
5分で分かる「理想溶液」溶液で成り立つ法則と背景に潜む物理現象とは?京大卒の研究者が丁寧にわかりやすく解説!
今日はまずエントロピーなどの熱力学の考え方を学び、その後に理想溶液、理想希薄溶液について学んでいこう。化学に詳しいライター珈琲マニアと一緒に解説していきます。
ライター/珈琲マニア
京都大学で化学を学び、現在はメーカーの研究員として勤務。学生時代の専門は物理化学であり、溶液の物理現象に関する知識も豊富なライター。
1.理想溶液を学ぶための用語集

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お酒は水やエタノールなどの混合物、炭酸飲料は水や二酸化炭素、砂糖の混合物など、二つ以上の化合物が混合した溶液は私達の周りに数多くあります。溶液の中で起こっている現象を理解することは化学において非常に重要です。今回学習する「理想溶液」は溶液を理解するための第一歩となります。
理想溶液を学ぶためには熱力学の知識やエネルギーに関する知識が必要です。この章ではエントロピーやギブズエネルギーなど、溶液の化学における基礎用語を学んでいきましょう。溶液化学や熱力学は少し取っつきにくいかもしれませんが、一つずつ一緒に学んでいきましょう。
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1-1.熱力学第二法則

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まずは熱力学の基本法則の一つである「熱力学第二法則」について学びます。「エントロピー増加の法則」と言うと聞き覚えのある人がいるかもしれません。エントロピーは「乱雑さの指標」とよく言われており、「整理された部屋がどんどん散らかっていく」という例えで表されることが多いです。
では化学、物理においてエントロピーは何を意味しているのでしょうか。一体どんな状態が「乱雑さ」を表しているのでしょうか。ポイントは原子や分子の運動です。例えば仕切りを入れた箱で片方に窒素、もう片方に酸素を入れた場合、仕切りを取ると酸素と窒素は混ざり合います。これは酸素や窒素が狭い空間に留まるよりも広い空間へ拡散していくほうが「より乱雑」になるためです。つまり最初よりも分子が散らかっている、というイメージですね。
1-2.ギブズエネルギー
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次に学ぶのはギブズエネルギーです。提案者であるアメリカの化学者ギブズ(ギブス、と間違えやすいので注意)の名前が付きました。ある温度、圧力の空気が持つ熱量(エネルギー)である「エンタルピー」と先ほど学んだエントロピー、温度を組み合わせた式でギブズエネルギーは表されます。
ここで先ほどのエントロピー増加の法則とギブズエネルギーを組み合わせてみましょう。ギブズエネルギーの中でエンタルピーと温度が変わらないときを考えます。このような状態でもエントロピーは増加するため、ギブズエネルギーの値は負です。逆に言うと「ある変化によってギブズエネルギーが負になる場合、その変化は自発的に進む」となります。つまり勝手に反応が進むというわけですね。
1-3.化学ポテンシャル

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最後に学ぶのは化学ポテンシャルです。名前に「化学」という単語が入っていることから分かるように、化学ポテンシャルは化学反応、平衡において重要な役割を果たします。まずは定義を見ていきましょう。
化学ポテンシャルはギブズエネルギーを物質量(モル)で偏微分した値です。と言っても「偏微分」という言葉に馴染みがない人もいるかもしれませんね。非常に簡単に言うと「化学ポテンシャルはモルが変化したときにギブズエネルギーがどれだけ変化したか」を示す量です。偏微分は分母の量が変わったときに分子の量がどれだけ変わったかを表します。
ところで高校化学で理想気体という用語を習った人はいるでしょうか。理想気体では気体定数Rを用いることで圧力P、体積V、モルn、温度Tの関係を”PV=nRT”というシンプルな式(状態方程式)で表せます。この状態方程式を満たす理想気体の化学ポテンシャルを見ていきましょう。
複雑な式に見えますが、ここではおおよその意味を理解するだけで構いません。この式を簡単に言うと「1bar(ほぼ1気圧)のときの圧力に対する今の系の圧力の大きさによって化学ポテンシャルが変化する」ということです。
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