5分で分かる「溶解平衡」飽和状態の水溶液で起こる現象とは?京大卒の研究者が分かりやすくわかりやすく解説!
1-1.平衡状態と平衡定数
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溶解平衡は化学平衡の一種です。通常の化学反応では左辺に書いた「反応物」から右辺に書いた「生成物」への変化が起こりますが、化学平衡では両方向の変化が起こります。そして平衡状態は「反応物から生成物への変化」と「生成物から反応物への変化」の量が同じ。つまり「見た目では反応が止まっているように見える」ことが特徴です。
このような平衡状態における反応物、生成物の量(濃度)は物質によって異なります。そこで平衡状態を表すために用いられる関係式が「平衡定数」です。平衡定数とは左辺の反応物の濃度の積を分母、右辺の生成物の濃度の積を分子で書き表される値で、温度、圧力が一定ならば各々の化学平衡における平衡定数はそれぞれ固有の値を持っています。
1-2.塩の溶解と溶媒和
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次に塩が溶解するときの挙動について詳しく見ていきましょう。ここでは身近な例として水に食塩 (塩化ナトリウム、これも「塩」の一種です)が溶けるときの挙動を取り上げます。なおイオン化合物全体を表す「塩」という用語と区別するために、ここでは食塩を「塩化ナトリウム」という正式名称で表記しますね。
塩化ナトリウムは陰イオンである塩素イオンと陽イオンであるナトリウムイオンが交互に並んだ構造を持っています。一方水分子は一見プラス、マイナスの電荷を持っているように見えません。しかし実際は酸素のほうが水素よりも電子を引っ張る力(電気陰性度)が大きいため水の酸素原子はマイナス、水素原子はプラスに寄った電荷を持っています。
ここで水と塩化ナトリウムを近づけてみましょう。すると静電気の引力によって塩素イオンは水の水素原子に囲まれ、ナトリウムイオンは水の酸素原子に囲まれます。これが溶媒和という現象です。溶媒和によってエネルギー的に安定になるため、塩化ナトリウムを始めとする塩は水などの極性溶媒に溶ける傾向があります。
1-3.溶解平衡
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次に溶解平衡時に起こっている現象を細かく見ていきましょう。先ほどと同様に食塩を例に取り上げます。水に食塩を入れ続けると、あるところで食塩が水中に残るようになりますね。このように「それ以上食塩が溶解しない状態」の食塩水を「飽和食塩水」と呼びます。そしてこの飽和状態が「溶解平衡」と呼ばれる状態です。
溶解平衡の状態の場合、見た目では食塩の溶解が止まったように見えます。しかし実際は溶解が完全に停止しているわけではありません。実は「食塩が水に溶ける」速度と「水中から食塩が析出する」速度が同じ状態になっているのです。
2.様々な条件での溶解平衡
前の章では塩の溶解現象と溶解平衡について学びました。この章では難溶性の塩の溶解平衡、複数のイオンが存在するときの溶解平衡、温度が変わったときの溶解平衡といった様々な溶解平衡を学びます。
条件は複雑かもしれませんが、一つ一つ平衡定数の式と照らし合わせて見ていきましょう。
2-1.難溶性の塩の溶解平衡
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塩の中には全く溶けていないように見える「難溶性」と呼ばれる塩もあります。しかし難溶性の塩も液体に何一つ溶けていないわけではありません。実はごく微量の塩は水中に溶けているのです。
ここでは難溶性の塩として塩化銀(AgCl)を例にして考えてみましょう。このとき前の章で考えた化学平衡を書いてみます。ただしここでは溶媒である水を省略して書いている点に注意してください。この化学平衡において平衡定数と同じように塩の「溶解度定数」を定義することができます。難溶性の塩は溶解したイオンの濃度が非常に小さいため、この溶解度定数も非常に小さい(例えば塩化銀の溶解度定数は10のマイナス10乗)です。
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