化学において化合物やイオンの構造を適切に書くことは非常に重要です。高校では分子や化合物の様々な表記方法を学んでいくが、その中で電子対を黒点(ドット)で書く方法がある。この方法で書いた化合物の構造は「ルイス構造」と呼ばれており、電子の動きを書き表すうえで非常に便利なんです。そして今回学習する「形式電荷」はルイス構造において各原子が持っている電荷のことです。
ルイス構造は化学を学ぶための第一歩と言えるくらい重要です。今日はルイス構造を学んだ後に形式電荷の計算方法を学び、最後に形式電荷と化合物の安定性について学んでいこう。化学に詳しいライター珈琲マニアと一緒に解説していきます。

ライター/珈琲マニア

京都大学で化学を学び、現在はメーカーの研究職として勤務。学生時代の専門である物理化学を中心に、化学全般に関する知識が豊富なライター。

1.ルイス構造と形式電荷

世の中に存在する数多くの化合物の理解を深める上で重要な概念が「原子間の結合」です。この原子間の結合形成において電子が重要な役割を担う、ということをアメリカの化学者ルイスは発見しました。そしてルイスが提唱した化学構造の表記法が「ルイス構造」です。この章ではルイス構造の書き方について学んだ後にルイス構造に関連する考えとして「形式電荷」について学びます。その後、炭素原子を例として様々な化学種の形式電荷を学んでいきましょう。

1-1.ルイス構造

image by iStockphoto

化合物の共有結合などを表すときに電子対を黒丸(ドット)で表すのは一般的な方法です。高校の化学でもこのような表現法を勉強した方は多いのではないでしょうか。実はこのドットを用いた表記で表した化学構造は「ルイス構造」と呼ばれています。

ルイス構造を用いた表記法はアメリカの化学者であるルイスによって20世紀初頭に提案されました。このように化合物の電子に着目することで化合物に対する私達の理解は一気に深まり、化学結合に関する理論も一気に進歩しました。このような化学の進歩に貢献したルイス構造について最初に学んでいきましょう。

ルイス構造ではC,O,Nなどの原子はオクテット則、つまり原子が持てる電子の数は8つというルールを守る必要があります。また水素が持てる電子の上限は2個です。これらの電子のうち、結合に使われる電子対は2つの原子の間に書き、結合に関与しない電子対(孤立電子対)は別の場所に書きます。

1-2.形式電荷

image by iStockphoto

ルイス構造で書き表すことができるのは通常の化合物だけではありません。イオンもルイス構造で書き表すことができます。ここでは例として酸と塩基で重要な役割を果たす水にプロトンが付加したオキソニウムイオン、水からプロトンが脱離した水酸化物イオンを考えてみましょう。

オキソニウムイオンでは酸素に3つの水素が結合しており、水酸化物イオンでは酸素に1つの水素が結合しています。このときオキソニウムイオンでは「酸素の結合が1つ多い」、水酸化物イオンでは「酸素の結合が1つ少ない」ため、結合数の差によって形式上電荷が発生。この電荷を「形式電荷」と呼びます。

形式電荷を計算する式は以下のとおりです。オキソニウムイオンでは酸素の価電子が6であるのに対して、孤立電子対の電子数と(共有電子対の1/2)の和が5となるので形式電荷は+1。同様に水酸化物イオンでは孤立電子対の電子数と(共有電子対の1/2)の和が7なので形式電荷は-1となります。

1-3.炭素の形式電荷

image by iStockphoto

次に炭素の化合物について形式電荷を見ていきましょう。以下に様々な炭素の化合物を示しました。これらの化合物の形式電荷も先ほど学んだ式で計算することができます。炭素化合物の特徴の一つは形式電荷がプラスのイオンとマイナスのイオンを持つ化学種があることです。

正に帯電した炭素原子を含む化学種をカルボカチオンと呼び、負に帯電した炭素原子を含む化学種をカルボアニオンと呼びます。名前からも予測できるかもしれませんが、カルボカチオンの形式電荷は+1、カルボアニオンの形式電荷は-1です。カルボカチオンかカルボアニオンの化学反応における挙動は大きく異なり、有機化学においてこれらの化学種は様々な場面で登場します。

\次のページで「2.形式電荷と化学構造」を解説!/

2.形式電荷と化学構造

前の章では電子対に着目した化学構造の記載方法であるルイス構造について学び、その後に形式電荷の計算法について学びました。この章では化合物、イオン中の各原子の形式電荷を計算することで化合物がとり得る構造の予測を行っていきます。

また最後に化合物の中に含まれる原子に数値を付与するものとして形式電荷と比較されることもある「酸化数」について、形式電荷との違いに着目して学んでいきましょう。

2-1.共鳴状態と形式電荷

image by iStockphoto

ルイス構造と形式電荷を炭素以外の化合物にも当てはめてみましょう。ここでは例としてロケットの推進剤にも使われるフッ化ニトロイルNO2Fを考えます。この化合物のルイス構造を下に表記しました。このときの形式電荷はどのようになるでしょうか。

実はフッ化ニトロイルがとり得る構造は理論上複数存在します。しかし、その中でいくつかの構造はエネルギー的に不安定であるため、実際に取ることはありません。この安定な構造を考える上で重要なのが各原子の形式電荷です。まずいちばん左側のルイス構造を見てみると窒素の形式電荷が+2となっており、他の構造よりも正電荷が大きくなっています。このような大きな電荷を持っているものは安定に存在できません。また一番右側の構造ではフッ素原子の形式電荷が+1になっています。しかしフッ素は電気的に陰性な原子であるため、正電荷を持つものは安定に存在できません。

以上の結果からフッ化ニトロイルがとり得る構造は真ん中二つの構造であると言えます。

2-2.形式電荷と酸化数の違い

image by iStockphoto

読者の中には形式電荷と似た値として、「酸化数」を思い浮かべた方々もいるかもしれません。確かに酸化数も形式電荷と同じように各原子に正負の数字を付与しています。しかし両者の決め方は全く異なっており、同一に考えることはできません。

形式電荷ではルイス構造を書き、計算式に従って各原子の値を計算していました。一方で酸化数の場合は原子の種類によって値がほぼ固定されています。例えば1族の原子は+1、2族の原子は+2、酸素は基本的に-2、ハロゲンは基本的に-1のように。

このような酸化数と形式電荷の違いの由来として、両者が想定している結合の種類の違いが挙げられます。形式電荷は原子間の共有結合の形成を想定して提案された値で、酸化数では原子間のイオン結合を想定して提案された値でした。両者ともに原子が形成する結合を想定して考えられたため原子ごとに数値を出しているものの、想定した結合の種類が違うため値の求め方が全く異なっていたわけです。

ルイス構造と形式電荷は化合物の電子対に着目した重要な表記法

今回はルイス構造と形式電荷について学習しました。20世紀初頭に登場した量子化学によって、各原子が持っている電子が化合物の様々な性質に影響することが分かりました。電子の動きを書き表す際にルイス構造や形式電荷の考え方は重要です。

今回学習した内容は非常に簡潔にまとめた内容ですが、現代の化学を学ぶうえで非常に役立ちます。有機化学、無機化学いずれの分野においてもルイス構造、形式電荷は入口となる考え方の一つであるので、しっかりと学んでおきましょう。

" /> 5分で分かる「形式電荷」電子に着目して化合物を書いてみよう!京大卒の研究者が分かりやすくわかりやすく解説! – ページ 2 – Study-Z
化学原子・元素有機化合物無機物質物質の状態・構成・変化理科

5分で分かる「形式電荷」電子に着目して化合物を書いてみよう!京大卒の研究者が分かりやすくわかりやすく解説!

2.形式電荷と化学構造

前の章では電子対に着目した化学構造の記載方法であるルイス構造について学び、その後に形式電荷の計算法について学びました。この章では化合物、イオン中の各原子の形式電荷を計算することで化合物がとり得る構造の予測を行っていきます。

また最後に化合物の中に含まれる原子に数値を付与するものとして形式電荷と比較されることもある「酸化数」について、形式電荷との違いに着目して学んでいきましょう。

2-1.共鳴状態と形式電荷

image by iStockphoto

ルイス構造と形式電荷を炭素以外の化合物にも当てはめてみましょう。ここでは例としてロケットの推進剤にも使われるフッ化ニトロイルNO2Fを考えます。この化合物のルイス構造を下に表記しました。このときの形式電荷はどのようになるでしょうか。

実はフッ化ニトロイルがとり得る構造は理論上複数存在します。しかし、その中でいくつかの構造はエネルギー的に不安定であるため、実際に取ることはありません。この安定な構造を考える上で重要なのが各原子の形式電荷です。まずいちばん左側のルイス構造を見てみると窒素の形式電荷が+2となっており、他の構造よりも正電荷が大きくなっています。このような大きな電荷を持っているものは安定に存在できません。また一番右側の構造ではフッ素原子の形式電荷が+1になっています。しかしフッ素は電気的に陰性な原子であるため、正電荷を持つものは安定に存在できません。

以上の結果からフッ化ニトロイルがとり得る構造は真ん中二つの構造であると言えます。

2-2.形式電荷と酸化数の違い

image by iStockphoto

読者の中には形式電荷と似た値として、「酸化数」を思い浮かべた方々もいるかもしれません。確かに酸化数も形式電荷と同じように各原子に正負の数字を付与しています。しかし両者の決め方は全く異なっており、同一に考えることはできません。

形式電荷ではルイス構造を書き、計算式に従って各原子の値を計算していました。一方で酸化数の場合は原子の種類によって値がほぼ固定されています。例えば1族の原子は+1、2族の原子は+2、酸素は基本的に-2、ハロゲンは基本的に-1のように。

このような酸化数と形式電荷の違いの由来として、両者が想定している結合の種類の違いが挙げられます。形式電荷は原子間の共有結合の形成を想定して提案された値で、酸化数では原子間のイオン結合を想定して提案された値でした。両者ともに原子が形成する結合を想定して考えられたため原子ごとに数値を出しているものの、想定した結合の種類が違うため値の求め方が全く異なっていたわけです。

ルイス構造と形式電荷は化合物の電子対に着目した重要な表記法

今回はルイス構造と形式電荷について学習しました。20世紀初頭に登場した量子化学によって、各原子が持っている電子が化合物の様々な性質に影響することが分かりました。電子の動きを書き表す際にルイス構造や形式電荷の考え方は重要です。

今回学習した内容は非常に簡潔にまとめた内容ですが、現代の化学を学ぶうえで非常に役立ちます。有機化学、無機化学いずれの分野においてもルイス構造、形式電荷は入口となる考え方の一つであるので、しっかりと学んでおきましょう。

1 2
Share: