2.形式電荷と化学構造
前の章では電子対に着目した化学構造の記載方法であるルイス構造について学び、その後に形式電荷の計算法について学びました。この章では化合物、イオン中の各原子の形式電荷を計算することで化合物がとり得る構造の予測を行っていきます。
また最後に化合物の中に含まれる原子に数値を付与するものとして形式電荷と比較されることもある「酸化数」について、形式電荷との違いに着目して学んでいきましょう。
2-1.共鳴状態と形式電荷
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ルイス構造と形式電荷を炭素以外の化合物にも当てはめてみましょう。ここでは例としてロケットの推進剤にも使われるフッ化ニトロイルNO2Fを考えます。この化合物のルイス構造を下に表記しました。このときの形式電荷はどのようになるでしょうか。
実はフッ化ニトロイルがとり得る構造は理論上複数存在します。しかし、その中でいくつかの構造はエネルギー的に不安定であるため、実際に取ることはありません。この安定な構造を考える上で重要なのが各原子の形式電荷です。まずいちばん左側のルイス構造を見てみると窒素の形式電荷が+2となっており、他の構造よりも正電荷が大きくなっています。このような大きな電荷を持っているものは安定に存在できません。また一番右側の構造ではフッ素原子の形式電荷が+1になっています。しかしフッ素は電気的に陰性な原子であるため、正電荷を持つものは安定に存在できません。
以上の結果からフッ化ニトロイルがとり得る構造は真ん中二つの構造であると言えます。
2-2.形式電荷と酸化数の違い
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読者の中には形式電荷と似た値として、「酸化数」を思い浮かべた方々もいるかもしれません。確かに酸化数も形式電荷と同じように各原子に正負の数字を付与しています。しかし両者の決め方は全く異なっており、同一に考えることはできません。
形式電荷ではルイス構造を書き、計算式に従って各原子の値を計算していました。一方で酸化数の場合は原子の種類によって値がほぼ固定されています。例えば1族の原子は+1、2族の原子は+2、酸素は基本的に-2、ハロゲンは基本的に-1のように。
このような酸化数と形式電荷の違いの由来として、両者が想定している結合の種類の違いが挙げられます。形式電荷は原子間の共有結合の形成を想定して提案された値で、酸化数では原子間のイオン結合を想定して提案された値でした。両者ともに原子が形成する結合を想定して考えられたため原子ごとに数値を出しているものの、想定した結合の種類が違うため値の求め方が全く異なっていたわけです。
ルイス構造と形式電荷は化合物の電子対に着目した重要な表記法
今回はルイス構造と形式電荷について学習しました。20世紀初頭に登場した量子化学によって、各原子が持っている電子が化合物の様々な性質に影響することが分かりました。電子の動きを書き表す際にルイス構造や形式電荷の考え方は重要です。
今回学習した内容は非常に簡潔にまとめた内容ですが、現代の化学を学ぶうえで非常に役立ちます。有機化学、無機化学いずれの分野においてもルイス構造、形式電荷は入口となる考え方の一つであるので、しっかりと学んでおきましょう。