「酸」という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。では酸が水に溶けたとき、どのように変化するか知っているか。今日学習する「共役塩基」は酸が水に溶けたときに水素イオンが外れることで生成するイオンです。
水中で酸は水素イオンと共役塩基に変換される。そして、この共役塩基に変換される量によって酸の大きさは定義されるんです。今回は化学平衡で重要な項目について学び、その後に酸と共役塩基の化学平衡を学んでいこう。化学に詳しいライター珈琲マニアといっしょに解説していきます。

ライター/珈琲マニア

京都大学で化学を学び、現在はメーカーの研究員として勤務。学生時代の専門は物理化学であり、化学現象の物理的な理論を説明することが得意。

1.化学平衡と平衡定数

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今回学習する共役塩基は液体中で酸が水素イオン(プロトン)を放出する現象に関連する用語です。酸のプロトン放出は化学平衡の一種であり、酸のプロトン放出と同時に共役塩基とプロトンの再結合も起こります。

共役塩基を学ぶにあたって、まずは化学平衡に関係する熱力学を学んでいきましょう。まずはギブズエネルギーや化学ポテンシャルを学び、その後に平衡定数の定義について学びます。そして実際の液体における平衡定数を定義するために必要な「活量」について学んでいきましょう。

1-1.ギブズエネルギーと化学ポテンシャル

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化学平衡とは「反応物→生成物」の変化量と「反応物←生成物」の逆方向の変化量が同じ状態です。一方で反応によっては反応物→生成物の変化量が多い、すなわち反応が進むものもあれば、反応物←生成物が多い、つまり反応がほとんど進まない、もしくは逆反応が進むものもあります。ではこれらの反応の差はなぜ生じるのでしょうか。

ここで重要な値が反応物、生成物の化学ポテンシャルの差から求められる反応ギブズエネルギーです。ギブズエネルギーとは各系が持っているエネルギーの一種であり「反応物よりも生成物のギブズエネルギーが小さければ反応は自発的に進む」というルールが熱力学より導かれます。そして化学ポテンシャルとは物質量の変化に対するギブズエネルギーの変化量です。

反応ギブズエネルギーの値が正、負、ゼロのいずれかによって反応の向きが決まります。反応ギブズエネルギーが負ならば正方向の反応が進み、正ならば逆方向の反応が進む。そして反応ギブズエネルギーがゼロのときに平衡状態となります。

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1-2.平衡状態の反応ギブズエネルギー

反応ギブズエネルギーがゼロになるとき、平衡状態になることを学びました。途中の計算式は割愛しますが反応ギブズエネルギーは化学ポテンシャルの定義から以下の式で書き表すことができます。ここでQは反応比と呼ばれるもので、反応物と生成物の量によって決まる値です。

ここで反応ギブズエネルギー⊿rGにゼロを代入してみましょう。すると標準状態(圧力が1bar)の反応ギブズエネルギーとQの間で以下の式が成り立ちます。標準反応ギブズエネルギーは熱力学データから予測することができるため、この式からQを求めることができるのです。

1-3.実在液体の活量と平衡定数

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ここで2種類以上の化合物が含まれた液体の化学ポテンシャルは以下の式で表すことができます。化合物同士の相互作用にほとんど差がない場合Aの圧力は純粋なAの蒸気圧pA*にモル分率xAを掛けた値で表すことができるため、化学ポテンシャルは以下のように書き換えることが可能です。ただし相互作用の大きさが変わる場合、モル分率xAは「活量」という値で書き換える必要があります。

 

ここで前の章で学習した反応比Qに戻りましょう。実はこの反応比Qは反応物、生成物の活量を用いて以下のように表すことができるのです。そして平衡状態の場合反応比Qは他の状態と区別するために平衡定数Kとして以下の式で表します。

2.酸と共役塩基

この章では酸と共役塩基の関係について学んでいきましょう。酸と水素イオンH+を放出した共役塩基ならびに水素イオンの間での平衡状態の違いによって酸の強さは決まります。

酸の強さとしてpHという値を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。この値は酸と共役塩基の平衡定数によって決まります。この章では活量を用いたpHの定義を見て、その後に水以外の溶媒でも成り立つ酸定数について学んでいきましょう。

2-1.pHの定義と活量

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酸が入った水溶液を題材に、pHと共役塩基について考えていきましょう。水中での酸の化学平衡は以下の式によって表すことができます。水中で酸は水素が陽イオンとして解離して、同時に元の分子から水素が一つ脱離した陰イオンが生成。この陰イオンが「共役塩基」です。

酸の強さを表すpHは酸から解離した水素イオン(陽子)が水に付加したH3O+の活量を用いて以下のように定義されます。なお酸の濃度が小さい場合、活量はモル濃度に置き換えることが可能です。おそらくモル濃度に置き換えた式のほうが一般的ではないでしょうか。

2-2.酸定数と共役塩基

ここで改めて水溶液中の酸の化学平衡を見ていきましょう。この酸の平衡も活量を用いた平衡定数の式で表現することが可能です。そして希薄溶液においては水の活量を「1」に近似できることため、平衡定数は「酸定数」Kaとして共役塩基などの活量を用いて以下の式で表します。

酸定数Kaは希薄溶液において活量からモル濃度で書き換えることが可能です。つまり、酸定数は共役塩基などのモル濃度を用いて以下の式で表されます。ところで酸定数KaはpHと同じように対数を用いて「pKa」という値で表すことも多いです。ちなみに前の章で学んだ通り、平衡定数は標準反応ギブズエネルギーと関係があります。つまり酸定数の大きさは標準ギブズエネルギーの大小を反映しているのです。

\次のページで「2-3.2価以上の酸の共役塩基」を解説!/

2-3.2価以上の酸の共役塩基

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さて今までは1つの水素イオンだけ解離する酸について考えました。しかし2つ以上の水素を放出する酸も多数存在します。最後にこのような多価の酸について、炭酸H2CO3を題材にして考えてみましょう。炭酸は2つ水素が付いており、順番に水素が解離、2種類の共役塩基が生成します。

さて多価の酸では平衡状態をどのように表すのでしょうか。多価の酸では1つだけ水素が解離した場合、2つ水素が乖離した場合それぞれの平衡状態があり、それぞれ固有の酸定数を持っています。ちなみに一般的に1つだけ水素が解離した場合のほうがpKaは小さい、すなわち共役塩基になる量が多めです。

酸と共役塩基は一つのセットとして覚えよう

共役塩基とは酸が水などの溶液に溶けることによって生じるイオンであり、水素イオンの解離によって生成します。「酸と共役塩基は一つのセット」、「共役塩基の相手は水素イオン」と覚えたらわかりやすいかもしれません。

また今回学んだ酸定数のように、化学平衡と平衡定数は様々な場面で登場します。教科書でご覧になった方々もいるかもしれませんね。平衡定数は一見複雑に見えてわかりにくいかもしれませんが、非常に重要な値です。個人的には「平衡」は化学の中でも難しい分野と感じますが、実際に計算してみると理解が深まります。参考書や教科書を読むときも、ぜひ1ページごとに手を動かしながら勉強してみてください。

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化学化学平衡無機物質物質の状態・構成・変化理科

5分で分かる「共役塩基」酸の強さと溶液中で生成するイオンとの関係は?京大卒の研究者がわかりやすく解説!

2-3.2価以上の酸の共役塩基

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さて今までは1つの水素イオンだけ解離する酸について考えました。しかし2つ以上の水素を放出する酸も多数存在します。最後にこのような多価の酸について、炭酸H2CO3を題材にして考えてみましょう。炭酸は2つ水素が付いており、順番に水素が解離、2種類の共役塩基が生成します。

さて多価の酸では平衡状態をどのように表すのでしょうか。多価の酸では1つだけ水素が解離した場合、2つ水素が乖離した場合それぞれの平衡状態があり、それぞれ固有の酸定数を持っています。ちなみに一般的に1つだけ水素が解離した場合のほうがpKaは小さい、すなわち共役塩基になる量が多めです。

酸と共役塩基は一つのセットとして覚えよう

共役塩基とは酸が水などの溶液に溶けることによって生じるイオンであり、水素イオンの解離によって生成します。「酸と共役塩基は一つのセット」、「共役塩基の相手は水素イオン」と覚えたらわかりやすいかもしれません。

また今回学んだ酸定数のように、化学平衡と平衡定数は様々な場面で登場します。教科書でご覧になった方々もいるかもしれませんね。平衡定数は一見複雑に見えてわかりにくいかもしれませんが、非常に重要な値です。個人的には「平衡」は化学の中でも難しい分野と感じますが、実際に計算してみると理解が深まります。参考書や教科書を読むときも、ぜひ1ページごとに手を動かしながら勉強してみてください。

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