この記事では「薫陶」について解説する。

端的に言えば薫陶の意味は「すぐれた人格で教え育て上げること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

今回は、日本文学を専攻し研究している翠を呼んです。一緒に「薫陶」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/翠

中古の日本文学を研究している。様々な時代やジャンルの作品を読み、ことばに触れている。中学校と高校の国語科の教員免許も取得しており、ことばについて分かりやすく説明する。

「薫陶」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「薫陶」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「薫陶」の意味は?

「薫陶」には、次のような意味があります。

1.(香(こう)をたいてかおりをしみこませ、粘土(ねんど)をこね形をととのえて陶器を作る意から)自己の徳で他人を感化すること。すぐれた人格で教え育て上げること。

出典:日本国語大辞典 第二版(小学館)「くん‐とう」

「薫陶」は「くんとう」と読みます。「かおる」と読む漢字の「薫」と土で作った器のことを表す「陶磁器」という言葉にある漢字の「陶」が使われていますね。

「薫陶」の意味は、そんな「お香」「陶器」を作る工程になぞらえたものです。自分の力、とりわけ優れた力でもって他の人を感化し、自然に育てることを意味します。

「薫陶」の語源は?

次に「薫陶」の語源を確認しておきましょう。「薫陶」は、先ほども紹介した通り、お香や陶器を作る工程が基になってできた言葉です。もともと中国の元の時代の『宋史程頤伝』の中にあった「薫陶成性」という言葉に由来しています。日本における「薫陶」の用例は、南北朝時代の臨済宗の僧侶、空華道人が著した詩文集の『空華集』に見ることができますよ。

たきしめたお香の香りは様々なものに移るため、「薫」という漢字には「人を感化する」という意味があります。陶器は、土をこねて形を整えるため、「薫陶」における「陶」という漢字の意味は「人を教え育てる」です。

「薫陶」という言葉はこのような成り立ちを持つ言葉なのですね。

\次のページで「「薫陶」の使い方・例文」を解説!/

「薫陶」の使い方・例文

「薫陶」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.先生の薫陶を賜ることができたため、今の私があります。

2.師匠の薫陶を受けた弟子たちは、今や第一線で活躍している。

3.上司の授ける薫陶は、部下たちを大きく成長させた。

「薫陶」という言葉は、高い人徳や優れた人格で人に影響を与えるという意味を持っています。そのため、使う際は自分を主語にすることはありません。自分はあくまで低い位置にいて、教育を施してくれた人物を尊敬し感謝する意味で用います。

「薫陶」は「薫陶する」の形にすることもできますが、「薫陶を受ける」「薫陶を授ける」という形で用いるのが今は一般的なようです。

「薫陶」という言葉は教育者への尊敬の念が含まれた言葉ですので、使う際には敬語表現を合わせて用いるとさらに丁寧な印象を与えます。「薫陶を賜る」はその例の一つです。

「薫陶」の類義語は?違いは?

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ここでは、「薫陶」の類義語について見ていきましょう。それぞれの類義語と「薫陶」がどのような点で異なるかについても紹介していきます。

その1「教化」

「教化」は「教え同化すること」という意味です。「教える」問う意味を持つ点と、後ほど紹介しますが「自分の行いで相手を導く」という意味合いがあるという点で「薫陶」と似ていると言えましょう。

「教化」は、仏教の「善行でもって人々を安寧に導く」という意味が由来する言葉です。そのため、宗教そして政治の場面で使われることが多いく、学習する立場の者に対し、ある種の意図をもって内面化させることというニュアンスを含みます。そこが「薫陶」とは大きく異なる点です。

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その2「薫育」

「薫育」は形も実に「薫陶」と似ていますね。「薫育」は「薫陶化育」の略称で、「徳を持って教えみちびくこと。しつけ。」という意味を持ちます。「化育」は「天地自然が万物を生じ育てること。」という意味を持つ言葉です。

「薫陶」との違いとしては、「薫育」には「しつけ」という意味が含まれているというところにあります。「薫陶」は、人を感化するという意味があり、必ずしも教育に直結するわけではない面もありますが、「薫育」はあくまで教育するという意味を持つ言葉なのでしょう。

その3「啓発」

「啓発」は「人や子どもを教え導き、目を開かせて、より高い知性や理解を与えること。また、一般の人が気づかないような点について、専門の観点から教えること。」という意味を持ちます。人を教え導くという点、人に与えた理解が良いものである場合もあるという点で「薫陶」と似ている言葉です。

「啓発」は、「自己啓発」という言葉もあるように、自分自身に対して行うことができます。また、「啓発」は必ずしも自分の徳や人格で人を教えるというわけではありません。そういった点が「薫陶」との違いです。

「薫陶」の対義語は?

ここでは、「薫陶」の対義語について紹介します。「薫陶」は「自らの人格でもって他者を感化する」というものです。そのため、真反対の意味を持つ言葉を紹介するのはなかなか難しいと言えましょう。

「薫陶」の反対の意味を持つ言葉は「本来教育される側の人間が自主的に学習する」「本来教育する側の教育する力量がない」という二つの観点から考えることができます。

その1「会得」

「会得」とは、「物事の意味、本質などを理解し悟ること。自分のものとすること。また、なるほどと了解すること。」という意味を持ちます。読み方は「えとく」です。

「会得」は教育される側の行動を示す言葉として使われます。自分の力で物事について理解しようとする様子は、人を感化するという意味のある「薫陶」とは逆の意味を持つと言っても良いでしょう。

その2「管理教育」

「管理教育」は「学校が一元的に児童・生徒の在り方を決定し、これに従わせる様式の教育方法。」という意味です。「○○でなければならない」という一つの考えのもと、生徒の行動が制限されます。大人数の集まる施設、社会へのニーズに応えるための人材を育成しなければならない一面を持つ現代の学校の教育では管理教育が適切な方法であると言えましょう。そのため、管理教育が教育方法として不適切というわけではありません。

「管理教育」という言葉は教育者の人格については言及していないこと、教育者の人格などは問題ではないということ、感化するという意味はないということから「薫陶」と逆の意味を持っていると言えましょう。

「薫陶」の英訳は?

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ここでは、「薫陶」の英訳について見ていきましょう。

\次のページで「その1「discipline」」を解説!/

その1「discipline」

「discipline」は「規律、懲罰」という意味が主にありますが、「教育」という意味もあります。「薫陶」と比べると、強制的な教育という感が否めない言葉ではありますが「薫陶」と同様、「discipline」にも「教育」という意味があるため「薫陶」の英訳と考えることが可能です。

その2「education」

「education」はよく聞く英単語でもあります。意味は「教育、教化、育英、薫陶」です。「education」はまさに「薫陶」の英訳として考えることができます。

「薫陶」を使いこなそう

この記事では「薫陶」の意味・使い方・類語などを説明しました。「薫陶」は非常に丁寧な表現であるため、書き言葉や厳格な場面でのスピーチなどフォーマルな場面でよく使われます。ビジネスでも使う場面は少なくはないと思われるこの言葉をしっかりマスターして、実際に使っていきましょう。

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国語言葉の意味

「薫陶」の意味や使い方は?例文や類語を文学院生がわかりやすく解説!

この記事では「薫陶」について解説する。

端的に言えば薫陶の意味は「すぐれた人格で教え育て上げること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

今回は、日本文学を専攻し研究している翠を呼んです。一緒に「薫陶」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/翠

中古の日本文学を研究している。様々な時代やジャンルの作品を読み、ことばに触れている。中学校と高校の国語科の教員免許も取得しており、ことばについて分かりやすく説明する。

「薫陶」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「薫陶」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「薫陶」の意味は?

「薫陶」には、次のような意味があります。

1.(香(こう)をたいてかおりをしみこませ、粘土(ねんど)をこね形をととのえて陶器を作る意から)自己の徳で他人を感化すること。すぐれた人格で教え育て上げること。

出典:日本国語大辞典 第二版(小学館)「くん‐とう」

「薫陶」は「くんとう」と読みます。「かおる」と読む漢字の「薫」と土で作った器のことを表す「陶磁器」という言葉にある漢字の「陶」が使われていますね。

「薫陶」の意味は、そんな「お香」「陶器」を作る工程になぞらえたものです。自分の力、とりわけ優れた力でもって他の人を感化し、自然に育てることを意味します。

「薫陶」の語源は?

次に「薫陶」の語源を確認しておきましょう。「薫陶」は、先ほども紹介した通り、お香や陶器を作る工程が基になってできた言葉です。もともと中国の元の時代の『宋史程頤伝』の中にあった「薫陶成性」という言葉に由来しています。日本における「薫陶」の用例は、南北朝時代の臨済宗の僧侶、空華道人が著した詩文集の『空華集』に見ることができますよ。

たきしめたお香の香りは様々なものに移るため、「薫」という漢字には「人を感化する」という意味があります。陶器は、土をこねて形を整えるため、「薫陶」における「陶」という漢字の意味は「人を教え育てる」です。

「薫陶」という言葉はこのような成り立ちを持つ言葉なのですね。

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