この記事では「ノルマ」について解説する。

端的に言えばノルマの意味は「一定期間にこなすように課された仕事量」ですが、現代では意味が拡張しているようです。幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

博士(文学)で日本語研究家の船虫堂を呼んです。一緒に「ノルマ」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/船虫堂

博士(文学)。日頃から日本語と日本語教育に対して幅広く興味と探究心を持って生活している。生活の中で新しい言葉や発音を収集するのが趣味。

「ノルマ」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「ノルマ」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。「ノルマ」は現在では「割り当てられて達成するべき仕事の量や基準」という意味で特に営業や販売などのビジネスシーンで用いられることが多い語ではないでしょうか。

カタカナ表記であることからもわかるように「ノルマ」は外来語です。日本語の外来語は英語由来の語が多いですが、「ノルマ」は外来語としては比較的珍しいロシア語が由来の外来語で、シベリア抑留という歴史的事実がもたらしたという背景を持った語でもあります。

それでは、「ノルマ」の意味について、辞書を引いてみましょう。

「ノルマ」の意味は?

ニッコクこと『精選版 日本国語大辞典』によると、「ノルマ」には、次のような意味・由来があります。

ノルマ

〘名〙 (norma) 各個人や工場などに割り当てられた、一定時間内における労働・生産の最低基準量。第二次世界大戦のシベリア抑留者が、引き揚げてきて伝えた語。
※赤帯の話(1949)〈梅崎春生〉「ノルマはあるにはあったが、〈略〉是が非でもやりとげさせられるという程ではなかった」

最近ノルマと言うと、2つの意味で使われているように思います。すなわち、仕事上、設定された目標であることには変わりがないのですが、(1)最低限、満たさなければならない基準や量と、(2)達成できなくてもよいが、最低限の目標として設定された基準や量です。

辞書の説明によると、「ノルマ」の本来的な意味は(1)のここまでは達成しなければならない基準ということになります。印象としてはよりシビアなものになりますね。

「ノルマ」の語源は?

次に「ノルマ」の語源を確認しておきましょう。ノルマとは、先ほどご紹介した通りロシア語由来の外来語です。語源であるロシア語の単語"норма"には、「割り当て」とか、「標準」、「水準」といった意味があります(『Yakuru和露・露和オンライン辞書』より)。

先ほど紹介した『精選版 日本国語大辞典』の語義では「標準」・「水準」のニュアンスが反映されているといえるでしょう。『デジタル大辞泉』(小学館)には同じような「果たすべき」作業量という語義に続き「各人に課せられる仕事などの量」という語義が載っています。こちらは「割り当て」のニュアンスが現れているといえるでしょう。

これが、シベリア抑留から帰還した日本人によって持ち込まれ、次第に社会に浸透していったと言う歴史があるわけです。ところで、「シベリア抑留者」とはどの時代のどのような人のことを指すのでしょうか。言葉が入ってきた時代を把握するためにも、以下に「シベリア抑留」についての朝日新聞のキーワード解説を引用します。

\次のページで「「ノルマ」の使い方・例文」を解説!/

シベリア抑留

第2次大戦末期の1945年8月、ソ連軍は旧満州(中国東北部)などへ侵攻。日本兵らを捕虜としてシベリアやモンゴルへ連行し、強制労働に従事させた。抑留者の総数は約60万人で、最長11年とされる。鉄道建設や森林伐採などの重労働と食糧不足、厳しい寒さで10分の1が死亡したという。

出典: 朝日新聞2020.9.27朝刊「キーワード」

「ノルマ」の使い方・例文

続いて「ノルマ」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.営業部は毎月ノルマがきつくて大変だ
2.1日30分のジョギングをノルマにしている
3.(動画配信で)ノルマ達成!

例文1が、もっとも一般的な「ノルマ」の使い方でしょう。最低限達成すべき目標ということで、特にものを買ってもらったり契約を取り付けるお仕事の方は「ノルマ」が課されている方も多いのではないでしょうか。ただし、ノルマを課して社員のモチベーションを保つという方法は昨今時代錯誤なマネジメントとも言われており、過剰なノルマが課される職場は、パワハラだと言われるようになってきているようです。

2の用法は、自分で自分に、達成すべき目標を課しているという場面で用いられます。努力が必要な、日々のルーティンが対象になることが多いです。自己目標なのでそれほどの強制力はありません。

3の用法は、ネットスラングで、動画配信やライブ配信などで使われます。「お約束」、つまり定番の決まりきった言動や、動画ならシーンが入ると、視聴者から「ノルマ達成」というコメントが入るという文化があるようです。

いずれの用例も、果たすべき行動という意味では共通しています。

「ノルマ」の類義語は?違いは?

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「ノルマ」の類義語として、英語由来の外来語である「クオータ(クォータ)」という語を紹介します。

\次のページで「「クオータ(クォータ)」」を解説!/

「クオータ(クォータ)」

「クオータ」もしくはクォータは、英単語"quota"が由来の外来語です。英語の"quota"には「分担」とか「割り当て」という意味があります、日本語でいう「ノルマ」に相当する文が作れます(achieve one's quota「ノルマを達成する」)。

日本語でもビジネス用語で用いられるのですが、達成するべき仕事量としては「ノルマ」という語がすでにあるので、「クオータ」は事業に割り当てられた予算という意味合いで用いられることが多いようです。ちなみに多くの場合その予算は必ず執行されなければならないというニュアンスを含みます。

「ノルマ」の対義語は?

厳密な意味での「ノルマ」の対義語は管見の限り見当たりません。しかし、「ノルマ」を働き方における必達の目標として考えたときに、広義の対義語として浮上してくるのが出来高払いの働き方である「歩合制」です。

「歩合」

「歩合」のもともとの意味は「割合」ですが、ビジネスにおける出来高に応じた報酬という意味も持っています。「ノルマ」がある働き方とは一定の売り上げや契約数が設定されていて、それを達成するというものですが、「歩合制」の働き方とは、売り上げや契約数に応じて報酬(インセンティブ)がもらえるという働き方です。もちろん、2つの働き方を組み合わせて一定のノルマを達成した後はインセンティブが入るという働き方もあります。

「ノルマ」を使いこなそう

この記事では「ノルマ」の意味・使い方・類語などを説明しました。ロシア語由来の「強制労働」を課された人たちが持ち込んだ言葉ということで、達成すべき最低限の仕事という本来厳しいニュアンスのある語でしたが、現代では「達成」という点は継承されながらネットの世界では「定番の行動」という意味で使われるなど意味が拡張しています。

社会の変化によって「最低ライン」の強制という考え方が否定的にとらえられるなかで、「ノルマ」という考え方、そして言葉の意味も微妙に変化していくことでしょう。注視していくべき言葉の1つといえます。

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国語言葉の意味

「ノルマ」の意味や使い方は?例文や類語を日本語研究家がわかりやすく解説!

この記事では「ノルマ」について解説する。

端的に言えばノルマの意味は「一定期間にこなすように課された仕事量」ですが、現代では意味が拡張しているようです。幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

博士(文学)で日本語研究家の船虫堂を呼んです。一緒に「ノルマ」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/船虫堂

博士(文学)。日頃から日本語と日本語教育に対して幅広く興味と探究心を持って生活している。生活の中で新しい言葉や発音を収集するのが趣味。

「ノルマ」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「ノルマ」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。「ノルマ」は現在では「割り当てられて達成するべき仕事の量や基準」という意味で特に営業や販売などのビジネスシーンで用いられることが多い語ではないでしょうか。

カタカナ表記であることからもわかるように「ノルマ」は外来語です。日本語の外来語は英語由来の語が多いですが、「ノルマ」は外来語としては比較的珍しいロシア語が由来の外来語で、シベリア抑留という歴史的事実がもたらしたという背景を持った語でもあります。

それでは、「ノルマ」の意味について、辞書を引いてみましょう。

「ノルマ」の意味は?

ニッコクこと『精選版 日本国語大辞典』によると、「ノルマ」には、次のような意味・由来があります。

ノルマ

〘名〙 (norma) 各個人や工場などに割り当てられた、一定時間内における労働・生産の最低基準量。第二次世界大戦のシベリア抑留者が、引き揚げてきて伝えた語。
※赤帯の話(1949)〈梅崎春生〉「ノルマはあるにはあったが、〈略〉是が非でもやりとげさせられるという程ではなかった」

最近ノルマと言うと、2つの意味で使われているように思います。すなわち、仕事上、設定された目標であることには変わりがないのですが、(1)最低限、満たさなければならない基準や量と、(2)達成できなくてもよいが、最低限の目標として設定された基準や量です。

辞書の説明によると、「ノルマ」の本来的な意味は(1)のここまでは達成しなければならない基準ということになります。印象としてはよりシビアなものになりますね。

「ノルマ」の語源は?

次に「ノルマ」の語源を確認しておきましょう。ノルマとは、先ほどご紹介した通りロシア語由来の外来語です。語源であるロシア語の単語”норма“には、「割り当て」とか、「標準」、「水準」といった意味があります(『Yakuru和露・露和オンライン辞書』より)。

先ほど紹介した『精選版 日本国語大辞典』の語義では「標準」・「水準」のニュアンスが反映されているといえるでしょう。『デジタル大辞泉』(小学館)には同じような「果たすべき」作業量という語義に続き「各人に課せられる仕事などの量」という語義が載っています。こちらは「割り当て」のニュアンスが現れているといえるでしょう。

これが、シベリア抑留から帰還した日本人によって持ち込まれ、次第に社会に浸透していったと言う歴史があるわけです。ところで、「シベリア抑留者」とはどの時代のどのような人のことを指すのでしょうか。言葉が入ってきた時代を把握するためにも、以下に「シベリア抑留」についての朝日新聞のキーワード解説を引用します。

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