今回は植生に関する用語の一つである「先駆種」について勉強していこう。

高校生は、この用語を生物の”植生”や”生態系”について学習するときに耳にするはずです。意味自体は比較的わかりやすい言葉ですが、具体的な例を挙げよといわれると、回答できないやつが多い。代表的な植物の名前くらいは抑えておきたいところです。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

先駆種とは

先駆種(せんくしゅ)とは、植生が遷移する過程のうち、初期の段階でみられる植物種のことを指す言葉です。先駆植物と記載されることもあるほか、パイオニア種やパイオニア植物といわれることもあります。

具体的な先駆種について紹介する前に、まずは植生や遷移といった用語を学んでおきましょう。

植生

まず、植生とはある場所に生育している植物をすべてまとめてさす言葉です。たとえば、「皆さんの家の近くの山にはどんな植生がみられますか?」と聞かれれば、その山に生えている植物の名前を片っ端からあげていくことになります。

\次のページで「遷移」を解説!/

どんな植生がみられるかは、場所によって大きく異なります。

一つの山の植生であっても、日のあたりやすい斜面と日陰になりやすい斜面では、異なる植生がみられますね。また、山の植生と河原にみられる植生、草原にみられる植生はまるで違うものになりますし、国や地域が違えばやはり異なる植物種からなる植生が確認できるでしょう。

また、植生には自然に成立しているものもあれば、人工的につくられたものもあります。民家の庭の植生、畑や田んぼの植生…オフィス街にみられる花壇や街路樹だって、植生のうちにふくまれるのです。

遷移

上記のような植生は、基本的にずっと同じということはありません。自然界であれば、時間とともに少しずつ移り変わっていくのが一般的です。そのような、植生が変化していく現象遷移とよんでいます。

image by Study-Z編集部

遷移は、その過程によって大きく一次遷移二次遷移の2種類に分けることができます。

一次遷移は土壌が形成されておらず、それまで生育していた植物の種子や根などがのこっていない状態から始まる遷移です。火山の噴火などで新しくできた島や、大規模な土砂崩れによって岩石が広がった土地などでみられます。

一方、すでに土壌ができており、以前に生えていた植物の種子や根などがのこっている環境で始まる遷移を二次遷移といいます。人間が手を加えて更地にした土地や、山火事のあと、洪水のあとなどでみられる遷移です。

二次遷移では、地中に残っていた種子が発芽したり、根から新しい茎が伸びたりと、以前に生育していた植物がすぐに成長できます。また、土壌ができているため、周囲の環境から他の植物が侵入しやすい状態でもあるのです。

image by iStockphoto

反対に、一次遷移では、風や鳥が種子を運んできてくれるのを待たなくてはなりません。二次遷移と違い土壌も形成されていないため、水の保持力が弱く、それが一層植物の定着を難しくします。

また、有機物の量が少ないために、ミミズのような分解者となる生物の生育もままならないため、土壌がなかなか出来上がらないのです。

しかしながら、そんな環境でも、時間をかけて少しずつ植物が定着します。

さて、今回のテーマは「先駆種」でしたね。先駆種は、一次遷移や二次遷移の初期にみられる植物です。つまり、一次遷移のときのように土壌や水も少ないような厳しい環境でも生育できる植物や、二次遷移が始まる状況になったとき、真っ先に芽を出して成長できるような植物が、先駆種となることができます。

\次のページで「先駆種の例」を解説!/

先駆種の例

コケ類

一次遷移の初期に見られる先駆種の代表が、コケのなかまです。土壌中に水分が少なくても、空気中の水分やわずかな雨などがあれば生育ができます。

また、乾燥しても休眠状態となり、水分が得られたときに再び活動を始められるものも少なくありません。

さらに、コケ類は胞子で繁殖します。重たい種子によって子孫を残すような植物であれば、重力に逆らえずその場に落下してしまいますが、胞子は軽く、風にのって分布範囲を広げることができるのです。

地衣類

image by iStockphoto

地衣類も、一次遷移の初期に侵入できる生物です。一見、コケのなかまのようにも見えますが、これは菌類に藻類が共生することで成り立っています。

コケ類同様、乾燥や寒さに強いものが多く、養分が少ない土地でも生育できるため、抗原のような厳しい環境でも生育が可能です。

イタドリ

草本類のなかでもよく先駆植物の例として挙げられるのがイタドリという植物です。雑草の生い茂る空き地や土手、山間などあらゆるところで育つことができる、生命力の強さをもちます。

撹乱された土地で真っ先に成長する植物です。また、火山礫がごろごろしているような土地でも生育できるため、よく先駆種に分類されます。

image by iStockphoto

イタドリが先駆種となりえる第1の理由は、その旺盛な繁殖力・成長力。短期間にあっという間に茎をのばし、競合相手のいない土地でのびのびと光合成します。地下茎もどんどん伸ばして、水分の少ない土地でも水を確保するのです。

また、種が軽いことも要因の一つとしてあげられます。翼のような構造をもつ種は、風に乗って広い範囲に散布されるため、分布を広げやすいのです。

\次のページで「ススキ」を解説!/

ススキ

日本では昔からなじみ深いススキも、よく先駆種の例として挙げられます。河原や土手など、日当たりの良いところに群生しているのをよく目にしますね。

イタドリやススキは多年生の植物です。地上部が枯れても地中には根や地下茎がのこり、それが春に再び成長します。遷移のなかで多年生植物が植生に現れる前には、ヒメジョオンなどの一年生植物がみられることも多いです。

メヒシバ

ヒトの手が入った植生でよくみられる先駆種もご紹介しておきましょう。

メヒシバは、畑地・農場などのほか、あらゆるところで見られるイネ科の植物です。こちらも生命力が強く、農家にとっては「どうやって除草(防除)するか」という話題の方が身近かもしれません。放っておくとどんどん地面を被覆していきます。

オオアレチノギク

オオアレチノギクは、南アメリカ大陸が原産の外来種です。昭和の初めごろに日本に入り、現在ではどこでも見ることができる植物になっています。

これも生命力が強く、農地でも荒れた土地でも、あっという間に成長し数を増やす植物です。

ヤシャブシ

先駆種として紹介されることの多い樹木も覚えておきましょう。

ヤシャブシはカバノキ科の落葉樹であり、山地で始まる二次遷移の初期によくみられる樹木です。種子は発芽の際、日光を必要とするため、日陰のなくなった二次遷移の始まりはヤシャブシにとって分布を広げる最大のチャンスになります。

ヤシャブシ
Akiyoshi's Room - Akiyoshi's Room, パブリック・ドメイン, リンクによる

ヤシャブシが先駆種となりうる理由は、それだけではありません。根にみられる「根粒(こんりゅう)」という構造物が大きな役割を果たしているんです。

根粒には、根粒菌と総称される菌類が存在します。これは、空気中の窒素を取り込む(窒素固定)はたらきができる細菌です。一般的に、植物は栄養として窒素を地中から取り込まなくてはいけませんが、根粒菌が共生している植物では空気中から窒素を得ることができるため、貧栄養な土壌でも生育が可能になります。

先駆種から始まった遷移は…

先駆種の定着によって始まる遷移は、その土地で最も安定的に、長期間生育できる植物からなる植生に近づいていきます。それ以上大きな遷移がみられなくなる状態を極相といい、極相で多く見られる植物を極相種というのですが…これはまた別の記事でご紹介しましょう。

いま私たちが確認できる自然のさまざまな植生も、初めは先駆種から始まった遷移の結果だといえます。たくましく育つ先駆種たちに感謝したくなりますね。

イラスト使用元:いらすとや

" /> 3分で簡単「先駆種」!代表的な植物の名前も覚えよう!現役講師がわかりやすく解説します – Study-Z
理科生態系生物

3分で簡単「先駆種」!代表的な植物の名前も覚えよう!現役講師がわかりやすく解説します

今回は植生に関する用語の一つである「先駆種」について勉強していこう。

高校生は、この用語を生物の”植生”や”生態系”について学習するときに耳にするはずです。意味自体は比較的わかりやすい言葉ですが、具体的な例を挙げよといわれると、回答できないやつが多い。代表的な植物の名前くらいは抑えておきたいところです。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

先駆種とは

先駆種(せんくしゅ)とは、植生が遷移する過程のうち、初期の段階でみられる植物種のことを指す言葉です。先駆植物と記載されることもあるほか、パイオニア種やパイオニア植物といわれることもあります。

具体的な先駆種について紹介する前に、まずは植生や遷移といった用語を学んでおきましょう。

植生

まず、植生とはある場所に生育している植物をすべてまとめてさす言葉です。たとえば、「皆さんの家の近くの山にはどんな植生がみられますか?」と聞かれれば、その山に生えている植物の名前を片っ端からあげていくことになります。

\次のページで「遷移」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: