今日は水のように3つの原子から作られた分子「三原子分子」について学んでいきます。みんなは水や二酸化炭素という化合物は知っているでしょう。では水分子は折れ曲がった形になるのに、二酸化炭素は直線型の形になる理由を知っているか。
今日は量子化学の知識を使って、三原子分子が作られる仕組みを勉強していこう。三原子分子が作られる仕組みを理解できれば分子の形についても考えることができる。化学に詳しいライター珈琲マニアと一緒に解説していきます。

ライター/珈琲マニア

京都大学で化学を学び、現在はメーカーの研究職として勤務。学生時代の専門である物理化学、量子化学に関する知識が豊富なライター。

1.電子と分子形成

image by iStockphoto

本日学習するのは「三原子分子」は身近なところに存在します。例えば水は水素2つと1つの酸素から作られ、二酸化炭素は酸素2つと1つの炭素から作られた三原子分子です。ところで授業で習う水や二酸化炭素の分子の形を見ると、水は少し折れ曲がっていて、二酸化炭素は直線形をしています。では、なぜこれらの分子の形は異なっているのでしょうか。

この問題を解決するには分子の形成メカニズムを理解する必要があります。この章では三原子分子を学ぶために、まず分子の結合形成に重要な役割を担う「電子」について学んだ後に二つの原子が分子になる様子を見ていきましょう。

\次のページで「1-1.分子の電子軌道」を解説!/

1-1.分子の電子軌道

image by iStockphoto

「各原子が電子を渡し合うことで分子が作られる」ことを高校生の頃に学んだ方々もいるかもしれません。高校では原子ごとに原子価という「原子の手」の数が異なっている、と勉強したのではないでしょうか。この「原子の手」を量子化学の観点から考えてみましょう。

量子化学では原子の中で電子は特定の空間の中に存在していることが分かっており、これを「電子軌道」として表します。そして量子化学によって、原子の電子軌道同士が重なり合うことで分子が形成されることが分かりました(この「重なることができる電子軌道」が「原子の手」です)。原子、分子の電子軌道ごとに電子のエネルギーの大きさは異なり、「電子はエネルギー的に最も安定な状態(最も低いエネルギー状態)を取る」というルールがあります。つまり原子として存在するよりも分子を形成したほうがエネルギー的に安定な場合に分子を形成するのです。

原子の電子軌道が重なると、重なり方によって二種類の分子の電子軌道が生まれます。そのうち1つは原子の軌道よりも安定、もう1つは不安定。この安定な軌道に電子が入ったときに分子が形成されます。

1-2.異なる原子から成る分子

image by iStockphoto

原子の電子軌道が重なることでエネルギーが異なる分子の電子軌道が生成することを説明しました。分子の電子軌道のエネルギーは原子の電子軌道によって変化します。ここではフッ素と水素から形成されるフッ化水素(HF)について考えてみましょう。

フッ素と水素では重なり合う電子軌道のエネルギーが異なり、水素の1s軌道のエネルギーが高めです。この場合、生成した分子の電子軌道のうち、安定な軌道のエネルギーはフッ素の2p電子軌道に近くなり、不安定な軌道のエネルギーは水素の1s軌道に近くなります。分子の安定な電子軌道はフッ素の軌道に似ていて、不安定な軌道は水素の軌道に似ていると言い換えるとわかりやすいかもしれませんね。

1-3.混成軌道

image by iStockphoto

先ほど説明した二つの原子の電子軌道の重なり合いはシンプルな考えですが、複数の電子軌道のエネルギーが近いと少し話が複雑になります。ここでリチウムと水素から形成される水素化リチウムを例として考えてみましょう。

以下にリチウムと水素の電子軌道のエネルギーの位置関係を示します。なお、リチウムの1s軌道は十分離れているので図では省略しました。ここでも先ほどと同様に電子軌道の混ざり合いが起こりますが、水素の1s軌道から見るとリチウムの2s軌道と2p軌道は互いに近いエネルギーであるため、どちらの軌道とも重なり合います。その結果、水素化リチウムでは水素の1s軌道とリチウムの2s軌道と2p軌道の3種の軌道から新たな電子軌道が生成されるのです。この新たな軌道を「混成軌道」と呼びます。

2.三原子分子

前の章では二つの原子から作られる分子について電子軌道の重なりの観点から勉強しました。これから三原子分子について学んでいきますが、基本的な考え方は二原子分子と同様です。

三原子分子でもキーワードは「混成軌道」であり、この軌道が水や二酸化炭素の形に関連しています。この章では水、二酸化炭素と順番に分子形成の様子を見ていきましょう。

2-1.水

image by iStockphoto

まずは我々の生活に欠かすことができない水(H2O)について考えていきましょう。水分子は少し折れ曲がった形で表現されますが、一体なぜでしょうか。ここでも先ほどと同じように原子の電子軌道の重なり、混成軌道の考え方を適用してみましょう。

酸素は1s軌道と2s軌道に電子を2つずつ、3つの2p軌道に電子を4つ持っており、水素は1s軌道に電子を1つ持っています。そして水素の1s軌道は酸素の2s軌道、3つの2p軌道と重なり合い、4つのsp3混成軌道を形成、水素と酸素の電子がsp3混成軌道に入ることで水が生成されるわけです。

ところで4つのsp3混成軌道に入っている電子はマイナスの電荷を持っているため、電気的な反発によって混成軌道同士は互いに離れたがります。では、どのような位置関係のときに軌道同士が最も離れるのでしょうか。答えを言うと軌道同士を離すために4つの軌道は正四面体を形成しており、そして4つのうち2つの軌道は水素と共有します。つまり正四面体の中心に酸素が、2つの頂点に水素が存在しているため、水分子は曲がっているのです。

\次のページで「2-2.二酸化炭素」を解説!/

2-2.二酸化炭素

image by iStockphoto

次に二酸化炭素について考えていきましょう。二酸化炭素は直線型の分子であり、水とは形状が異なります。この形状の違いを考えるヒントになるのが混成軌道の違いです。炭素や酸素でも混成軌道は形成されますが、一方で混成軌道を形成せずに重なり合うことができる電子軌道も存在します。

水分子の酸素と同じように炭素は混成軌道を形成しますが、ここでは1つの2s軌道と3つの2p軌道すべてが混成軌道を作るわけではありません。二酸化炭素の場合は2s軌道1つと2p軌道1つでsp混成軌道を形成して酸素と結合し、さらに炭素と酸素の2p軌道同士も軌道の側面同士も重なって結合を形成します。これらの結合はいずれも直線的であるため、二酸化炭素の分子全体も直線形になるわけです。

電子軌道から考えると三原子分子の形状が分かる

分子の形成を考えるときに原子の電子軌道から考える、これは量子化学の基礎となる考え方です。そして水や二酸化炭素のような三原子分子では分子を構成する原子が単一ではないため各原子の電子軌道のエネルギーが異なります。このエネルギーの差が混成軌道のエネルギーの違いなど、分子の様々な性質の違いを生み出すのです。

量子化学は数式が多く、なかなか難しいと感じる人が多いかもしれません。一方で、量子化学は原子の電子軌道から二原子分子の形成、そして三原子分子の形成と順番に学ぶことで分子に対する理解を深めることができる分野でもあります。高校の化学は丸暗記の科目のように思われがちですが、量子化学によって今までは丸暗記だった単語の意味まで理解できると、化学をより面白く感じることができるはずです。

" /> 5分で分かる「三原子分子」水と二酸化炭素はなぜ形が違う?京大卒の研究者がわかりやすく解説! – Study-Z
化学原子・元素有機化合物無機物質物質の状態・構成・変化理科量子力学・原子物理学

5分で分かる「三原子分子」水と二酸化炭素はなぜ形が違う?京大卒の研究者がわかりやすく解説!

今日は水のように3つの原子から作られた分子「三原子分子」について学んでいきます。みんなは水や二酸化炭素という化合物は知っているでしょう。では水分子は折れ曲がった形になるのに、二酸化炭素は直線型の形になる理由を知っているか。
今日は量子化学の知識を使って、三原子分子が作られる仕組みを勉強していこう。三原子分子が作られる仕組みを理解できれば分子の形についても考えることができる。化学に詳しいライター珈琲マニアと一緒に解説していきます。

ライター/珈琲マニア

京都大学で化学を学び、現在はメーカーの研究職として勤務。学生時代の専門である物理化学、量子化学に関する知識が豊富なライター。

1.電子と分子形成

image by iStockphoto

本日学習するのは「三原子分子」は身近なところに存在します。例えば水は水素2つと1つの酸素から作られ、二酸化炭素は酸素2つと1つの炭素から作られた三原子分子です。ところで授業で習う水や二酸化炭素の分子の形を見ると、水は少し折れ曲がっていて、二酸化炭素は直線形をしています。では、なぜこれらの分子の形は異なっているのでしょうか。

この問題を解決するには分子の形成メカニズムを理解する必要があります。この章では三原子分子を学ぶために、まず分子の結合形成に重要な役割を担う「電子」について学んだ後に二つの原子が分子になる様子を見ていきましょう。

\次のページで「1-1.分子の電子軌道」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: