塩水や炭酸水、お酒など2つ以上の化合物が混ざった液体は身の回りに沢山ある。このような混合溶液を理解することは化学において非常に重要です。そして、今回学習する「理想溶液」は混合溶液を理解する入り口となる概念です。
今日はまずエントロピーなどの熱力学の考え方を学び、その後に理想溶液、理想希薄溶液について学んでいこう。化学に詳しいライター珈琲マニアと一緒に解説していきます。

ライター/珈琲マニア

京都大学で化学を学び、現在はメーカーの研究員として勤務。学生時代の専門は物理化学であり、溶液の物理現象に関する知識も豊富なライター。

1.理想溶液を学ぶための用語集

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お酒は水やエタノールなどの混合物、炭酸飲料は水や二酸化炭素、砂糖の混合物など、二つ以上の化合物が混合した溶液は私達の周りに数多くあります。溶液の中で起こっている現象を理解することは化学において非常に重要です。今回学習する「理想溶液」は溶液を理解するための第一歩となります。

理想溶液を学ぶためには熱力学の知識やエネルギーに関する知識が必要です。この章ではエントロピーやギブズエネルギーなど、溶液の化学における基礎用語を学んでいきましょう。溶液化学や熱力学は少し取っつきにくいかもしれませんが、一つずつ一緒に学んでいきましょう。

1-1.熱力学第二法則

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まずは熱力学の基本法則の一つである「熱力学第二法則」について学びます。「エントロピー増加の法則」と言うと聞き覚えのある人がいるかもしれません。エントロピーは「乱雑さの指標」とよく言われており、「整理された部屋がどんどん散らかっていく」という例えで表されることが多いです。

では化学、物理においてエントロピーは何を意味しているのでしょうか。一体どんな状態が「乱雑さ」を表しているのでしょうか。ポイントは原子や分子の運動です。例えば仕切りを入れた箱で片方に窒素、もう片方に酸素を入れた場合、仕切りを取ると酸素と窒素は混ざり合います。これは酸素や窒素が狭い空間に留まるよりも広い空間へ拡散していくほうが「より乱雑」になるためです。つまり最初よりも分子が散らかっている、というイメージですね。

1-2.ギブズエネルギー

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次に学ぶのはギブズエネルギーです。提案者であるアメリカの化学者ギブズ(ギブス、と間違えやすいので注意)の名前が付きました。ある温度、圧力の空気が持つ熱量(エネルギー)である「エンタルピー」と先ほど学んだエントロピー、温度を組み合わせた式でギブズエネルギーは表されます。

ここで先ほどのエントロピー増加の法則とギブズエネルギーを組み合わせてみましょう。ギブズエネルギーの中でエンタルピーと温度が変わらないときを考えます。このような状態でもエントロピーは増加するため、ギブズエネルギーの値は負です。逆に言うと「ある変化によってギブズエネルギーが負になる場合、その変化は自発的に進む」となります。つまり勝手に反応が進むというわけですね。

1-3.化学ポテンシャル

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最後に学ぶのは化学ポテンシャルです。名前に「化学」という単語が入っていることから分かるように、化学ポテンシャルは化学反応、平衡において重要な役割を果たします。まずは定義を見ていきましょう。

化学ポテンシャルはギブズエネルギーを物質量(モル)で偏微分した値です。と言っても「偏微分」という言葉に馴染みがない人もいるかもしれませんね。非常に簡単に言うと「化学ポテンシャルはモルが変化したときにギブズエネルギーがどれだけ変化したか」を示す量です。偏微分は分母の量が変わったときに分子の量がどれだけ変わったかを表します。

ところで高校化学で理想気体という用語を習った人はいるでしょうか。理想気体では気体定数Rを用いることで圧力P、体積V、モルn、温度Tの関係を”PV=nRT”というシンプルな式(状態方程式)で表せます。この状態方程式を満たす理想気体の化学ポテンシャルを見ていきましょう。

複雑な式に見えますが、ここではおおよその意味を理解するだけで構いません。この式を簡単に言うと「1bar(ほぼ1気圧)のときの圧力に対する今の系の圧力の大きさによって化学ポテンシャルが変化する」ということです。

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2.理想溶液とは

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前の章ではエントロピー、ギブズエネルギー、化学ポテンシャルといった溶液の物理化学を学ぶ上で重要なキーワードを学びました。次にこれらの用語を使って理想溶液について学んでいきましょう。

この章では「理想溶液」と「理想希薄溶液」というよく似た二つの用語を学びます。後者は「希薄」という言葉から分かるように溶媒に溶けている成分(溶質)の濃度が薄いときに当てはまる式です。この章でも数式が出てきますが、一つ一つの式の意味も説明するので一歩ずつ学んでいきましょう。

2-1.理想溶液とラウールの法則

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最初に学ぶのは「理想溶液」、そして理想溶液で成り立つ「ラウールの法則」です。まずはシンプルな系として単一の化合物である液体(純物質)を考えてみましょう。ある空間に液体がある場合、一部は蒸気として気体に変化します。このとき気体と液体が平衡状態、すなわち「気体→液体」に変化する量と「液体→気体」に変化する量が同じ状態ならば液体の化学ポテンシャルと気体の化学ポテンシャルは同一の値です。

さて、ここで純物質Aにもう一つの物質Bが混ざった場合を考えてみましょう。この場合、純物質の蒸気圧はpA*からpAに変化しており、以下の式で表されます。ここで上の式、下の式を組み合わせることで得られる液体中のAの化学ポテンシャルは以下の通りです。

この式でAのモル分率(物質量で表したAの比率)xAを用いてpA=xApA*と表される溶液を「理想溶液」と呼び、pA=xApA*の関係式を「ラウールの法則」と呼びます。つまり蒸気圧がモル分率に比例する液体が「理想溶液」と呼ばれるわけです。

2-2.理想溶液の解釈

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理想溶液では混合溶液に含まれる各成分の蒸気圧(分圧)がモル分率に比例すると説明しました。では、この式はどのような状態を反映しているのでしょうか。ポイントは「モル分率に比例する」という点です。「比例する」ということは混合溶液に含まれる化合物の性質が似ているということを反映しています。

Aのモル分率が0に近いとき、ほぼ1のときの溶液中の分子を考えてみましょう。モル分率がほぼ0ならば溶液中の分子Aの周りには分子Bが大量に存在し、Aのモル分率がほぼ1ならば分子Aの周りには別の分子Aが大量に存在します。このように全く異なる環境の溶液を同一の式で表すことができるということは「AとBの性質が似ている」、つまり「AとBの相互作用の大きさがほぼ同じ」ことを反映しているのです。

ちなみに理想溶液に似た挙動を示す溶液の例としてベンゼンとトルエンの混合溶液が挙げられます。ほぼ同じ化学構造をしているため、相互作用が同じになり、理想溶液に近い挙動を示すわけですね。

2-3.理想希薄溶液とヘンリーの法則

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ところで理想溶液の式に従わない溶液もたくさんあります。このような溶液ではモル分率に対する分圧が直線にはなりません。しかし溶質のモル分率がほぼ0、すなわち濃度が小さい領域においては溶質の分圧はモル分率に比例するという法則がイギリスの化学者ヘンリーによって見いだされました。これを「ヘンリーの法則」と呼び、溶質がヘンリーの法則に従い、溶媒がラウールの法則に従う混合物を「理想希薄溶液」と呼びます。

理想溶液は溶液の化学を理解するための第一歩

今回学習した「理想溶液」は実在の溶液を記述できるシンプルな考え方の一つです。もちろん実際の溶液では理想溶液の式に従わないものもありますが、大量の分子が存在する「溶液」を適切に表せる理想溶液の考え方は溶液を理解するための第一歩とも言えます。

溶液を理解するためにはエントロピーなどの熱力学の知識が必要です。熱力学は数式を用いた記述が中心であり、もしかしたら取っ付きにくいかもしれません。しかし熱力学を理解することで溶液や気体などを詳しく理解することができます。理想溶液を入り口として、熱力学、溶液の化学を学んでみると身近な物質の深い理解につながっていくことでしょう。

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化学有機化合物熱力学物質の状態・構成・変化理科

5分で分かる「理想溶液」溶液で成り立つ法則と背景に潜む物理現象とは?京大卒の研究者が丁寧にわかりやすく解説!

2.理想溶液とは

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前の章ではエントロピー、ギブズエネルギー、化学ポテンシャルといった溶液の物理化学を学ぶ上で重要なキーワードを学びました。次にこれらの用語を使って理想溶液について学んでいきましょう。

この章では「理想溶液」と「理想希薄溶液」というよく似た二つの用語を学びます。後者は「希薄」という言葉から分かるように溶媒に溶けている成分(溶質)の濃度が薄いときに当てはまる式です。この章でも数式が出てきますが、一つ一つの式の意味も説明するので一歩ずつ学んでいきましょう。

2-1.理想溶液とラウールの法則

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最初に学ぶのは「理想溶液」、そして理想溶液で成り立つ「ラウールの法則」です。まずはシンプルな系として単一の化合物である液体(純物質)を考えてみましょう。ある空間に液体がある場合、一部は蒸気として気体に変化します。このとき気体と液体が平衡状態、すなわち「気体→液体」に変化する量と「液体→気体」に変化する量が同じ状態ならば液体の化学ポテンシャルと気体の化学ポテンシャルは同一の値です。

さて、ここで純物質Aにもう一つの物質Bが混ざった場合を考えてみましょう。この場合、純物質の蒸気圧はpA*からpAに変化しており、以下の式で表されます。ここで上の式、下の式を組み合わせることで得られる液体中のAの化学ポテンシャルは以下の通りです。

この式でAのモル分率(物質量で表したAの比率)xAを用いてpA=xApA*と表される溶液を「理想溶液」と呼び、pA=xApA*の関係式を「ラウールの法則」と呼びます。つまり蒸気圧がモル分率に比例する液体が「理想溶液」と呼ばれるわけです。

2-2.理想溶液の解釈

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理想溶液では混合溶液に含まれる各成分の蒸気圧(分圧)がモル分率に比例すると説明しました。では、この式はどのような状態を反映しているのでしょうか。ポイントは「モル分率に比例する」という点です。「比例する」ということは混合溶液に含まれる化合物の性質が似ているということを反映しています。

Aのモル分率が0に近いとき、ほぼ1のときの溶液中の分子を考えてみましょう。モル分率がほぼ0ならば溶液中の分子Aの周りには分子Bが大量に存在し、Aのモル分率がほぼ1ならば分子Aの周りには別の分子Aが大量に存在します。このように全く異なる環境の溶液を同一の式で表すことができるということは「AとBの性質が似ている」、つまり「AとBの相互作用の大きさがほぼ同じ」ことを反映しているのです。

ちなみに理想溶液に似た挙動を示す溶液の例としてベンゼンとトルエンの混合溶液が挙げられます。ほぼ同じ化学構造をしているため、相互作用が同じになり、理想溶液に近い挙動を示すわけですね。

2-3.理想希薄溶液とヘンリーの法則

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ところで理想溶液の式に従わない溶液もたくさんあります。このような溶液ではモル分率に対する分圧が直線にはなりません。しかし溶質のモル分率がほぼ0、すなわち濃度が小さい領域においては溶質の分圧はモル分率に比例するという法則がイギリスの化学者ヘンリーによって見いだされました。これを「ヘンリーの法則」と呼び、溶質がヘンリーの法則に従い、溶媒がラウールの法則に従う混合物を「理想希薄溶液」と呼びます。

理想溶液は溶液の化学を理解するための第一歩

今回学習した「理想溶液」は実在の溶液を記述できるシンプルな考え方の一つです。もちろん実際の溶液では理想溶液の式に従わないものもありますが、大量の分子が存在する「溶液」を適切に表せる理想溶液の考え方は溶液を理解するための第一歩とも言えます。

溶液を理解するためにはエントロピーなどの熱力学の知識が必要です。熱力学は数式を用いた記述が中心であり、もしかしたら取っ付きにくいかもしれません。しかし熱力学を理解することで溶液や気体などを詳しく理解することができます。理想溶液を入り口として、熱力学、溶液の化学を学んでみると身近な物質の深い理解につながっていくことでしょう。

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