この記事では 「偲ぶ」について解説する。

端的に言えば、偲ぶの意味は「過去のことや遠くに離れている人を思い慕う」ことです。「偲ぶ」というと亡くなった人を偲ぶ会が連想されるが、偲ぶ相手は故人とは限らないし、人間とも限らない。また、過去のことや遠く離れた人を懐かしむ以外の意味もあるんです。

日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。一緒に「偲ぶ」の意味や例文、類義語などを見ていきます。

ライター/ユーリ

日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。時代によって変化する言葉の面白さ、奥深さをやさしく解説する。

「偲ぶ」の意味・語源・例文など

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葬儀は身内だけの家族葬にして、後日知人を招いて偲ぶ会を営むケースが増えています。偲ぶ会は、故人とのお別れの会のこと。しかし「偲ぶ」という言葉には、もっと幅広い意味があるんですよ。

対象は故人だけじゃない!「偲ぶ」の意味

まずは辞典で「偲ぶ」の意味を見てみましょう。

1 過ぎ去った物事や遠く離れている人・所などを懐かしい気持ちで思い出す。懐しむ。
2 心引かれて、思いをめぐらす。慕わしく思う。
3 物の美しさに感心し味わう。賞美する。

出典:小学館デジタル大辞泉「偲ぶ」

「偲ぶ」は、「亡くなった人のことを想う」という意味合いで使われることが多いですが、実は引用の1のように、故人だけでなく、「遠く離れている人や、過去の出来事を懐かしんで思い出す」という意味なのです。

また、2のように「心引かれて思いをめぐらす」「慕わしく思う」という意味もあります。「お人柄が偲ばれる」という使い方なら聞いたことがあるのではないでしょうか。さらに、3のように「物の美しさに感心し味わう」「賞美する」という意味合いもありますよ。

「偲ぶ」の語源

「偲ぶ」は上代日本語(奈良時代頃まで使われていた古語)では「しのふ」でしたが、平安時代に「忍ぶ」と混同されて「しのぶ」となりました。「偲」訓読みでは「しの(ぶ)」ですが、音読みでは「し」「さい」と読みます。「偲」には、「懐かしく思う」「思い慕う」の意味のほかに「賢い」「才能がある」「強い」「互いに励ます」などの意味もありますよ。

\次のページで「「偲ぶ」の例文」を解説!/

「偲ぶ」の例文

つぎに「偲ぶ」の例文を見てみましょう。

1.サービス内容の充実をはかって顧客満足度ランキング一位の原動力となった彼が急逝した。偲ぶ会には多くの会社関係者が訪れて、故人を偲んでいた。
2.決して贅沢ではないが、隅々まで掃除が行き届いた部屋や、使い込んだ道具などから、日々の丁寧な暮らしを大切にする彼女の人柄が偲ばれた。
3.医療機器や薬が乏しい時代に疫病と戦った医者たちの苦労を偲ぶ。

最初の例文は「故人を偲ぶ」という一番良く使われる意味合いです。2番目の例文は、「慕わしく思う」という意味。この場合は「偲ばれる」という形で使われることが多いですね。3番目の例文は、「感心し賞賛する」意味で「偲ぶ」を使っています。「故人を偲ぶ」というイメージが強い言葉ですが、例文にしてみるとそれ以外の意味でも使っていることがわかりますね。

「偲ぶ」と「忍ぶ」は同音異字

両方とも「しのぶ」と読みますが、どのように違うのでしょうか。「忍ぶ」は「こらえる」「耐える」という意味と「人に気づかれないようにする」「隠れる」という意味があります。「偲ぶ」とはずいぶん意味が違うことがわかりますね。このように読みは同じでも漢字が異なる言葉同訓異字(どうくんいじ)といいます。

「偲ぶ」の類義語

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つぎに「偲ぶ」の類義語を見てみましょう。

\次のページで「「追憶」「追想」「追懐」:過去を思い出して懐かしむ」を解説!/

「追憶」「追想」「追懐」:過去を思い出して懐かしむ

「追憶」「過去に思いをはせる」「昔のことや故人のことを懐かしく思い出す」などの意味。「追憶にふける」のように使います。「追想」や「追懐」(ついかい)も同じような意味です。

「回想」「回顧」:過去を思い起こす

「回想」「過ぎ去ったことをいろいろ思い出す」こと。「子どもの頃を回想する」というように使いますよ。「回顧」「過去を思い起こす」という意味です。「回顧録」は過去の思い出などをまとめたもの。また「回顧展」は特定の作家の生涯の作品や活動を紹介する展覧会のことです。

「懐旧」「懐古」:昔を懐かしく思い出す

「懐旧」昔のことを懐かしく思い出すという意味。また「懐古」昔のことを懐かしく思うこと。「懐古趣味」は古い物を愛好する趣味。レトロとはレトロスペクティブの略語で、「懐古趣味」という意味なんですよ。

「悼む」と「偲ぶ」はどう違う?

「悼む」(いたむ)「人の死を悲しんで嘆く」こと。語源は「痛む」と同じです。人の死が悲しくて心が痛むということなのでしょう。「偲ぶ」は亡くなった人だけでなく、生きている人や過去の出来事などについても使う言葉ですが、「悼む」は死や故人に限定して使う言葉です。そこが「悼む」と「偲ぶ」の違いですね。

「偲ぶ」の英訳は?

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次に「偲ぶ」の英訳を見てみましょう。

\次のページで「「remember」」を解説!/

「remember」

「re」は接頭辞で「繰り返し、再び」を表します。「member」はラテン語の「memor」(心に留める)が語源なので、remember」は「心に留めていたことを再び思う」ということになり、「思い出す」という意味になりました。

「I remember my father when I see this.」は「これを見ると父を思い出す」という意味です。英和辞典を見てみると、接頭辞「re」から始まる英単語が非常に多いことがわかりますよ。

「recall」「recollect」

「recallは接頭辞「re」(後ろへ)と「call」(叫ぶ)で、「思い出す」「呼び戻す」「取り戻す」「取り消す」「撤回する」という意味があります。「recall the old days」は「昔を思い出す」という意味です。製品に欠陥があって回収したり無償で修理するリコールもこれが語源ですよ。

recollect「思い出す」「回想する」という意味。「recollect one’s childhood days」は「子供の頃を回想する」という意味です。

「偲ぶ」の意味を理解して幅広く使いこなそう!

この記事では、 「偲ぶ」について意味、使い方、類義語から英訳などを説明しました。

「偲ぶ」「遠く離れている人や、過去の出来事を懐かしんで思い出す」という意味です。他にも「心引かれて思いをめぐらす」「慕わしく思う」という意味や、「物の美しさに感心し味わう」「賞美する」という意味もありますよ。

「偲ぶ」というキーワードで検索すると、故人を偲ぶ会のことが上位に並びます。しかし、偲ぶ対象は故人だけではありません。物事や生きている人も対象にする「偲ぶ」の意味を理解して、「偲ぶ」を幅広く使いこなしてくださいね。

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国語言葉の意味

「忍ぶ」「悼む」とどう違う?「偲ぶ」の意味・例文・類義語などを日本放送作家協会会員がわかりやすく解説

この記事では 「偲ぶ」について解説する。

端的に言えば、偲ぶの意味は「過去のことや遠くに離れている人を思い慕う」ことです。「偲ぶ」というと亡くなった人を偲ぶ会が連想されるが、偲ぶ相手は故人とは限らないし、人間とも限らない。また、過去のことや遠く離れた人を懐かしむ以外の意味もあるんです。

日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。一緒に「偲ぶ」の意味や例文、類義語などを見ていきます。

ライター/ユーリ

日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。時代によって変化する言葉の面白さ、奥深さをやさしく解説する。

「偲ぶ」の意味・語源・例文など

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葬儀は身内だけの家族葬にして、後日知人を招いて偲ぶ会を営むケースが増えています。偲ぶ会は、故人とのお別れの会のこと。しかし「偲ぶ」という言葉には、もっと幅広い意味があるんですよ。

対象は故人だけじゃない!「偲ぶ」の意味

まずは辞典で「偲ぶ」の意味を見てみましょう。

1 過ぎ去った物事や遠く離れている人・所などを懐かしい気持ちで思い出す。懐しむ。
2 心引かれて、思いをめぐらす。慕わしく思う。
3 物の美しさに感心し味わう。賞美する。

出典:小学館デジタル大辞泉「偲ぶ」

「偲ぶ」は、「亡くなった人のことを想う」という意味合いで使われることが多いですが、実は引用の1のように、故人だけでなく、「遠く離れている人や、過去の出来事を懐かしんで思い出す」という意味なのです。

また、2のように「心引かれて思いをめぐらす」「慕わしく思う」という意味もあります。「お人柄が偲ばれる」という使い方なら聞いたことがあるのではないでしょうか。さらに、3のように「物の美しさに感心し味わう」「賞美する」という意味合いもありますよ。

「偲ぶ」の語源

「偲ぶ」は上代日本語(奈良時代頃まで使われていた古語)では「しのふ」でしたが、平安時代に「忍ぶ」と混同されて「しのぶ」となりました。「偲」訓読みでは「しの(ぶ)」ですが、音読みでは「し」「さい」と読みます。「偲」には、「懐かしく思う」「思い慕う」の意味のほかに「賢い」「才能がある」「強い」「互いに励ます」などの意味もありますよ。

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