今回は「歳差運動」について解説していきます。

歳差運動は、物体が回転している際に、観察できる現象の一つです。コマを回転させたときにも、歳差運動を見ることができるぞ。また、地球の自転も歳差運動と深い関係がある。今回は、コマの回転や地球の自転といった歳差運動の具体例を紹介する。そして、歳差運動の力学的な考察手法も紹介します。ぜひ、この機会に歳差運動についての理解を深めてくれ。

塾講師として物理を高校生に教えていた経験もある通りすがりのぺんぎん船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻しており、物理学も幅広く勉強している。塾講師として物理を高校生に教えていた経験から、物理の学習において、つまずきやすい点や勘違いしやすい点も熟知している。

1.歳差運動とは?

この記事では、歳差運動という現象について解説しますね。物体が回転する際には、その回転軸の方向は変化しています。この現象が、歳差運動なのです。歳差運動の様子が、すり鉢で味噌をすっているように見えることから、歳差運動は味噌すり運動とも呼ばれていますよ。

以下では、歳差運動の具体的な例としてコマと地球の運動を紹介します。まずは具体例を知り、歳差運動の概要を理解しましょう。その後に、計算式を用いて、歳差運動を力学の視点で解明していきますね。聞きなれない用語などが登場することもかと思いますが、そのようなときは、定義や意味をしっかりと確認してください。

1-1コマの運動

image by iStockphoto

皆さんの中にも、コマを回して遊んだことのある方がおられるかと思います。コマが回転を初めてから、回転が止まるまでの様子を思い返してみてください。コマが回転を始めた直後は、コマは高速で回転し、軸はほとんどぶれることはありません

しかしながら、時間が経過すると、コマは失速しますよねコマが失速すると、軸はぶれるようになります。軸がぶれるというのはコマが傾いていると表現することもできますよ。このとき、コマの軸の先端部は円を描くように運動しています。

コマの回転速度が低下すると、コマの運動は、回転軸まわりの回転運動と軸の回転運動が合成された状態になるのですね。以上のような運動が歳差運動です。時間の経過により、コマの回転力が失われ、その失われた分が歳差運動のエネルギーの源になっているようなイメージですね。このような物理学的な考察は、後で詳しく述べますね。

1-2地球の運動

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地球などの天体の自転運動も歳差運動です地球の自転軸は傾いていることが知られていますよね。地球の自転軸の傾き(黄道傾斜角)は、約23°です。地球の自転軸が傾いているため、公転により太陽に対する地球の位置が変化すると、地球表面の日射量分布も変化します。これにより、地球上の温度分布なども1年を通して変化するのです。これが、季節変化のメカニズムですよね。

現在、地球の自転軸は北極星に向かっています。しかしながら、地球の回転軸の向きは、歳差運動によって日々わずかに変化しているはずですよね。つまり、いつの日か、北極星は動かない星ではなくなるのです。ただし、地球の自転軸の歳差運動の周期は約2万6千年だとされています。周期が非常に長いので、回転軸が常に同じ方向にあるように感じるのですね。コマの歳差運動の周期が数秒であることと比較すると、天文学がいかに大きな時間やサイズを扱う学問であるかが実感できます。

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2.歳差運動の力学的理論

ここまでは、歳差運動の概要を学ぶために、いくつかの具体例を紹介してきました。ここからは、力学の理論を用いて、歳差運動を一般化する手法を解説していきます。これにより、歳差運動の数値に基づいた詳細な分析が可能になりますよ。

歳差運動の力学的な考察には、中学校や高校で主に学ぶ質点の力学ではなく、剛体の力学の知識が必要になります。今回は、歳差運動の考察に入る前に、剛体の力学に関連する重要な項目をまとめておきますのでご安心ください。それでは、歳差運動の力学的理論についての説明を始めます。

2-1角運動量と保存則

2-1角運動量と保存則

image by Study-Z編集部

質点の力学とは異なり、剛体の力学では物体自体の回転を考慮する必要があります。例えば、偶力は質点の力学では物体の運動に影響は与えませんが、剛体の力学では物体の回転の原因になりますよ。偶力は、大きさは等しいが、向きが反対である2つの力の組のことですよ。

剛体の力学で登場する重要な概念が角運動量です。角運動量Lは、回転の角速度ωと物体の慣性モーメントIの積で決定されます。また、角運動量Lは外力のモーメントNに影響を受けることが知られており、その関係はdL/dt=Nで表現されますよ

この式から、外力のモーメントNが0のとき、角運動量Lの値は変化しないことがわかります。そして、外力のモーメントNが0のとき、角運動量Lが保存される現象のことを角運動量保存則と呼ぶのです。

2-2歳差運動のモデル化

2-2歳差運動のモデル化

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それでは、歳差運動のモデル化について考えていきましょう。ここでは、コマや地球のように軸まわりに対照的な質量分布をもつ物体を考えます。また、計算を単純化させるために、歳差運動の周期が軸まわりの回転周期よりも十分に小さい場合を考えますね

物体の回転軸が鉛直方向よりもθだけ傾いていると仮定すると、重力によるモーメントNはN=Mglsinθと表せます。Mは物体の質量、gは重力加速度、lは物体の重心と軸の接点との距離です。これより、物体の角運動量Lの時間変化はdL/dt=Mglsinθとなります。

また、軸の先端が円を描くことに注目しましょう。歳差運動の角速度をΩとすると、微小時間dtの間に軸の先端が移動した距離は、Lsinθ×Ωdtとなります。この値はdLに一致することが知られているので、dL=Lsinθ×Ωdt⇔dL/dt=LΩsinθとなるのです。

\次のページで「2-3回転速度と歳差運動の関係」を解説!/

2-3回転速度と歳差運動の関係

2-3回転速度と歳差運動の関係

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先ほど、回転体の角運動量の時間変化dL/dtは、dL/dt=MglsinθとdL/dt=LΩsinθの2通りで表現できることを説明しました。このことから、Mglsinθ=LΩsinθ⇔Ω=Mgl/Lとなることがわかります。さらに、回転体の角運動量Lは、回転体の慣性モーメントIと回転軸まわりの角速度ωを用いて、L=Iωと表現できますよね。

ゆえに、歳差運動の角速度Ωは、回転軸まわりの角速度ωを用いると、Ω=Mgl/Iωと表せますよ。この式から、回転軸まわりの角速度ωが大きくなるほど、歳差運動の角速度Ωが小さくなることがわかりますこの式は、コマが高速回転すると、軸が安定するという経験にも一致しますよね

歳差運動について理解を深めよう!

歳差運動は、コマの回転や地球の自転において見ることができる現象です。歳差運動は私たちの生活との距離が小さい物理現象だと言うことができます。ですから、雑学として歳差運動についての理解を深めるということも無駄ではないはずです。

また、歳差運動について学習すると、剛体の力学を学ぶ上で重要な角運動量についての理解も深まります。歳差運動は、剛体力学の入門としても良い教材なのです。ぜひ、この記事を読んで、歳差運動についての理解を深めてみてください。

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地学地球物理物理学・力学理科電磁気学・光学・天文学

3分で簡単歳差運動!コマや天体の例を挙げて理系学生ライターがわかりやすく解説

今回は「歳差運動」について解説していきます。

歳差運動は、物体が回転している際に、観察できる現象の一つです。コマを回転させたときにも、歳差運動を見ることができるぞ。また、地球の自転も歳差運動と深い関係がある。今回は、コマの回転や地球の自転といった歳差運動の具体例を紹介する。そして、歳差運動の力学的な考察手法も紹介します。ぜひ、この機会に歳差運動についての理解を深めてくれ。

塾講師として物理を高校生に教えていた経験もある通りすがりのぺんぎん船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻しており、物理学も幅広く勉強している。塾講師として物理を高校生に教えていた経験から、物理の学習において、つまずきやすい点や勘違いしやすい点も熟知している。

1.歳差運動とは?

この記事では、歳差運動という現象について解説しますね。物体が回転する際には、その回転軸の方向は変化しています。この現象が、歳差運動なのです。歳差運動の様子が、すり鉢で味噌をすっているように見えることから、歳差運動は味噌すり運動とも呼ばれていますよ。

以下では、歳差運動の具体的な例としてコマと地球の運動を紹介します。まずは具体例を知り、歳差運動の概要を理解しましょう。その後に、計算式を用いて、歳差運動を力学の視点で解明していきますね。聞きなれない用語などが登場することもかと思いますが、そのようなときは、定義や意味をしっかりと確認してください。

1-1コマの運動

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皆さんの中にも、コマを回して遊んだことのある方がおられるかと思います。コマが回転を初めてから、回転が止まるまでの様子を思い返してみてください。コマが回転を始めた直後は、コマは高速で回転し、軸はほとんどぶれることはありません

しかしながら、時間が経過すると、コマは失速しますよねコマが失速すると、軸はぶれるようになります。軸がぶれるというのはコマが傾いていると表現することもできますよ。このとき、コマの軸の先端部は円を描くように運動しています。

コマの回転速度が低下すると、コマの運動は、回転軸まわりの回転運動と軸の回転運動が合成された状態になるのですね。以上のような運動が歳差運動です。時間の経過により、コマの回転力が失われ、その失われた分が歳差運動のエネルギーの源になっているようなイメージですね。このような物理学的な考察は、後で詳しく述べますね。

1-2地球の運動

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地球などの天体の自転運動も歳差運動です地球の自転軸は傾いていることが知られていますよね。地球の自転軸の傾き(黄道傾斜角)は、約23°です。地球の自転軸が傾いているため、公転により太陽に対する地球の位置が変化すると、地球表面の日射量分布も変化します。これにより、地球上の温度分布なども1年を通して変化するのです。これが、季節変化のメカニズムですよね。

現在、地球の自転軸は北極星に向かっています。しかしながら、地球の回転軸の向きは、歳差運動によって日々わずかに変化しているはずですよね。つまり、いつの日か、北極星は動かない星ではなくなるのです。ただし、地球の自転軸の歳差運動の周期は約2万6千年だとされています。周期が非常に長いので、回転軸が常に同じ方向にあるように感じるのですね。コマの歳差運動の周期が数秒であることと比較すると、天文学がいかに大きな時間やサイズを扱う学問であるかが実感できます。

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