5分で分かる「結合距離」原子間の距離に影響するものは何?京大卒の研究員がわかりやすく解説!
1-1.結合の種類と結合距離
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共有結合にはいくつか種類があり、単結合、二重結合、三重結合に分けられるという話を科学の授業で聞いた人もいるかもしれません。まずはこれらの結合について見ていきましょう。ここではそれぞれの結合を持つ化合物としてエタン、エチレン、アセチレンの化学式と結合距離を並べました。ちなみにここで使っている「Å」という記号は「オングストローム」という単位で「10のマイナス10乗メートル(0.0000000001メートル)」です。非常に短い長さですが原子の距離を表すときにちょうどいい大きさなので、この用語はよく使われます。
3つの化合物を比較すると、結合の数が多くなると結合距離が短くなっていることが分かりますね。つまり非常に簡単にまとめると「単結合の結合距離は最も長く、三重結合の結合距離が最も短くなる」といえます。これは全ての原子に共通する性質です。ちなみにベンゼンのような芳香族化合物の炭素-炭素結合は「単結合と二重結合の間の結合」と言われますが、その結合距離は1.399Åであり、単結合より短くて二重結合よりは少し長い値になっています。
1-2.結合の種類と強さ
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次に共有結合の構造をもう少し詳しく見ていきましょう。共有結合はそれぞれの原子から電子を渡し合うことによって生成されます。高校の化学では「原子の手」という例えで習ったのではないでしょうか。
単結合、二重結合、三重結合を形成する共有結合の模式図を以下に示しました。単結合と二重結合、三重結合いずれも、結合と同じ向きに存在する電子によって「σ結合」が形成されます。ただし二重結合、三重結合ではσ結合だけが作られるのではありません。2つ目、3つ目の結合として、σ結合に対して垂直方向に位置する電子同士が形成する「π結合」もあります。
つまり単結合から二重結合、三重結合になるにつれて結合の数が増えるわけです。より多くの結合を形成するため二重結合、三重結合は結合力が強くなり(結合を切断するために多くのエネルギーが必要となり)、結合距離も短くなります。
2.様々な原子の結合距離
前の章では炭素原子に絞って結合の種類と結合距離を考えました。では化合物が変わると原子間の結合距離はどのように変化するのでしょうか。また、原子が変わると結合距離はどのように変化するのでしょうか。この章では様々な化合物の結合距離を確認していきましょう。
2-1.同じ原子の結合距離
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前の章と同様に、まずは炭素について様々な化合物を取り上げて結合距離を見ていきましょう。炭素と炭素が単結合を作る化合物の結合距離を以下の表にまとめました。
表から化合物の構造に関係なく、炭素-炭素間の結合距離は一定であることが読み取れますね。ダイヤモンドのように炭素だけから作られる化合物と、酸素が含まれるアセトンでも結合距離は変わりません。このように化合物が異なっても結合を形成する原子が同じならば単結合、二重結合、三重結合同士の結合距離は一定になります。
2-2.原子の共有結合半径と結合距離
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次に異なる原子の結合距離を考えていきましょう。先ほどは結合を形成する原子が同じならば化合物が異なっていても結合距離はほぼ定数になることを説明しました。従って、原子と結合の種類が分かれば結合距離はある程度予測できると考えられます。そこで原子ごとに値が異なる「結合半径」と呼ばれる概念を導入して、結合距離の予測を行うようになりました。つまり二つの球状の原子が接触したときの距離が結合距離になる、というわけです。
以下に代表的な原子の結合半径の一覧を並べました。この表から例えば炭素と水素の単結合では結合距離は0.30+0.772=1.072Åになると予想できます。また炭素(C)よりもケイ素(Si)、のように原子番号が大きい原子ほど結合半径の値は大きいです。これは原子番号が大きい原子ほど電子の数が多く、外側の電子殻にも電子が存在しているため、原子のサイズも大きくなったことに由来します。
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