今回は、生物の進化を学ぶ上で目にするキーワード「フォスターの法則」について学んでいこう。

フォスターの法則は「生物がある環境で進化する際にみられるルール」の一つです。他には”ベルクマンの法則”や”アレンの法則”などがよく知られるな。高校の生物でも名前を聞くこの法則について、具体例も合わせてみていきたい。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているライター・オノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

フォスターの法則

フォスターの法則(Foster's rule)は、簡単にいうと「大陸から離れた島に生息する生物は、大陸のものと比べて小さくなる、もしくは大きくなる方向に進化する」という内容の法則です。島で見られる生き物に特有の現象であるため、島嶼化(とうしょか、Island Rule)ともいわれます。

この法則を提唱したのは、法則の名前にもなっているJ・ブリストル・フォスターです。彼によって1964年に提唱されたのち、他の生物学者によっても研究が進められ、この法則の一般性を裏付けるような調査結果が多く集まるようになりました。

image by iStockphoto

島というのは、非常に特殊な環境です。陸上に住む動物の場合、その多くはより良い生息地を求めて別の地域へ移動することができます。それが大陸であれば尚更です。これが、大陸から距離のある島での話となると、状況が大きく異なります。島という限られた範囲の中で生活しなくてはならないからです。

その昔、大陸から何らかの理由で島に渡ってきた生物も、長い時間を経る中で島の暮らしに適応するよう、その姿かたち、性質が変化していく(進化していく)ことになります。

フォスターは、大陸と島にすむ近縁な生物を比較することで、この変化にある程度の傾向がみられることに気づきました。

では、もう少し具体的にフォスターの法則を見ていきましょう。

小さな生物は大きくなる

フォスターの法則では、「小型動物は大陸にみられる近縁種よりも大型になる(巨大化する)傾向がある」といわれます。ネズミやリスなど、小型の哺乳類の例がよく挙げられますね。

この傾向がみられる理由は、「大陸の環境よりも捕食者の数が少ない、もしくは限られているため、からだを小さく保つ必要がない」からだといわれます。

\次のページで「実際の動物の例」を解説!/

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大陸であれば、からだの大きく目立つ個体は真っ先に天敵に見つかり、子孫を残せなかった…それが島では、敵が少ないことから捕食される機会が少なく、からだの大きな個体も生き残れるようになっていったのだろうと考えられるのです。

同種内での争い、例えばメスを取り合うオス同士の闘争などでは、からだの大きい方が有利なことが多いでしょうからね。こうして、捕食圧から解放された種全体が少しづつ大型化していくのではないかと考えられています。

実際の動物の例

インドネシアのフローレス島に生息するフローレスジャイアントネズミが有名です。

名前にも”ジャイアント”なんていう言葉が入っていますが、このネズミはとにかく大きく、近縁なネズミの約2倍もの大きさになります。

また、このフローレス島西部やコモド島に生息するコモドオオトカゲ(コモドドラゴン)もよく知られた存在でしょう。こちらも、オオトカゲのなかまの中では特に大型の種です。

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それでは、比較的大きな動物はどうかというと…小さな動物とは反対に、小型化していく傾向があるのです。

大きな生物は小さくなる

「大型動物は大陸にみられる近縁種よりも小型になる(矮小化する)傾向がある」というのが、フォスターの法則のもう一つの側面です。

この理由は「島ではエサが限られるため、たくさん食べないといけない大型の個体よりも、少ないエサで体を維持できる小さな個体が生き残るようになった」ためだと説明されます。小さな動物とは正反対の方向に進んでいくのが興味深いですよね。

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実際の動物の例

すでに絶滅してしまった動物ですが、マンモスの例を挙げてみましょう。アメリカのカリフォルニア沖にチャンネル諸島という島々があります。この島からはマンモスの化石が出土するのですが、マンモスとしてはかなり小型。”ピグミーマンモス(pygmy mammoth)”や、”チャンネル諸島マンモス(Channel Islands mammoth)”という名称でよばれています。

Mammuthus exilis.jpg
By Franko Fonseca from Redondo Beach, USA - Wooly mammoth Uploaded by FunkMonk, CC BY-SA 2.0, Link

同じ時代、北アメリカ大陸本土にはコロンビアマンモスというマンモスが生息していました。コロンビアマンモスは、ピグミーマンモスよりもずっと大きなマンモスです。研究者たちは、「コロンビアマンモスが島嶼化した例がピグミーマンモスである」と考えています。

また、現生のヒト(ホモサピエンス)と近縁だったフローレス原人についても言及されることが多いですね。前述のフローレス島で化石が見つかった種ですが、身長はわずか1mほどであったということが分かっています。

image by Study-Z編集部

さて、以上にご紹介したものはほんの一例です。

島ができて、そこに住む生物が大陸から切り離されてどれくらいの時間がたつのか、大陸との遺伝的な交流がどれほど困難な環境なのかによって、フォスターの法則がどれほどみられるかは変わってきます。島の生物を長期的に記録、観察することで、種の特徴が変わっていく様子が理解できるようになるのです。

\次のページで「興味深い『島の生物学』」を解説!/

なお、動物の中には、島に住んでいるのにもかかわらずフォスターの法則がみられないようなものもいます。そういった生物を見つけたとき「なぜフォスターの法則の影響を受けない(島嶼化しない)のか」を調べることも、生物の進化を考えるうえで欠かすことができないでしょう。

興味深い『島の生物学』

島に住む生物を研究する分野は「島嶼生物学」などといわれ、多くの生物学者の興味をひきつけてやみません。なぜならば、フォスターの法則にもみられるように、生物の姿かたちが、周りの環境の影響を受けどのように変化していくのか…つまり「進化」のメカニズムを解明するための重要な研究になりうるからです。

日本は、それ自体が島国でもあり、さらに小さなたくさんの島によって成り立っている国でもあります。それぞれの島の生物には、まだまだ知られていない進化の秘密が隠されているでしょう。

イラスト使用元:いらすとや

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理科環境と生物の反応生態系生物

「フォスターの法則」とは?島に住む小型動物はからだが大きく進化する!?現役講師がわかりやすく解説!

今回は、生物の進化を学ぶ上で目にするキーワード「フォスターの法則」について学んでいこう。

フォスターの法則は「生物がある環境で進化する際にみられるルール」の一つです。他には”ベルクマンの法則”や”アレンの法則”などがよく知られるな。高校の生物でも名前を聞くこの法則について、具体例も合わせてみていきたい。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているライター・オノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

フォスターの法則

フォスターの法則(Foster’s rule)は、簡単にいうと「大陸から離れた島に生息する生物は、大陸のものと比べて小さくなる、もしくは大きくなる方向に進化する」という内容の法則です。島で見られる生き物に特有の現象であるため、島嶼化(とうしょか、Island Rule)ともいわれます。

この法則を提唱したのは、法則の名前にもなっているJ・ブリストル・フォスターです。彼によって1964年に提唱されたのち、他の生物学者によっても研究が進められ、この法則の一般性を裏付けるような調査結果が多く集まるようになりました。

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島というのは、非常に特殊な環境です。陸上に住む動物の場合、その多くはより良い生息地を求めて別の地域へ移動することができます。それが大陸であれば尚更です。これが、大陸から距離のある島での話となると、状況が大きく異なります。島という限られた範囲の中で生活しなくてはならないからです。

その昔、大陸から何らかの理由で島に渡ってきた生物も、長い時間を経る中で島の暮らしに適応するよう、その姿かたち、性質が変化していく(進化していく)ことになります。

フォスターは、大陸と島にすむ近縁な生物を比較することで、この変化にある程度の傾向がみられることに気づきました。

では、もう少し具体的にフォスターの法則を見ていきましょう。

小さな生物は大きくなる

フォスターの法則では、「小型動物は大陸にみられる近縁種よりも大型になる(巨大化する)傾向がある」といわれます。ネズミやリスなど、小型の哺乳類の例がよく挙げられますね。

この傾向がみられる理由は、「大陸の環境よりも捕食者の数が少ない、もしくは限られているため、からだを小さく保つ必要がない」からだといわれます。

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