今回は「希薄溶液」について解説していきます。

希薄溶液は、濃度が小さい溶液のことを指す。希薄溶液には、様々な性質があり、これらの性質の多くは定式化されているぞ。今回は、希薄溶液とその性質について詳しく説明するつもりです。また、希薄溶液の性質と関係のある現象などについても取り上げる。ぜひ、この機会に希薄溶液についての理解を深めてくれ。

化学に詳しいライター通りすがりのペンギン船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻している。これらの学問への興味は人一倍強い。資源材料学、環境化学工学、バイオマスエネルギーなども勉強中。

1.希薄溶液について学ぼう!

今回のメインテーマは、希薄溶液とその性質です。最初に、希薄溶液はどのようなものであるかについて説明します。そして、記事の後半では、希薄溶液の性質について詳しく解説をしますね。また、希薄溶液に関連する身近な現象も数多く紹介します。

それでは早速、希薄溶液の概要について説明をはじめますね。見慣れない言葉に出会うこともあるかもしれませんが、その際には意味を一つ一つ確実に理解していきましょう。

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希薄溶液とは?

希薄溶液とは?

image by Study-Z編集部

希薄溶液は、溶媒(水や有機溶剤など)に溶質(食塩や炭酸塩など)を溶かした状態を表す溶液の一種です。希薄溶液は、溶液の中でも濃度が小さいもののことを指します希薄溶液の目安は、モル濃度で0.1[mol/L]以下となることです

さらに、理想溶液として扱うことができる希薄溶液のことを、理想希薄溶液といいます。理想希薄溶液には、溶液に関する物理化学の法則を完全に適用することができますよ。ただ、理想溶液でない希薄溶液にも、各法則は近似的に適用可能です。

希薄溶液の性質

希薄溶液の性質

image by Study-Z編集部

希薄溶液には、様々な性質があり、それらの多くが定式化されています。具体的には、沸点上昇・蒸気圧降下・凝固点降下などが挙げられますよ。

また、このような現象を定式化したものには、ファントホッフの式・ラウールの法則・ヘンリーの法則などが存在します。これらの法則は、各種測定などで活用されていますよ。

希薄溶液には数多くの性質が存在するので、すべてを紹介することはできません。今回は、沸点上昇・凝固点降下・浸透現象の3つに焦点を当てて、解説をします

2.沸点上昇

まず、沸点上昇という現象を説明します。この現象は、希薄溶液の沸点が、溶媒単独の場合の値よりも大きくなるという現象ですよ。つまり、塩水の沸点は精製水の沸点よりも高くなるのです。

この現象は定式化がなされており、定量的な評価が可能ですよ。以下では、沸点上昇の定式化方法とこの現象に関係する技術や知恵について述べます

沸点上昇の定式化

沸点上昇は、Δtb=Kbmという式を用いて表現することができますΔtb[K]は沸点上昇度m[mol/kg]は希薄溶液の質量モル濃度です。沸点上昇度Δtb[K]は、対象とする溶液の沸点と溶媒単独の沸点の差分のことを表します。また、質量モル濃度m[mol/kg]は、溶質の物質量[mol]を溶媒の質量[kg]で除したものです。

さらに、比例定数Kb[K・kg/mol]はモル沸点上昇と呼ばれていますモル沸点上昇は、溶質の種類に依存することなく、各溶媒に固有の値をとりますよ。つまり、溶媒が水であれば、溶質が何であろうとモル沸点上昇の値が不変なのです。

\次のページで「沸点上昇に関係する技術や知恵」を解説!/

沸点上昇に関係する技術や知恵

image by iStockphoto

ここでは、沸点上昇に関係する技術や知恵について述べますパスタをゆでる際に、水に塩を加えて加熱しますよね。これには、もちろんパスタに味をつけるという目的もあるのですが、もう一つ別の目的があるとされています。

水に塩を加えることで、沸点上昇を生じさせ、パスタをより高温で調理するという目的ですよ。水の沸点よりも高い温度で調理することで、パスタのコシやうま味などが向上するようです。

3.凝固点降下

続いて、凝固点降下という現象を説明しますね。希薄溶液の凝固点は、溶媒単独の場合よりも小さな値になることが知られています。これが、凝固点降下という現象です。

この現象も、沸点上昇と同様に、定式化がなされています。以下では、凝固点降下の定式化方法とこの現象に関係する技術や知恵について述べますね

凝固点降下の定式化

凝固点降下は、Δtf=Kfmという式を用いて表現することができます。この式の考え方は、沸点上昇の式と同様ですよ。Δtf[K]は凝固点降下度m[mol/kg]は希薄溶液の質量モル濃度です。凝固点降下度Δtf[K]は、対象とする溶液と単独の溶媒の凝固点の差ですよ。

また、比例定数Kf[K・kg/mol]はモル凝固点降下ですモル凝固点降下は、各溶媒に固有の値をとります。そして、モル凝固点降下も溶質の種類に依存することはありません

凝固点降下に関係する技術や知恵

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凝固点降下の仕組みを利用したものに、凍結防止剤があります。冬に道路が凍結すると、車両の通行が困難になりますよね。そこで、凍結防止剤を道路にあらかじめ散布しておきます。

凍結防止剤を撒いている場所に雨や雪が降った場合、凝固点降下により、水分は氷点下という条件であっても凍らなくなりますよね。これが、凍結防止剤の仕組みですよ。

それゆえ、凍結防止剤に最適な物質は、水によく溶けるものです。また、凍結防止剤は回収困難ですから、環境に与える影響も少ないものである必要もあります。このような理由で、凍結防止剤の主成分は尿素塩化カルシムなどになっていますよ。

\次のページで「4.浸透現象」を解説!/

4.浸透現象

最後に、浸透という現象を紹介しますね。純水と水溶液を半透膜を隔てて、放置すると、純水側から水溶液側に水分子が移動しますこれが浸透です

このような現象が生じるのは、純水側と水溶液側に濃度勾配があり、それを打ち消そうとするからですよ。また、半透膜は水分子のように小さい粒子のみを通すため、溶質は移動できません

浸透現象についても、定式化がなされており、式はファントホッフの法則という名前で呼ばれています。以下では、ファントホッフの法則と浸透現象に関係する技術や知恵について紹介しますね

ファントホッフの法則

ファントホッフの法則は、π=cRTという式で表現されます。ここで、π[Pa]は浸透圧c[mol/L]は希薄溶液のモル濃度R[(Pa・L)/(K・mol)]は気体定数T[K]は絶対温度です。浸透圧とは、浸透現象が見られる際に半透膜面に作用する圧力のことですよ。ファントホッフの法則より、同一温度条件では、浸透圧π[Pa]は希薄溶液のモル濃度c[mol/L]に比例することがわかります

また、浸透圧よりも大きい逆向きの圧力を外部から加えると、浸透の場合とは逆の向きに溶媒分子が移動することも知られていますよ。この現象のことを逆浸透と呼びます。

浸透に関係する技術や知恵

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浸透に関係する技術や知恵の一つに、海水の淡水化技術がありますよ。ここでは、海水の淡水化技術について説明します。半透膜を隔てて、海水と純水を配置すると、浸透により純水側の水分子が海水側に移動しますよね。このままでは、海水の量が増えるだけで、純水の量は増えません。

ここに、浸透圧を超えるような圧力を外部から人為的に加えることで、逆浸透を生じさせます。逆浸透を生じさせると、海水側の水分子は次々と純水側に移動しますよね。この結果、純水の量が増えるのです。これが、半透膜を用いた海水の淡水化技術のメカニズムですよ。

希薄溶液について学ぶ意義

この記事では、希薄溶液とは一体何なのか、希薄溶液はどのような性質をもつのかということを解説しました。また、それらに関連する知恵や技術についても考えましたよね。具体例を併せて学習することで、希薄溶液に対する理解は、よりいっそう深まったかと思います。

また、希薄溶液についての知識は、雑学として知っておくのも良いでしょう。ぜひとも、希薄溶液について学んでみてください。

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化学物質の状態・構成・変化理科生活と物質

3分で簡単「希薄溶液」ファントホッフの法則とは?理系学生ライターが徹底わかりやすく解説!

希薄溶液とは?

希薄溶液とは?

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希薄溶液は、溶媒(水や有機溶剤など)に溶質(食塩や炭酸塩など)を溶かした状態を表す溶液の一種です。希薄溶液は、溶液の中でも濃度が小さいもののことを指します希薄溶液の目安は、モル濃度で0.1[mol/L]以下となることです

さらに、理想溶液として扱うことができる希薄溶液のことを、理想希薄溶液といいます。理想希薄溶液には、溶液に関する物理化学の法則を完全に適用することができますよ。ただ、理想溶液でない希薄溶液にも、各法則は近似的に適用可能です。

希薄溶液の性質

希薄溶液の性質

image by Study-Z編集部

希薄溶液には、様々な性質があり、それらの多くが定式化されています。具体的には、沸点上昇・蒸気圧降下・凝固点降下などが挙げられますよ。

また、このような現象を定式化したものには、ファントホッフの式・ラウールの法則・ヘンリーの法則などが存在します。これらの法則は、各種測定などで活用されていますよ。

希薄溶液には数多くの性質が存在するので、すべてを紹介することはできません。今回は、沸点上昇・凝固点降下・浸透現象の3つに焦点を当てて、解説をします

2.沸点上昇

まず、沸点上昇という現象を説明します。この現象は、希薄溶液の沸点が、溶媒単独の場合の値よりも大きくなるという現象ですよ。つまり、塩水の沸点は精製水の沸点よりも高くなるのです。

この現象は定式化がなされており、定量的な評価が可能ですよ。以下では、沸点上昇の定式化方法とこの現象に関係する技術や知恵について述べます

沸点上昇の定式化

沸点上昇は、Δtb=Kbmという式を用いて表現することができますΔtb[K]は沸点上昇度m[mol/kg]は希薄溶液の質量モル濃度です。沸点上昇度Δtb[K]は、対象とする溶液の沸点と溶媒単独の沸点の差分のことを表します。また、質量モル濃度m[mol/kg]は、溶質の物質量[mol]を溶媒の質量[kg]で除したものです。

さらに、比例定数Kb[K・kg/mol]はモル沸点上昇と呼ばれていますモル沸点上昇は、溶質の種類に依存することなく、各溶媒に固有の値をとりますよ。つまり、溶媒が水であれば、溶質が何であろうとモル沸点上昇の値が不変なのです。

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