今回は「ラウンケルの生活形」について学習していく。

この用語が出てくるのは、高校の生物学の中で、植生やバイオームについて学ぶ場面です。先生によってはあまり詳しく触れないこともありますが、ラウンケルの生活形の考え方を知っていると、植物の観察が一層面白くなるぞ。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

生活形とは?

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まずは生活形(せいかつけい)という言葉について確認しておきましょう。生活形とは、生育環境によってそれぞれの植物がとる形や、それによる分類のことを指します。

似たような形をしている植物同士では、適応できる生息環境にも類似点がみられることがあるのです。そのため、生活形によって植物をグループ分けし、各グループと環境との関係を考察することができますね。

一方で、これはあくまで環境に適応するための形態による分け方であるため、DNAなどから解明された系統関係や分類とは一致しないことがあります。

例えば、ある1種類の植物が何らかの理由で、温かい地域と寒い地域の2か所に分布するようになったとしましょう。それぞれの地域の気候に適するよう、少しづつ形態を変えていくと、2つの地域にみられるこの植物は「近縁な関係にありながらも生活形が異なる」という状態になる可能性があります。

ラウンケルの生活形

ラウンケルの生活形

image by Study-Z編集部

色々な研究者が生活形に基づいて植物を分類したり、環境が生活形に与える影響を研究したりしてきましたが、なかでもよく知られているのが、今回のテーマである「ラウンケルの生活形」です。ラウンケルは提唱者の名前ですが、読み方によっては「ラウンキエの生活形」といわれることもあります。

ラウンケルは、「各植物が冬をどのように越すか」という観点から「冬季休眠中の休眠芽の位置」をもとにして、植物をいくつかの生活形に分類しました。休眠芽というのは、生長を止めて休眠状態に陥っている芽のことです。

教科書などで紹介される代表的な生活形を6種類ご紹介します。

1.地上植物

冬季に休眠芽を地表面から30cm以上の高さの場所につける植物は”地上植物”に分類します。「地表面から30cm」というと、大人のすねくらいの高さです。一般的な樹木(高木や低木)は、いずれもこの地上植物に分類されることが分かるでしょう。

\次のページで「2.地表植物」を解説!/

そうですね。広葉樹、針葉樹、落葉するもの、常緑のもの…いろいろ思い浮かびます。問題集などではよく、ケヤキサクラツバキサザンカマツスギバラなどが例として挙げられるようです。

2.地表植物

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地上植物よりも地表に近い高さ、具体的には「地表から高さ30cm以下」の地点に休眠芽をつける植物を”地表植物”といいます。地表植物にあてはまるものでイメージしやすいのは、シロツメクサキクでしょう。

また、低木であっても休眠芽が低いところにあり、地表植物にふくまれるものもいます。コケモモハイマツヤブコウジアオノツガザクラマンリョウなどです。これらの種は「低木である」という事実だけを知っていると、誤って地上植物に含めてしまいがちなので注意してください。

3.半地中植物

”半地中植物”は休眠芽がほぼ地表面の位置にある植物のグループです。具体例にはタンポポスギナオオバコススキオオマツヨイグサなどがあげられます。

ススキは背の高い植物のイメージがありますが、植物の大きさと休眠芽の位置は、まったく別の話です。確かにススキは高さ1~2メートルにもなる植物ですが、冬には地上部がすべて枯れてしまいます。地下にある地下茎がのこり、翌春になると地表付近の休眠芽から、また新たな葉が伸びてくるのです。

休眠芽の位置というのは、観察し始めると植物によってかなりの差があります。実際に、身近な植物を冬に観察して、休眠芽を確かめてみるのが一番です。

4.地中植物

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休眠芽が完全に地中に埋まっている植物は”地中植物”に分類されます。チューリップワラビユリカタクリなどが有名ですね。球根を地中に埋めて咲かせる花が当てはまります。

5.一年生植物

休眠芽で冬を残すものばかりではありません。植物の中には、冬になる前に種をつけ、それまでの植物体自体は完全に枯れてしまうものもいます。そのような植物が”一年生植物”です。

みなさんも、幼稚園や小学校でヒマワリアサガオの種をまき、育てた経験があるのではないでしょうか?ツユクサメヒシバイヌタデなどもよく例として挙がります。

6.水生植物

休眠芽が水中、もしくはたっぷりの水で湿った地中(池の底など)にある植物は”水生植物”に分類されます。ハスヒツジグサヨシガマジュンサイカキツバタなど、水辺でみられる植物が当てはまりますね。

\次のページで「ラウンケルの生活形と気候」を解説!/

ラウンケルの生活形と気候

ラウンケルが分類したこれらの生活形は、自然界の環境や気候とどのような関係があるのでしょうか?

地表植物・半地中植物・地中植物の場合

一般的に、地表植物や半地中植物、地中植物の休眠芽の位置は、寒さや乾燥をやり過ごすのに適しているといわれます。空気中と地中であれば、地中の方が温まりやすい環境です。地表面から離れた高いところほど、風によって空気が対流し、温まりにくくなります。また、地中の方が水分を保持しやすいのは当然のことです。

よって、地表植物や半地中植物、地中植物の姿は、冬季に寒さや乾燥が厳しい地域に植物が適応した結果だと考えることができます。

地上植物の場合

「バイオーム」について学習した人はわかると思いますが、降水量が少なく、気温も低いところは、そもそも樹木(特に高木)が生育しにくい環境です。休眠芽の位置が高いことも、そのような環境に樹木が進出しにくい一つの要因になっているのかもしれません。

ですが、地上植物にも利点があります。多くの樹木は幹があり、枝の先に休眠芽をつけますよね。植物にとって光合成に欠かせない日光を遮ることなく浴びられる”高さ”があることは生存に有利です。生長に適した時期になりさえすれば、すぐに高い位置に葉をつけることができます

一年生植物の場合

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一年生植物は一年のうちの限られた時期にしか生育できず、樹木のような姿になることはできません。せっかく大きくなっても、時期がくれば枯れてしまい、また種子からのスタートです。

しかしながら、やはりこの生活形にも利点があります。生育が困難な期間をやり過ごす”種子”という状態は、非常に乾燥に強いのです。一年生植物以外は多かれ少なかれ、体の一部を冬の間も残しておき、そのどこかに休眠芽があります。その”体の一部”が乾燥などで枯れてしまったら、また長い時間をかけてつくりなおさなくてはいけません。

もっとも、一年生植物以外の植物も(種子植物であれば)種子をつけますが、乾燥が厳しい地域では、冬の間に"体の一部"を残しておくことが難しくなります。そういった地域では、一年生植物が多く見られることになるでしょう。

生活形に着目して植物群落を観察することは、その地域の環境、特に冬場の気候を推察する手掛かりになるのです。

なお、上記以外にも、”気生植物”や”着生植物”といったグループも考えられていますが、高校レベルであれば今回ご紹介した6つのグループを確実に覚えておいてくださいね。

簡単そうで難しい「休眠芽の位置」

ラウンケルの生活形のなかでも代表的なグループを6つご紹介しました。

休眠芽の位置に着目するという内容でしたが、じつはこれ、意識していないとかなり難しいんです。春に地中から芽が出てきても、それが「地下茎から」なのか、「球根から」なのか、はたまた「種子から」出てきたものなのか…植物に興味がないと注意が向かないんですよね。

苦手だという人は、代表例として挙げた植物の名前を丸暗記してしまいましょう。余裕があったら、自分の身の回りにある植物を観察したり、図鑑で調べたりして休眠芽の位置を確認してみてください。

イラスト使用元:いらすとや

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理科生態系生物

「ラウンケルの生活形」とは?休眠芽の位置に注目!現役講師が簡単にわかりやすく解説

今回は「ラウンケルの生活形」について学習していく。

この用語が出てくるのは、高校の生物学の中で、植生やバイオームについて学ぶ場面です。先生によってはあまり詳しく触れないこともありますが、ラウンケルの生活形の考え方を知っていると、植物の観察が一層面白くなるぞ。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

生活形とは?

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まずは生活形(せいかつけい)という言葉について確認しておきましょう。生活形とは、生育環境によってそれぞれの植物がとる形や、それによる分類のことを指します。

似たような形をしている植物同士では、適応できる生息環境にも類似点がみられることがあるのです。そのため、生活形によって植物をグループ分けし、各グループと環境との関係を考察することができますね。

一方で、これはあくまで環境に適応するための形態による分け方であるため、DNAなどから解明された系統関係や分類とは一致しないことがあります。

例えば、ある1種類の植物が何らかの理由で、温かい地域と寒い地域の2か所に分布するようになったとしましょう。それぞれの地域の気候に適するよう、少しづつ形態を変えていくと、2つの地域にみられるこの植物は「近縁な関係にありながらも生活形が異なる」という状態になる可能性があります。

ラウンケルの生活形

ラウンケルの生活形

image by Study-Z編集部

色々な研究者が生活形に基づいて植物を分類したり、環境が生活形に与える影響を研究したりしてきましたが、なかでもよく知られているのが、今回のテーマである「ラウンケルの生活形」です。ラウンケルは提唱者の名前ですが、読み方によっては「ラウンキエの生活形」といわれることもあります。

ラウンケルは、「各植物が冬をどのように越すか」という観点から「冬季休眠中の休眠芽の位置」をもとにして、植物をいくつかの生活形に分類しました。休眠芽というのは、生長を止めて休眠状態に陥っている芽のことです。

教科書などで紹介される代表的な生活形を6種類ご紹介します。

1.地上植物

冬季に休眠芽を地表面から30cm以上の高さの場所につける植物は”地上植物”に分類します。「地表面から30cm」というと、大人のすねくらいの高さです。一般的な樹木(高木や低木)は、いずれもこの地上植物に分類されることが分かるでしょう。

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