5分で分かる「二原子分子」量子化学を使って分子が作られる理由を考えよう!京大卒の研究者がわかりやすく解説!
1-2.電子の数と軌道のエネルギー
image by iStockphoto
次に各原子における電子軌道を考えてみましょう。炭素や酸素などの原子は原子番号と同じ数の電子を持っています。ではそれぞれの原子に存在する電子はどの電子軌道に入るのでしょうか。ここで重要になるのが各電子軌道のエネルギーの大きさです。
電子軌道のエネルギーは「エネルギー準位図」というエネルギーの高低を表した図で表現され、この図では原子の電子は低いエネルギーの電子軌道から順番に入ります。例題として、電子が少ない原子で考えてみましょう。電子数が1個の水素原子では最もエネルギーが低い1s軌道に入り、電子数が6個の炭素原子では最もエネルギーが低い軌道から順番に1s、2s軌道に2個ずつ、2p軌道に1つずつ入ります。

2.二原子分子の形成
image by iStockphoto
前の章では1つの原子に着目して電子の運動、エネルギーを考えました。次に原子の波動関数、電子軌道を用いて分子が作られるメカニズムを考えていきましょう。分子の形成を考えるときは「分子の波動関数は原子の波動関数を足し合わせることで得られる」という近似を使います。簡単に言うと、原子の電子軌道を足し合わせたら分子の電子軌道になるというわけです。
分子が作られるときにも「電子は低いエネルギーの電子軌道に入る」というルールが適用されます。つまり「原子の電子軌道に比べて分子の電子軌道のエネルギーが低いかどうか」という点が分子を作るかどうかの判断基準になるのです。この章では様々な二原子分子の形成メカニズムについて考えていきましょう。
2-1.水素分子の形成
image by iStockphoto
初めに最もシンプルな分子である水素分子を考えてみましょう。電子を1つ持っている2つの水素原子が近づくと、それぞれの電子軌道の重なりが起こります。ここでは理解しやすいように詳細な計算を省略して電子軌道の重なりについて説明しますね。
電子は波の性質も持っていると前の章で説明しました。波の性質を持った電子軌道が重なると、波の干渉のように軌道の強め合いや弱め合いが起こり、2つの新たな分子軌道が生まれます。このうち、片方の電子軌道のエネルギーは元の水素原子よりも低く、もう片方はエネルギーが高いです。そして水素は分子になることで合計2つの電子が元の水素原子よりも低いエネルギーの電子軌道に入ることができます。これは「分子を作ったほうが結果的にエネルギーがお得」な状態なので、水素は分子を形成するのです。

2-2.窒素分子の形成
image by iStockphoto
次に水素よりは電子が多い窒素分子について考えてみましょう。考え方は水素と同様で、原子の軌道を重ねて得られる電子軌道のエネルギーが原子の電子軌道に比べて低いかどうかがポイントです。ただし窒素原子は様々な電子軌道に電子が存在しているのが水素と異なります。
電子軌道を重ねた様子を以下の図で見てみましょう。2つの窒素原子が並んでいる方向(結合軸)と同じ電子軌道同士が重なると水素原子と近い分子の電子軌道が生まれます。次に結合軸とは別の方向を向いた電子軌道同士を重ねてみましょう。このとき、電子軌道の側面同士が重なった新たな電子軌道であるπ軌道が生成します。なお、結合軸と別方向を向いた軌道は2つずつあるため、生成するπ軌道も2種類です。

このような電子軌道の重なりによって原子の電子軌道よりもエネルギーが低い軌道が3つ、エネルギーが高い軌道が3つ生まれ、分子の結合形成に寄与した6個の電子はすべてエネルギーが低い電子軌道に入ることができます。これはエネルギー的にお得なので窒素も分子を形成するのです。
2-3.異なる原子の結合形成
最後に異なる原子の結合形成として、フッ素と水素が結合したフッ化水素を考えてみましょう。フッ素の2p電子軌道と水素の1s電子軌道が重なることで二つの分子軌道が生まれ、一つの分子軌道は原子のエネルギーよりも安定、もう一つの分子軌道は不安定になります。ここで分子軌道のエネルギーについて考えてみましょう。重要なポイントは「原子の電子軌道のエネルギーの大小関係が分子軌道のエネルギーに影響する」という点です。
以下の図を基にフッ化水素の電子軌道のエネルギーを考えていきましょう。結合形成に関与する水素の1s軌道はフッ素の2p軌道よりもエネルギーが高いため、分子軌道のうち、不安定なσ*軌道のエネルギーに近いのは水素の1s軌道、安定なσ軌道のエネルギーに近いのはフッ素の2p軌道になります。これは言い換えると、σ*軌道は水素の1s軌道に近い性質を示し、σ軌道はフッ素の2p軌道に近い性質を示すということです。このように、生成する分子の電子軌道の性質が原子の電子軌道のエネルギーの大小関係で決まるという点が異なる原子から成る二原子分子の特徴と言えます。

\次のページで「二原子分子の形成を知ることは量子化学を理解する第一歩」を解説!/




