今回は、植物にみられる性質である「傾性」と「屈性」をキーワードとして学習していく。

これらは言葉が紛らわしいこともあり、混同されがちな植物の性質です。苦手なやつも少なくないな。この記事で色々な具体例とともに、傾性と屈性の意味や違いを確認していこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

傾性と屈性

生物学において、”傾性(けいせい)”と”屈性(くっせい)”は、いずれも刺激を与えられたことにより植物が運動する現象や性質のことをさします。

「傾く」と「屈む(かがむ)」という、似た雰囲気の漢字が使われているためか、両者は混同されることも少なくありません。しかしながら、”傾性”と”屈性”にはきちんとした違いがあるのです。今回は、その違いにも注目しながら、それぞれの現象について学んでいきましょう。

傾性

傾性は、植物体が刺激の与えられた方向とは無関係にからだを屈曲させることをいいます。

\次のページで「傾光性」を解説!/

簡単にいうと、刺激が右からきても左からきても、上からでも下からでも、同じ動きで反応するということ。後述しますが、今回のテーマのもう一つである「屈性」のほうは、刺激の与えられた方向によって植物体の動く向きが決まるのです。

傾性は、その刺激源に応じていくつかの種類に分けられます。以下に、代表的なものをピックアップしてご紹介していきましょう。

傾光性

傾光性(けいこうせい)は、光の強さの変化を刺激として運動が引き起こされる性質です。強い光が当たったり、反対にそれまで当たっていた光が弱くなっていくことで、植物の動きが促されます。

この傾光性で最もわかりやすい例が、花の開閉でしょう。タンポポの花を一日中観察していると、明るくなって花が開き、暗くなると花が閉じていく様子が確認できます。どの方向から光が当たっても、「花が開く、閉じる」の向きは変わりませんので、傾光性であるといえるのです。

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また、傾光性が葉の開閉でも見られるものがあります。ネムノキやハギ、カタバミの葉などは、朝になると葉を開き、夕方には葉を閉じてしまうことが知られていますね。これも、光の変化で一定の運動が引き起こされる、有名な傾光性の例です。

傾触性

接触の刺激に反応して運動が引き起こされる性質を傾触性(けいしょくせい)といいます。

例えば、オジギソウを触ると起きる葉の開閉。接触の刺激によって水分の移動が引き起こされ、葉が閉じるとともに葉柄が下に下がります。触る方向を変えても、この運動の方向(葉が閉じ、葉柄が下垂する)は変わりません。

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また、食虫植物として知られるモウセンゴケの運動も、傾触性の良い例です。葉(捕虫葉)の腺毛に昆虫などが触れると、葉が屈曲し、獲物を包み込んでしまいます。これも、腺毛に触れる方向によって葉の屈曲の向きが変わるわけではありませんよね。

傾熱性

気温の上昇や加工など、温度変化によって運動が引き起こされるのが傾熱性(けいねつせい)です。

教科書などでは、よくチューリップの例が挙げられます。チューリップの開花は、気温の上昇によって引き起こされるのです。これは、気温の温かい時間が続くと、花弁(花びら)の外側の細胞より、内側の細胞の方が速く伸長することで起きるといわれています。

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屈性

先にも少し触れましたが、刺激の与えられた方向に対して、植物体が特定の向きに運動するのが屈性です。

傾性との違いは、「植物の動く向きが刺激の方向によって変わる」という点。ここが最大のポイントです。

image by Study-Z編集部

とくに、刺激の与えられた方向に対し、植物体が向かっていくように運動するものを「正の屈性」といいます。それに対し、まるで刺激から逃れようとするかのように、反対方向に運動する性質は「負の屈性」です。

刺激を与える方向を変えれば、運動の向きも変わるため、実験や観察が面白く感じられる植物の性質でしょう。

こちらも、与える刺激の種類によって呼び名がさらに細かく分けられます。

屈光性

屈光性(くっこうせい)は、光を刺激源として起こる屈性です。光屈性ともいいます。

屈光性は、植物を育てているときに最もよく目につく運動といってもいいかもしれません。鉢植えを室内で育てていると、窓など光の差し込む方へ、植物が伸びていくことがあります。これは、植物の葉や茎に正の屈光性があるためです。

Phototropism.jpg
Tangopaso - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

その一方で、植物の根は一般的に負の屈光性をもちます。種から出た根は、光の当たらない方を目指すかのように地面の中へ伸びていくのです。これも、「地中の水分や栄養を吸収する」という根の役割を果たすのに必要な性質といえますね。

屈光性による運動のメカニズムには、植物ホルモンの一種であるオーキシンが深く関係することが分かっています。オーキシンは、植物細胞の伸長を促すホルモンです。

正の光屈性の場合、オーキシンは光の当たっている方と反対の方向(陰になる方)に多く集められます。すると、光の当たらない側の細胞が伸び、結果的に光の方へ植物体が向きを変えていくことになるのです。

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屈地性

屈地性(くっちせい)は、重力を刺激源とする屈性。重力屈性ともよばれます。

重力の方向=地球の内部に向かっていくように動くのが正の屈地性、重力に逆らうように動くのが負の屈地性です。

植物の根には正の屈地性が、芽や茎には負の屈地性がみられます。

屈触性

物体の接触を刺激源とするのが屈触性(くっしょくせい)です。やはり、接触屈性という別の呼び方があります。

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屈触性の良い例が、巻きひげが棒などに巻き付く運動でしょう。エンドウやアサガオなどを育てると、まるで支柱を認識して掴むように巻きひげを伸ばし、植物体を支えながら上へと成長していくのがみられます。

巻きひげは「支柱を掴む」という意思をもっているわけではなく、巻きひげののびた先に何かが接触すると、それが刺激となって屈性が引き起こされ、巻き付くように成長するのです。

植物の運動を説明できるようになる

私たち人間のような動物とは違い、植物の運動には時間がかかるものが多く、意識しないと気が付かないようなものが大半です。でも、一度その運動に気づくと「脳も神経もない植物が、どうしてこんな動きをするんだろう」と不思議に思えてくるでしょう。

今回は、外部からの刺激によって引き起こされる植物の運動の一端をご紹介しましたが、実際にはまだ解明されていないメカニズムも多く残っています。興味をもたれた方、植物の運動の研究をしてみませんか?

イラスト使用元:いらすとや

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理科環境と生物の反応生物

3分で簡単「傾性」と「屈性」の違い!重要な植物の性質について現役講師が簡単わかりやすく解説

今回は、植物にみられる性質である「傾性」と「屈性」をキーワードとして学習していく。

これらは言葉が紛らわしいこともあり、混同されがちな植物の性質です。苦手なやつも少なくないな。この記事で色々な具体例とともに、傾性と屈性の意味や違いを確認していこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

傾性と屈性

生物学において、”傾性(けいせい)”と”屈性(くっせい)”は、いずれも刺激を与えられたことにより植物が運動する現象や性質のことをさします。

「傾く」と「屈む(かがむ)」という、似た雰囲気の漢字が使われているためか、両者は混同されることも少なくありません。しかしながら、”傾性”と”屈性”にはきちんとした違いがあるのです。今回は、その違いにも注目しながら、それぞれの現象について学んでいきましょう。

傾性

傾性は、植物体が刺激の与えられた方向とは無関係にからだを屈曲させることをいいます。

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