩化銀の溶解平衡が成り立っている状態の溶液に塩化ナトリウムを入れたときを考えます。このとき、平衡状態はどのように変化するでしょうか。

実は塩化ナトリウムを加えることで塩化銀が析出します。塩化ナトリウムが水に溶けることで塩素イオンの濃度が増加しますね。これによって塩化銀の平衡定数における右辺の塩素イオンの濃度が大きくなります。すると平衡定数を一定にするために銀イオンが減る、つまり銀イオンは塩素イオンと結合して塩化銀に戻ろうとするのです。

ちなみにこのような複数のイオンが存在するときの平衡状態は受験問題でもよく出てきます。入試対策にもなる部分なのでしっかり勉強して理解してくださいね。

2-3.温度と溶解平衡の変化

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最後に溶液の温度が変化したときの溶解平衡について学んでいきましょう。一般的に溶液を加熱すると塩の溶解性は増加します(逆に溶液を冷却すると溶解度が下がるので塩が沈殿します)。そして塩の溶解平衡が成り立つときの濃度、すなわち飽和状態のときの塩の濃度を各温度に対してグラフにしたものが「溶解度曲線」です。

一般的な塩の溶解性に関する情報は化学に関する教科書や公的な研究機関のサイトで調べられます。溶解度に関する情報は有機化学、無機化学の実験でも用いられることがある重要な情報です。もし塩を実験で取り扱う際はご自身でも溶解度を確認してみてください。

溶解平衡は塩の溶解における重要な現象の一つ

今回学習した溶解平衡と平衡定数は塩の溶解挙動を表す重要な情報です。平衡定数から塩がどれだけ溶解したか分かります。ちなみに平衡定数は溶解平衡に限らず、様々な場面で登場する項目なのでしっかり抑えておいてくださいね。

平衡は試験でもよく登場する項目ですが、理解するのは難しい項目かもしれません。ですが、化学平衡の反応式と平衡定数の式を一つ一つ丁寧に記述してみることできっと理解が深まるはずです。受験、試験を控えている方はぜひ平衡定数の計算も自分で行ってみてください。

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化学化学平衡無機物質物質の状態・構成・変化理科

5分で分かる「溶解平衡」飽和状態の水溶液で起こる現象とは?京大卒の研究者が分かりやすくわかりやすく解説!

1-1.平衡状態と平衡定数

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溶解平衡は化学平衡の一種です。通常の化学反応では左辺に書いた「反応物」から右辺に書いた「生成物」への変化が起こりますが、化学平衡では両方向の変化が起こります。そして平衡状態は「反応物から生成物への変化」と「生成物から反応物への変化」の量が同じ。つまり「見た目では反応が止まっているように見える」ことが特徴です。

このような平衡状態における反応物、生成物の量(濃度)は物質によって異なります。そこで平衡状態を表すために用いられる関係式が「平衡定数」です。平衡定数とは左辺の反応物の濃度の積を分母、右辺の生成物の濃度の積を分子で書き表される値で、温度、圧力が一定ならば各々の化学平衡における平衡定数はそれぞれ固有の値を持っています。

1-2.塩の溶解と溶媒和

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次に塩が溶解するときの挙動について詳しく見ていきましょう。ここでは身近な例として水に食塩 (塩化ナトリウム、これも「塩」の一種です)が溶けるときの挙動を取り上げます。なおイオン化合物全体を表す「塩」という用語と区別するために、ここでは食塩を「塩化ナトリウム」という正式名称で表記しますね。

塩化ナトリウムは陰イオンである塩素イオンと陽イオンであるナトリウムイオンが交互に並んだ構造を持っています。一方水分子は一見プラス、マイナスの電荷を持っているように見えません。しかし実際は酸素のほうが水素よりも電子を引っ張る力(電気陰性度)が大きいため水の酸素原子はマイナス、水素原子はプラスに寄った電荷を持っています。

ここで水と塩化ナトリウムを近づけてみましょう。すると静電気の引力によって塩素イオンは水の水素原子に囲まれ、ナトリウムイオンは水の酸素原子に囲まれます。これが溶媒和という現象です。溶媒和によってエネルギー的に安定になるため、塩化ナトリウムを始めとする塩は水などの極性溶媒に溶ける傾向があります。

1-3.溶解平衡

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次に溶解平衡時に起こっている現象を細かく見ていきましょう。先ほどと同様に食塩を例に取り上げます。水に食塩を入れ続けると、あるところで食塩が水中に残るようになりますね。このように「それ以上食塩が溶解しない状態」の食塩水を「飽和食塩水」と呼びます。そしてこの飽和状態が「溶解平衡」と呼ばれる状態です。

溶解平衡の状態の場合、見た目では食塩の溶解が止まったように見えます。しかし実際は溶解が完全に停止しているわけではありません。実は「食塩が水に溶ける」速度と「水中から食塩が析出する」速度が同じ状態になっているのです。

2.様々な条件での溶解平衡

前の章では塩の溶解現象と溶解平衡について学びました。この章では難溶性の塩の溶解平衡、複数のイオンが存在するときの溶解平衡、温度が変わったときの溶解平衡といった様々な溶解平衡を学びます。

条件は複雑かもしれませんが、一つ一つ平衡定数の式と照らし合わせて見ていきましょう。

2-1.難溶性の塩の溶解平衡

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塩の中には全く溶けていないように見える「難溶性」と呼ばれる塩もあります。しかし難溶性の塩も液体に何一つ溶けていないわけではありません。実はごく微量の塩は水中に溶けているのです。

ここでは難溶性の塩として塩化銀(AgCl)を例にして考えてみましょう。このとき前の章で考えた化学平衡を書いてみます。ただしここでは溶媒である水を省略して書いている点に注意してください。この化学平衡において平衡定数と同じように塩の「溶解度定数」を定義することができます。難溶性の塩は溶解したイオンの濃度が非常に小さいため、この溶解度定数も非常に小さい(例えば塩化銀の溶解度定数は10のマイナス10乗)です。

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