この記事では「居士」について解説する。

端的に言えば居士の意味は「(在家で)仏道修行をする男性」という意味の成人男性の戒名につける称号ですが、もっと深く意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

博士(文学)の学位を持ち、日本語を研究している船虫堂を呼んです。一緒に「居士」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/船虫堂

博士(文学)。日頃から日本語と日本語教育に対して幅広く興味と探究心を持って生活している。生活の中で新しい言葉や発音を収集するのが趣味。モットーは「楽しみながら詳しく、わかりやすく言葉をご紹介」。お墓参りは割合まめにする方。

「居士」の意味や語源・使い方まとめ

image by iStockphoto

人が亡くなるのは非常に悲しいことです。それが家族であればその動揺は計り知れないものとなるでしょう。ところが家族が亡くなると遺族は葬儀や法要やお墓など、いろいろ考えなければならないことが噴出してきます。戒名もその一つと言えるでしょう。ここでは戒名の一部分である「位号」の1つである「居士」について解説します。知識で悲しみが言えるわけではありませんが、戒名という仏教用語の体系を知ることによって、1つ心を落ち着けて「見送り」に臨むことができるのではないでしょうか。

それでは早速「居士」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。「居士」とはインドの資産家という意味の「グリハパティgṛha‐pati」という言葉が語源の仏教の用語で、現在では人が亡くなった時、お寺のお坊さんからからいただく戒名につく称号の1つとして用いられています。その意味は「在家で仏道修行をする男性」です。

「居士」の意味は?

『精選版 日本国語大辞典』にはどう書かれているでしょうか。確認してみましょう。「居士」には、次のような意味があります。

こ-じ【居士】

〘名〙 (「こ」「じ」は、それぞれ「居」「士」の呉音)

1. 学徳が高い隠者。処士。

※集義外書(1709)三「身は市井にして、心は賢大夫士も恐るべき人ならば、居士とも隠者ともいふべし」 〔礼記‐玉藻〕

2. (gṛha-pati の訳語。家長・長者の意) 仏語。仏教興隆期のインドで、商工業に従事した資産家。または、出家しないで家にいて仏門に帰依する男子の称。在家の仏教信者、修行者。特に近世以降、禅に関していう場合が多い。

※法華義疏(7C前)三「居士譬内凡夫」 〔祖庭事苑‐三・雪竇祖英上〕

3. 男子の死後、その法名(戒名)に付ける称号。→こじごう(居士号)。

※雑俳・柳多留‐三(1768)「国者に聞けば四五人居士に成り」

 

出典:精選版 日本国語大辞典(小学館)「居士」

用例の時代別に見ると、2のインドの資産家・在家の仏教信者という意味が最も用例が古いですね。つづいて、1の学徳の高い隠者という意味の用例が出てきます。「隠者」という耳慣れない言葉が出てきますが、俗世間との交わりを絶った人のことです。そして、現代最も用いられると考えられる3の戒名につける称号としての「居士」があります。

「居士」の語源は?

続いて「居士」の語源を確認しておきましょう。さきほどの『精選版  日本国語大辞典』にもありました通り、「居士」はもともと古代インドの家長や長者という意味のgṛha-pati(グリハ・パティ)というサンスクリットの単語がもとになっています。このgṛha-patiが中国で翻訳されて、「居士」となり、仏教の伝来とともに日本にやってきたわけです。

\次のページで「「居士」の使い方・例文」を解説!/

「居士」の使い方・例文

「居士」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.戒名の位号は信士より居士の方が位が高い。
2.幼い子供には居士という位号を付けないことが多い。
3.浄土真宗では居士という位号はつかない。

いずれの例文も「居士」に関する説明的な文がならびました。そもそも「居士」は戒名を構成する「位号」と呼ばれる称号の1つです。

例文1で示したように、「居士」のほかには男子だと「信士」、女子だと「大姉」、「信女」などがあり、いずれの位号も生前に果たした社会的功績や菩提寺への貢献(仏道の修行)等が反映されます。

例文2で示したように、位号には男女のほかに年齢による違いがあり注意が必要です。このあたりの詳細については後述します。

なお、例文の3にあるように、日本の仏教には大陸から入ってきた年代によって天台宗や浄土宗などの宗派があり、位号の付き方に宗派によって違いがありますのでこちらも注意が必要です。

「居士」の類義語は?違いは?

image by iStockphoto

前述のように「居士」は、戒名を構成する「位号」の1つです。「位号」の種類について紹介する前にまずは一般的な戒名の構成について確認しましょう。

宗派によって差多少の差はありますが、一般的な戒名というと「AA院BBCC居士」のような字の並びになっていることが多いです。この場合CCの部分が狭義の戒名であり、AA院の部分を「院号」、BBの部分を「道号」、そして「居士」とした部分を「位号」と言います。

天台宗や真言宗、浄土宗ではこのパターンが多いですが、曹洞宗や臨済宗などの禅宗では院号がつかない場合もあるようです。また、例文でも挙げましたが浄土真宗ではそもそも戒名とは呼ばず「法名」と言い、位号はつきません。

位号のいろいろ

位号は性別、年齢によって種類があります。整理をしてみていきましょう。

男子に授けられる位号は位の高い順に「居士」、「信士」、さらに高い位の位号として「院居士」という特別な位号もあります。

女子に授けられる位号は位の高い順に「大姉」、「信女」、さらに高位の位号として「院大姉」があるのは男子の場合と同様です。

若くして幼くして仏様になってしまう場合も悲しいことですが、ありますね。未成年の位号というものがあります。宗派によって多少のバリエーションはあるようですが、未成年の場合、男子は「童子」、女子は「童女」、幼児の場合「孩子(がいじ)」・「孩女(がいにょ)」、赤ん坊の場合「嬰子(えいじ)・嬰女(えいにょ)」という位号が一般的です。

\次のページで「「居士」の対義語は?」を解説!/

「居士」の対義語は?

類義語の所で詳しくご紹介しましたが「居士」は成人の男子に授けられる位号ですから、対義語としては成人女子の「大姉」が挙げられるでしょう。

だい-し【大姉】

〘名〙

1. 姉や、年長で婦徳の備わった女性を敬っていう語。

※江戸繁昌記(1832‐36)四「大姉、煙を隔てて小妹を喚び、楼婆(〈注〉やりて)、火を踏で丫児を導く」 〔漢書‐外戚伝〕

2. 仏語。比丘尼(びくに)または地位のある在家の女性信者を敬っていう語。仏門にはいった在俗の女性。〔書言字考節用集(1717)〕 〔行事鈔‐下三〕

3. 仏語。女子の死後、その法名の下に付ける称号。男子の「居士(こじ)」に対するもの。

※実隆公記‐享祿元年(1528)閏九月九日「今日聖珍大姉二七日念誦」

「大姉」

「大姉」とは、成人女性に授けられる位号です。比丘尼(びくに。出家した女性)や在家の地位のある仏教の女性信者という意味をもっていて、男子の「居士」に相当します。

「居士」の英訳は?

image by iStockphoto

仏教自体はそれこそ世界的に広がっている勢力のある宗教ですが、死後、戒名をつける習慣が英語圏にあるかどうか、いくつか関連サイトで検索をかけてみましたが実例が見つかりませんでした。日本で在家の英語圏の信者が戒名を授かる場合は日本語の戒名になるわけですから、英語の戒名というものがそもそもあるのかどうかが不明です。ちなみに、戒名の英訳は"Dharma name"といいます。

「居士」を使いこなそう

人が亡くなることはとても悲しいことですが、知識として戒名の構造を知っておくことは、自分の将来のためにも実のあることでしょう。

戒名は院号、道号、戒名、位号併せて葬儀の際に菩提寺のご住職からいただくというのが一般的といわれますが、宗派によっては近年、戒名に関しては生前に授与ということも可能なようです。

また、桜木先生も話していたお布施の話ですが、某企業がクレジットカード会員向けの葬儀会社の紹介サービスの中でお布施の価格表示をしたことが一昔前に問題になりました。ただ、人が亡くなるという緊急事態において、知らないことを少しでも減らしておきたいというのが遺族の気持ちなのかもしれません。穏当な手段としては、檀家総代など菩提寺と付き合いの深い方に問い合わせるという方法があります。

もしもの時、正しい言葉の知識とともに心安らかに仏様をお送りしたいものです。

" /> 「居士」の意味や使い方は?例文や類語を日本語研究家がわかりやすく解説! – Study-Z
国語言葉の意味

「居士」の意味や使い方は?例文や類語を日本語研究家がわかりやすく解説!

この記事では「居士」について解説する。

端的に言えば居士の意味は「(在家で)仏道修行をする男性」という意味の成人男性の戒名につける称号ですが、もっと深く意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

博士(文学)の学位を持ち、日本語を研究している船虫堂を呼んです。一緒に「居士」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/船虫堂

博士(文学)。日頃から日本語と日本語教育に対して幅広く興味と探究心を持って生活している。生活の中で新しい言葉や発音を収集するのが趣味。モットーは「楽しみながら詳しく、わかりやすく言葉をご紹介」。お墓参りは割合まめにする方。

「居士」の意味や語源・使い方まとめ

image by iStockphoto

人が亡くなるのは非常に悲しいことです。それが家族であればその動揺は計り知れないものとなるでしょう。ところが家族が亡くなると遺族は葬儀や法要やお墓など、いろいろ考えなければならないことが噴出してきます。戒名もその一つと言えるでしょう。ここでは戒名の一部分である「位号」の1つである「居士」について解説します。知識で悲しみが言えるわけではありませんが、戒名という仏教用語の体系を知ることによって、1つ心を落ち着けて「見送り」に臨むことができるのではないでしょうか。

それでは早速「居士」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。「居士」とはインドの資産家という意味の「グリハパティgṛha‐pati」という言葉が語源の仏教の用語で、現在では人が亡くなった時、お寺のお坊さんからからいただく戒名につく称号の1つとして用いられています。その意味は「在家で仏道修行をする男性」です。

「居士」の意味は?

『精選版 日本国語大辞典』にはどう書かれているでしょうか。確認してみましょう。「居士」には、次のような意味があります。

こ-じ【居士】

〘名〙 (「こ」「じ」は、それぞれ「居」「士」の呉音)

1. 学徳が高い隠者。処士。

※集義外書(1709)三「身は市井にして、心は賢大夫士も恐るべき人ならば、居士とも隠者ともいふべし」 〔礼記‐玉藻〕

2. (gṛha-pati の訳語。家長・長者の意) 仏語。仏教興隆期のインドで、商工業に従事した資産家。または、出家しないで家にいて仏門に帰依する男子の称。在家の仏教信者、修行者。特に近世以降、禅に関していう場合が多い。

※法華義疏(7C前)三「居士譬内凡夫」 〔祖庭事苑‐三・雪竇祖英上〕

3. 男子の死後、その法名(戒名)に付ける称号。→こじごう(居士号)。

※雑俳・柳多留‐三(1768)「国者に聞けば四五人居士に成り」

 

出典:精選版 日本国語大辞典(小学館)「居士」

用例の時代別に見ると、2のインドの資産家・在家の仏教信者という意味が最も用例が古いですね。つづいて、1の学徳の高い隠者という意味の用例が出てきます。「隠者」という耳慣れない言葉が出てきますが、俗世間との交わりを絶った人のことです。そして、現代最も用いられると考えられる3の戒名につける称号としての「居士」があります。

「居士」の語源は?

続いて「居士」の語源を確認しておきましょう。さきほどの『精選版  日本国語大辞典』にもありました通り、「居士」はもともと古代インドの家長や長者という意味のgṛha-pati(グリハ・パティ)というサンスクリットの単語がもとになっています。このgṛha-patiが中国で翻訳されて、「居士」となり、仏教の伝来とともに日本にやってきたわけです。

\次のページで「「居士」の使い方・例文」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: