この記事では「慈悲」という言葉について解説する。
「慈悲(じひ)」とは仏教用語で、仏や菩薩が人々をあわれみ、楽しみを与え、苦痛を取り除くこと。一般的にも人をいくつしみ、憐れむ、優しい心をいう。ちょっと難しいが文書書籍はもちろん口語でも使われる言葉だ、しっかり理解しよう。
今回はドイツ語英語に精通する語学系主婦ライター・小島ヨウを呼んです。一緒に「慈悲」の意味や使い方、英訳などをチェックしていきます。

ライター/小島 ヨウ

言葉の使い方、漢字の意味に興味を持ち、辞典で調べまくるアナログ主婦ライター。分かりやすく、読みやすい文章を心がけている。

「慈悲」の意味や使い方

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「慈悲」は仏教で重視されるとても大事な言葉で、簡単に説明することは難しいです。ここでは仏語での基礎知識的な意味、一般的な使い方をご紹介します。

「慈悲」とは

「慈悲」を辞書で調べると次のように書かれています。

1.仏・菩薩 (ぼさつ) が人々をあわれみ、楽しみを与え、苦しみを取り除くこと。
2.いつくしみ、あわれむこと。なさけ。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「慈悲」

仏教における「慈悲」とは「抜苦余楽(ばっくよらく)」。生きる人々に楽を与え(慈)、苦を取り除くこと(悲)を望む心の動きをいうそうです。大慈、大慈悲というときは仏や菩薩の「慈悲」を表しています。

「慈」の一般的な意味は、親が子供を大事に育てること、愛情の深いさまをいい、訓読みで慈しむ(いつく・しむ)です。

「悲」は悲しい意でなく「あわれみの心」

「悲」は一般的にかなしい、哀しい、切なく辛い気持ちを表現する言葉ですが、仏語としての「悲」は深いあわれみの心、苦しみを取り除くことをいいます。

「悲願」とは仏・菩薩が衆生を救うために誓いを立てること、転じて、必ず成し遂げようとする悲壮な願いという意味になりました。
「悲観」は、仏教では仏が人の苦難を救おうと観察していること。人生後ろ向き、絶望して悲しむといった一般的な意味と全く違いますね。

\次のページで「「慈悲」を強めて「慈悲深い」」を解説!/

「慈悲」を強めて「慈悲深い」

愛情に満ち溢れ、人を憐れむ気持ちが強い人を「慈悲深い」と表現します。ここでの「深い」は名詞などについて形容詞を作る接尾語的役割で、物事の程度や分量・かかわりが多いこと、また程度のはなはだしい様の意味です。「情け深い」「思慮深い」「興味深い」「疑り深い」などなど、「深い」は様々な言葉とくっついてその意味を強調します。

「慈悲」の使い方を例文でチェック!

仏語、一般的な意味が分かったところで、応用の使い方をチェックしましょう。

1.礼儀は下から慈悲は上から
2.「慈悲忍辱(じひにんにく)」は仏道をゆく僧が守るべきものといわれる。

1.はことわざ。礼儀は目下の人から目上の人にする敬意で、慈悲は上の立場の人から下の人へ施すもの、という意です。「慈悲を乞う」といった表現も、下位の人が上役などに許しを求めている様を想像できます。「慈悲」は立場が上の人が下の人に向けて出来ることなのでしょう。

2.は四字熟語。後半の「忍辱」は苦難を耐えてしのぶことをいい、情け深くまたどんな苦難も耐えしのんでいく意になります。

「慈悲」と似た言葉

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他者を慈しみ、情け深く思いやりがあるという意味で他の言葉をご紹介します。

慈愛(じあい):深い愛情

「慈愛」は親が子供に対する深い愛情です。「慈愛に満ちる」と使います。

仏教の「愛」は大きく分けて二つの概念があり、ひとつは煩悩・貪欲、性愛など人の欲望、迷いの根源とする「愛」。もう一方が「慈悲」で、人を大事に思い大切にする教え、慈しみの心を持って人々を助けようとする菩薩の理想です。また菩薩が人々を導くために使う優しい言葉を「愛語」といいます。

仁慈(じんじ):思いやり

「仁慈」とは思いやりがあって情け深いことです。「仁」は人が二人という漢字の成り立ちで、自分と同じ仲間としてすべての人に接する心、愛や同情の気持ちなどの意味。中国思想における「徳」のひとつで、他者への思いやりや親愛の情をいいます。

\次のページで「「慈悲」の対義語は?」を解説!/

「慈悲」の対義語は?

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それでは、人を大事に思わない、憐みの心がない、といった「慈悲」とは正反対の言葉をいくつか解説します。

無慈悲(むじひ):思いやりの心がないこと

接頭の「無」は名詞に付いて、それがない・その状態がないことを意味するので、「無慈悲」は「慈悲がない」、思いやりの心がない・憐れみや情けがないことです。書き言葉や話し言葉でも良く使われていますね。

有名なSF小説「月は無慈悲な夜の女王」(ロバート・A・ハインライン著)の英語の原題は「The Moon Is a Harsh Mistress」。ここで無慈悲と英訳される単語は「harsh」で、厳しい・過酷・残酷といった意味です。

冷酷(れいこく):思いやりがなくむごいこと

「冷酷」も思いやりのない、情けのない、むごたらしいこと。「冷」は冷たい・冷えるといった使い方のほかに、情がうすい・温かみがない、という感情が平坦なことも意味します。「酷」は厳しい・むごい、程度がはなはだしい意。「冷酷な行動」「冷酷な言葉」といった、人を傷つけるような言動に用いられます。

非情(ひじょう):人間らしい感情を持たないこと

仏語において「非情」は草や木、石や土、水など感情を持たないもののことをいいますが、一般的には人間らしい感情・喜怒哀楽がない、思いやりがない様です。同じような意味で「冷淡」「薄情」なども類語になります。

「慈悲」の英訳は

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それでは、慈悲と直訳される英単語をご紹介します。

\次のページで「「mercy」:慈悲」を解説!/

「mercy」:慈悲

「mercy」は慈悲・情け・優しい心、幸運・恵みという意味もあります。ちなみに無慈悲は「no mercy」です。

・I pray for mercy.
(慈悲を乞う)
・Have mercy!
(おやまあ! まさか!)※

※「Oh,dear!」や「Oh,god」と同じような感嘆の相づちですが、「お慈悲を」「後生だから」といった困惑したニュアンスの口語表現です。

「compassion」:あわれみ、同情

「compassion」とはあわれみ、同情と訳される言葉ですが。人を思いやり、相手の痛みを知って、何か役に立ちたい気持ちをいいます。「コンパッション」とカタカナ日本語で使われることもあり、まさに「慈悲」といった感情ではないでしょうか。

・I have compassion for her.
(彼女に何かしてあげたいと思った)
・She has no compassion for others.
(彼女は他人に優しくない)

みなが「慈悲」を知ったら世の中平和に

この記事では「慈悲」という言葉の意味や使い方、英訳などを解説しました。普段でも良く使われる、耳にする言葉ですが、上から下の人に向けての思いやりやあわれみの言動とは意識していなかったのではないでしょうか。

また、仏教用語と一般的な意味の違いも興味深いですね。「挨拶(あいさつ)」や「愚痴(ぐち)」なども実は仏教からの言葉です、調べてみると面白いですよ。

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国語言葉の意味

「慈悲」って何?なぜ「悲」しい字?意味や使い方、類語・英訳などを語学系主婦ライターがわかりやすく解説

この記事では「慈悲」という言葉について解説する。
「慈悲(じひ)」とは仏教用語で、仏や菩薩が人々をあわれみ、楽しみを与え、苦痛を取り除くこと。一般的にも人をいくつしみ、憐れむ、優しい心をいう。ちょっと難しいが文書書籍はもちろん口語でも使われる言葉だ、しっかり理解しよう。
今回はドイツ語英語に精通する語学系主婦ライター・小島ヨウを呼んです。一緒に「慈悲」の意味や使い方、英訳などをチェックしていきます。

ライター/小島 ヨウ

言葉の使い方、漢字の意味に興味を持ち、辞典で調べまくるアナログ主婦ライター。分かりやすく、読みやすい文章を心がけている。

「慈悲」の意味や使い方

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「慈悲」は仏教で重視されるとても大事な言葉で、簡単に説明することは難しいです。ここでは仏語での基礎知識的な意味、一般的な使い方をご紹介します。

「慈悲」とは

「慈悲」を辞書で調べると次のように書かれています。

1.仏・菩薩 (ぼさつ) が人々をあわれみ、楽しみを与え、苦しみを取り除くこと。
2.いつくしみ、あわれむこと。なさけ。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「慈悲」

仏教における「慈悲」とは「抜苦余楽(ばっくよらく)」。生きる人々に楽を与え(慈)、苦を取り除くこと(悲)を望む心の動きをいうそうです。大慈、大慈悲というときは仏や菩薩の「慈悲」を表しています。

「慈」の一般的な意味は、親が子供を大事に育てること、愛情の深いさまをいい、訓読みで慈しむ(いつく・しむ)です。

「悲」は悲しい意でなく「あわれみの心」

「悲」は一般的にかなしい、哀しい、切なく辛い気持ちを表現する言葉ですが、仏語としての「悲」は深いあわれみの心、苦しみを取り除くことをいいます。

「悲願」とは仏・菩薩が衆生を救うために誓いを立てること、転じて、必ず成し遂げようとする悲壮な願いという意味になりました。
「悲観」は、仏教では仏が人の苦難を救おうと観察していること。人生後ろ向き、絶望して悲しむといった一般的な意味と全く違いますね。

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