3分で簡単「脱炭酸酵素」病気や薬との関係は?現役理系大学院生がわかりやすく解説!
ライター/Caori
国立大学の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。
1.脱炭酸酵素とは
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脱炭酸酵素とは、カルボン酸またはアミノ酸などの有機化合物のカルボキシル基(-COOH)を炭酸(CO2)として離脱させたり、炭酸として付加したりする反応を触媒する酵素の総称です。日本語では酵素名に「脱」とついていますが、離脱させる反応だけでなく、付加する反応も触媒することがポイント。このように除去と付加、両方の反応を触媒する酵素を英語ではリアーゼ(lyase)、日本語では除去付加酵素と呼んでいます。
脱炭酸酵素は付加と除去の両方の反応を触媒しますが、反応の平衡が付加する反応(カルボキシル化)に偏っている場合にはカルボキシラーゼ(Carboxylase)。除去する反応に偏っている場合には除去や否定の意を加える接頭辞「de-」をつけて、デカルボキシラーゼ(decarboxylase)とも呼ばれます。
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2.代表的な脱炭酸酵素
脱炭酸酵素は酵素の総称なので、それぞれの酵素は触媒する基質の名前を取って命名される場合が多いです。たとえば、グルタミン酸の脱炭酸を触媒する酵素ならば、「グルタミン酸脱炭酸酵素(グルタミン酸デカルボキシラーゼ)」、ピルビン酸の脱炭酸を触媒する酵素ならば「ピルビン酸脱炭酸酵素(ピルビン酸デカルボキシラーゼ)」のように命名されます。
ここでは、神経伝達物質のGABAの生成を触媒する「グルタミン酸脱炭酸酵素」と、世界で一番多い酵素と言われている「Rubisco(リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ)」について解説し、最後に脱炭酸酵素を利用したパーキンソン病の治療薬についてご紹介しますね。
グルタミン酸脱炭酸酵素とGABA
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グルタミン酸脱炭酸酵素(グルタミン酸デカルボキシラーゼ、GAD)はグルタミン酸を脱炭酸する酵素の一種です。この酵素は動植物・微生物に幅広く存在しており、グルタミン酸から神経伝達物質の一種であるGABAと二酸化炭素を生成する反応を触媒しています(L-グルタミン酸+H→GABA+CO2)。
GABAは主に抑制性の神経伝達物質として機能している物質で、精神的なストレスや緊張を和らげ、興奮系の神経伝達物質の過剰分泌を抑えて落ち着かせる働きをしています。チョコレートなどに配合されているため知っている人も多いかもしれませんね。GABAにはストレスの緩和のほかにも、疲労感の軽減、睡眠の改善、血圧の改善などの機能は報告されています。
グルタミン酸脱炭酸酵素とGABA高蓄積トマト
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GABAは血圧上昇を抑制する効果があるとされています。GABAはアミノ酸の一種のため、食品に多く含まれていますが、血圧上昇の抑制効果を得ようと思ったら多量の食品を摂取せねばならず、現実的ではありません。このため、日常的に食べられる量で効果を得られるように、野菜のGABA含有量を増やす品種改良(育種)研究が世界各国で行われてきました。
ゲノム編集による品種改良は米国ではすでに実用化されていますが、日本では例がありませんでした。しかし、筑波大発と筑波大学発のベンチャー企業「サナテックシード」がトマトのグルタミン酸脱炭酸酵素を抑制する遺伝子を編集(ゲノム編集)して、グルタミン酸脱炭酸酵素の活性を高め、通常の5〜6倍のGABAを含むGABA高蓄積トマトを作りだすことに成功したのです。2020年12月には厚労省に販売流通を届け出て受理されました。ゲノム編集食品の届け出や、受理は国内初です。
世界で一番多い酵素Rubisco(ルビスコ)
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Rubisco(ルビスコ)とは、リブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ (ribulose-1,5-bisphosphate carboxylase/oxygenase)の略で、光合成反応の炭酸固定反応に関与する唯一の酵素です。リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ、RuBPカルボキシラーゼとも呼ばれます。この酵素はD-リブロース1,5-ビスリン酸に炭酸を付加し、ホスホグリセリン酸を生成する反応を触媒しています(D-リブロース1,5-ビスリン酸 + CO2 + H2O → 2 × ホスホグリセリン酸 )。
Rubiscoは光合成における鍵となる酵素で、光合成をおこなうほぼすべての緑色植物と光合成細菌がこの酵素を大量に所持しています。このため、Rubiscoは地球上で最も多いタンパク質(酵素)だといわれています。
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