薬物動態とは、薬物を摂取してから排泄されるまで、生体内で起こっている動きを解明することで、ADME(アドメ)はその指標となるものです。ADME研究は創薬段階、臨床開発さらには市販後のあらゆる場面で最も重要な指標となる。
生物に詳しい現役理系大学院生ライターCaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立大学院の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。

ADME(アドメ)とは

ADME(アドメ)とは

image by Study-Z編集部

薬を摂取すると「吸収」されて血液中に入り、体内に「分布」し、やがて「代謝」され、最終的に「排泄」されて体内からなくなります。このように「薬がどのように吸収されて、身体の中でどのような動きをして、どのくらいの時間で排泄されるのか」を理解することはとても重要です。これらを調べる学問を薬物動態学と呼びます。

ADME(アドメ)とは、薬物動態学の分野で生体において薬物がどのように働くのかを示す用語で、吸収Absorption)、分布Distribution)、代謝Metabolism)、排泄Excretion)の頭文字をとった略語です。場合によっては、薬物のコーティング剤や賦形剤からの解放(Liberation)および/または毒性( Toxicity )も考慮されて、LADME、ADMET、またはLADMETと略されることもあります。

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1.薬物の吸収(Absorption)

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どんなに薬理効果の高い薬でも、その薬がまず体内に吸収されなければ作用することはできません。そのため、薬物動態の最初の過程として「吸収」はとても重要です。

経口投与(飲み薬)として口から薬を服用した場合、多くは小腸の小腸上皮細胞から吸収されます。しかし、すべての薬が100%吸収されるわけではありません。たとえば、薬物の溶解性、胃や腸の通過時間、強酸環境である胃での化学的安定性の影響、細胞への透過性など、さまざまな要因で吸収量は減少していきます。

さらに、薬剤によっては腸管を通過する際や、腸から吸収され最初に肝臓に届くと、「初回通過効果」と呼ばれる代謝を受け、全身の血液中に吸収される量は減少するのです。投与された薬物が、どれだけ全身をめぐる血中に到達し作用するかを「生物学的利用率(バイオアベイラビリティ)」と言います。

生物学的利用率と薬剤投与ルート

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薬剤の形状や投与ルートは、「生物学的利用効率」と「薬剤自体の物理的および化学的特性」が考慮されています。薬剤の投与ルートを決定するのに生物学的利用率は非常に重要です。口腔粘膜、目、鼻、皮膚、直腸、肺、注射といった非経口の薬物投与ルートであれば、初回通過効果を回避できるため生物学的利用効率は上昇します。このため薬は飲み薬以外にも、注射や吸入剤、座薬、点眼・点鼻薬などさまざまな種類が存在していますね。

また定義上では、静脈内投与(注射)の場合は直接循環血液中に投与するため、生物学的利用効率は100%になります。救急医療や集中治療医学において、薬物を静脈内に投与することが最も多いです。これは、急性症患者さんでは血流または腸の運動性の変化し予測不可能であることが多いため、生物学的利用効率が100%である静脈からの薬剤投与が最も信頼性の高いルートだと言われています。

2.薬剤の分布( Distribution)

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薬物の分布は、体内のある場所から別の場所への薬物の可逆的な移動と定義されています。体内に吸収された薬物は、次にそのエフェクター部位に運ばれなければなりません。 ほとんどの場合は、血流を介して全身に運ばれ、そこから各臓器や組織の間質液および細胞内液に分布していきますが、臓器や組織によって薬物を受け入れる量や残る時間は異なります。

薬物の分布は、血管透過性、局所血流、臓器組織の血液灌流、薬剤の血漿タンパク質との結合や脂質溶解度、pH などさまざまな影響を受けるのです。このため、肝臓、心臓、腎臓のような血液灌流の多い臓器では容易に分布しますが、抹消組織や筋肉・脂肪のような灌流の少ない組織、血液脳関門や胎盤などの血液と組織液との間の物質交換を制限する機構がある場合は分布は容易ではありません。

3.薬剤の代謝(Metabolism)

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病気を治すために摂取しているとはいえ、薬物は生体にとって異物であり、いつまでも体内で活性を持っていては困ります。水溶性の高い薬物は、尿や胆汁中へ排泄されますが、問題は脂溶性の高い薬剤です。脂溶性の高い薬剤は体内に蓄積しやすい上に、尿中や胆汁中に溶けないため、そのままでは排泄されません。そのため脂溶性の薬物の大部分は、肝臓に存在する解毒に関わる酵素によって代謝されるのです。

最も代表的な薬剤の代謝酵素は肝臓にある酸化還元酵素シトクロムP450(CYP450 )シトクロムP450は脂溶性の高い薬物を水酸化して水溶性の高い形に変換する役割を持っています。その後、一部の薬剤はさらにグルクロン酸や硫酸塩と抱合体を作り、更に水溶性が増大して排泄が容易にするのです。

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4.薬剤の排泄( Excretion)

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前述したように薬剤は生体にとって異物であり、たとえ薬剤活性を失っていても生体内から排泄しない限り、正常な代謝に悪影響を及ぼす恐れがあります。そのため、薬剤やその代謝物は尿中や便中を通して排泄を介して体内から完全に除去されなければなりません。

薬剤の排泄が起こる主な部位は3つあり、腎臓、肝臓、肺です。このうち腎臓は最も重要な部位であり、水溶性の薬剤は尿を通して排泄されます。このため腎機能の低下に伴って薬剤やその代謝の排泄は遅くなってしまします。また、肝臓のシトクロムP450は胆汁酸の生成にも関与しており、代謝された薬剤も胆汁中に入り、腸へと分泌されて便として排泄されるプロセスです。気体の薬剤(麻酔ガスなど)は肺からの呼気を介して行われます。

薬物動態学の基礎「ADME」

今回は薬剤動態学の基礎的で重要な指標である「ADME」について解説しました。

現在、世の中には有効な治療薬のない疾患が3万以上あるといわれていて、日々新しい薬剤の研究が進められています。しかし、創薬研究は基礎研究から承認まで、1つの薬剤を開発する期間は平均で10~20年です。さらに200億円以上の開発費が必要になるといわれています。そして、研究対象となった候補化合物のうちのほとんどは途中の段階で開発が断念されていて、新薬の開発成功率は約25,000分の1ともいわれ、創薬研究を成功させることは大変難しいことなのです。

イラスト使用元:いらすとや

" /> 「ADME」って何?薬物代謝に重要な指標?現役理系大学院生がわかりやすく解説! – Study-Z
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「ADME」って何?薬物代謝に重要な指標?現役理系大学院生がわかりやすく解説!

薬物動態とは、薬物を摂取してから排泄されるまで、生体内で起こっている動きを解明することで、ADME(アドメ)はその指標となるものです。ADME研究は創薬段階、臨床開発さらには市販後のあらゆる場面で最も重要な指標となる。
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国立大学院の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。

ADME(アドメ)とは

ADME(アドメ)とは

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薬を摂取すると「吸収」されて血液中に入り、体内に「分布」し、やがて「代謝」され、最終的に「排泄」されて体内からなくなります。このように「薬がどのように吸収されて、身体の中でどのような動きをして、どのくらいの時間で排泄されるのか」を理解することはとても重要です。これらを調べる学問を薬物動態学と呼びます。

ADME(アドメ)とは、薬物動態学の分野で生体において薬物がどのように働くのかを示す用語で、吸収Absorption)、分布Distribution)、代謝Metabolism)、排泄Excretion)の頭文字をとった略語です。場合によっては、薬物のコーティング剤や賦形剤からの解放(Liberation)および/または毒性( Toxicity )も考慮されて、LADME、ADMET、またはLADMETと略されることもあります。

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