この記事では「生体触媒」と「無機触媒」というキーワードについて勉強していきます。

本文中で詳しく説明されるが、生体触媒には我々の体の中ではたらいている酵素などが含まれる。生体触媒と無機触媒の違いだけでなく、「そもそも触媒とは何なのか」という疑問も解消していこう。

今回も大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

触媒とは?

生体触媒(せいたいしょくばい)と無機触媒(むきしょくばい)について詳細に解説する前に、まずは「触媒とはいったい何なのか」について復習しておきましょう。

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触媒(しょくばい)とは、化学反応が起きる際の反応速度を速め、なおかつ自分自身は反応の前後で変化しない物質のことをさします。

化学反応ですので、たとえば複数の物質が反応して新しい物質ができたり、ある物質が分解されて複数の物質になったり…といった現象です。

材料だけあっても、高温や高圧をかけたり、非常に長い時間を要するような化学反応も、触媒を入れることで低温、低圧の条件でも反応が進むようになったり、反応をあっという間に進めることができるようになります

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なぜ触媒にこのような機能があるのでしょう?これを理解するのに必要なのが、「化学反応の際にはエネルギーが必要である」という考え方です。

化学反応が起きるときには、各反応ごとに特有のエネルギー(活性化エネルギー)が必要になるのですが、触媒があると、必要なエネルギー量の少ない経路で反応を進めることができるようになります。

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Fvasconcellos (トーク · 投稿記録) - Image:Activation2 updated.svg, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

適切な触媒があり、少ないエネルギーで化学反応が進められても、材料となった物質(反応物)と、反応によってできた物質(生成物)の種類や数は変わりません。触媒を使ってもつかわなくても、化学反応の結果は変わらないということを抑えておきましょう。

また、触媒となった物質は、あくまで化学反応に必要なエネルギーを少なくするだけです。反応によってできた物質の中に、触媒となった物質が取り込まれたりすることは基本的にありません。

\次のページで「無機触媒」を解説!/

では、今回の本題である、生体触媒と無機触媒についてご紹介していきましょう。話の流れ上、まずは無機触媒から取り上げたいと思います。

無機触媒

無機触媒は名前の通り、触媒としてはたらく無機物のことを指します。よく見かけるのは、金属の単体や酸化物、錯体などですね。

私たちの生活の中でも無機触媒がいたるところで利用されています。例えば、自動車の排気ガスを排出する際、そのままでは窒素酸化物や一酸化炭素などの有害な気体が放出されてしまいますが、これを白金やパラジウムなどの金属からなる触媒に通すことで、窒素や二酸化炭素といった人体に害の少ない気体に変化させ、排出しているのです。

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また、さまざまな物質を工場などでつくる際にも、触媒の選定は不可欠。適切な触媒を選べば、低エネルギー・低コストで目的を達成することができます。

最近のものでは、2010年のノーベル化学賞が「パラジウム触媒を用いたカップリング反応」でしたね。日本人研究者もこの研究の受賞者にふくまれています。

生体触媒

一方、生物のからだの中で生み出される触媒のことを生体触媒といいます。多くの場合、生体触媒といえばタンパク質でできた酵素(エンザイム)を指しますね。

\次のページで「生体触媒と無機触媒の実験」を解説!/

酵素はタンパク質からできていますので、高温にさらされると分子の形が変わってしまい、その機能を失ってしまいます失活)。これは、無機触媒には見ることのできない大きな特徴です。普段食べるお肉なんかも、加熱すると固くなりますよね。

さらに、酵素の場合は「はたらくのに一番いい温度(最適温度)がある」というのも大きなポイントです。高すぎる温度は失活につながりますが、あまりに低い温度でも酵素はうまくはたきません。ヒトの体内ではたらく酵素であれば、大体35~40℃くらいが適温のものが多いです。

さらに、pHや濃度に関しても最適な条件というのがあるため、注意が必要です。

無機触媒の場合は、一般的に高い温度ほど反応が進みやすくなります。

生体触媒と無機触媒の実験

ではここで、生体触媒と無機触媒の違いを確認できる有名な実験をご紹介しましょう。過酸化水素の分解を引き起こす実験です。

\次のページで「たかが触媒、されど触媒!」を解説!/

過酸化水素は、分解されると酸素になります。常温常圧の実験室などで放置していても、目に見えて分解が進むというものではありません。

過酸化水素を水溶液とした過酸化水素水に適切な溶媒をいれると、分解が素早く進み、酸素の泡がぷくぷくと出てくる様子が観察できます。

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3%過酸化水素水(オキシドール)に、酸化マンガン(Ⅳ)(二酸化マンガンともいう)を入れてみると、この反応が起き、酸素が発生。すなわち、酸化マンガン(Ⅳ)は過酸化水素の分解反応で触媒としてはたらく物質です。

別の試験管に用意した過酸化水素水に、今度はブタの肝臓片を入れてみると…こちらでも、先ほどと同じような反応がおきます。これは、肝臓中に含まれる酵素、カタラーゼが触媒としてはたらくことで引き起こされたのです。

さらに、もう一つ実験をしてみます。触媒として機能する酸化マンガン(Ⅳ)と肝臓片。これらを試験管に用意し、過酸化水素を加える前に、100℃のお湯に5分ほどひたしてみましょう。そのあと過酸化水素を加えると…酸化マンガン(Ⅳ)と過酸化水素水の入った試験管では酸素が発生しますが、肝臓片の方はこの反応がおきません。

もう皆さんお分かりですね?これは、高温によって生体触媒である酵素(カタラーゼ)の形状が変化し、触媒として機能しなくなってしまったために生じた結果です。

タンパク質ではない金属結晶の酸化マンガン(Ⅳ)は、高温にさらされても変化がおきません。そのため、初めの実験と同じ結果が得られます。

たかが触媒、されど触媒!

触媒の世界は本当に奥が深いです。新しい触媒の発見1つで新しい物質が合成できるようになったり、生体触媒(主に酵素)であれば体内で生じる化学反応の一端が解明されたり…化学や生物の研究者たちは、さまざまな方法でそれぞれの求める触媒を日々追い続けています。

高校生の皆さんは、それぞれの触媒がどんなものか、無機触媒と生体触媒の間にはどんな違いがあるのかを正確におさえておきましょう。

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化学理科生活と物質生物

「生体触媒」と「無機触媒」の違いって何?そもそも触媒とは?実現役講師が簡単にわかりやすく解説!

この記事では「生体触媒」と「無機触媒」というキーワードについて勉強していきます。

本文中で詳しく説明されるが、生体触媒には我々の体の中ではたらいている酵素などが含まれる。生体触媒と無機触媒の違いだけでなく、「そもそも触媒とは何なのか」という疑問も解消していこう。

今回も大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

触媒とは?

生体触媒(せいたいしょくばい)と無機触媒(むきしょくばい)について詳細に解説する前に、まずは「触媒とはいったい何なのか」について復習しておきましょう。

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触媒(しょくばい)とは、化学反応が起きる際の反応速度を速め、なおかつ自分自身は反応の前後で変化しない物質のことをさします。

化学反応ですので、たとえば複数の物質が反応して新しい物質ができたり、ある物質が分解されて複数の物質になったり…といった現象です。

材料だけあっても、高温や高圧をかけたり、非常に長い時間を要するような化学反応も、触媒を入れることで低温、低圧の条件でも反応が進むようになったり、反応をあっという間に進めることができるようになります

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なぜ触媒にこのような機能があるのでしょう?これを理解するのに必要なのが、「化学反応の際にはエネルギーが必要である」という考え方です。

化学反応が起きるときには、各反応ごとに特有のエネルギー(活性化エネルギー)が必要になるのですが、触媒があると、必要なエネルギー量の少ない経路で反応を進めることができるようになります。

適切な触媒があり、少ないエネルギーで化学反応が進められても、材料となった物質(反応物)と、反応によってできた物質(生成物)の種類や数は変わりません。触媒を使ってもつかわなくても、化学反応の結果は変わらないということを抑えておきましょう。

また、触媒となった物質は、あくまで化学反応に必要なエネルギーを少なくするだけです。反応によってできた物質の中に、触媒となった物質が取り込まれたりすることは基本的にありません。

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