今回は「細胞質と細胞質基質」をテーマに勉強していこう。
細胞の構造は理科や生物の時間に学ぶため、細胞質は知っている人も多いと思う。しかし、細胞質と細胞質基質の違いを正しく理解して説明できる人は少ないように感じる。
細胞生物学の基礎となる重要な分野なので、生物に詳しい現役理系大学院生ライターCaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立大学院の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。

細胞質とは

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細胞質(cytoplasm)は細胞膜で囲まれた原形質のうち、細胞核以外の細胞内のすべての部分を指します。細胞質の主な成分3つ。細胞質基質、細胞内小器官、封入体(栄養素、分泌物、顆粒など様々な分子)です。まず前半に細胞内小器官と封入体について解説した後に、細胞質基質はメインテーマのひとつなので後半で詳しく解説します。

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細胞内小器官

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Jeremy Simpson and Rainer Pepperkok - http://gfp-cdna.embl.de/, CC 表示-継承 2.5, リンクによる

細胞内小器官とは細胞質内に存在する特定の機能を有する構造の総称です。ラテン語名であるオルガネラとも呼ばれます。原核細胞のもつ細胞内小器官はリボソームだけですが、真核細胞では細胞内小器官がよく発達していることが特徴です。

真核細胞のうち、動物細胞と植物細胞でも細胞内小器官は異なり、それぞれに共通している細胞内小器官はミトコンドリア、滑面小胞体、粗面小胞体、ゴルジ体、リソソーム、リボソームなど。動物細胞のみに存在するものは中心体、植物細胞だけに存在するものは液胞、葉緑体です。

封入体

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封入体とは、細胞質基質に懸濁した不溶性物質の小さな粒子やその集合体で、細胞内含有物ともいいます。封入体の種類は生物種や細胞の種類ごとに大きく異なることが特徴です。

植物のデンプン、動物のグリコーゲンなどのエネルギー貯蔵物質。脂肪細胞が分泌する脂肪酸やステロールなどの脂質の保存のために使われる油滴などの分泌物。皮膚および毛髪の特定の細胞における色素顆粒。植物に見られるシュウ酸カルシウムや二酸化ケイ素の結晶などの様々なタイプの物質が含まれています。

細胞質基質とは

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細胞質基質(cytosol)は細胞質のうち細胞内小器官、封入体以外の部分です。細胞質ゾル、細胞内液(ICF:IntraCellular Fluid)または細胞質マトリックスとも呼ばれます。

原核生物では細胞の大部分、動物細胞では細胞質基質は細胞容積の約70%を占めています(植物細胞は液胞が大部分を占める)。細胞質基質の成分は主に水(細胞内液)で、細胞内液のpHは7.4です。その他、細胞骨格(タンパク質繊維)、イオン、アミノ酸、脂肪酸などの各種有機酸、グルコース、核酸塩基、タンパク質(酵素)から構成されています。

細胞質基質はさまざまな代謝や細胞分裂など細胞の活動が起こるメイン舞台です。各種イオンにより浸透圧や膜電位を制御して細胞の恒常性を維持しているほか、制御細胞骨格の働きにより細胞質基質は原形質流動を起こし、細胞内の各種物質の移動細胞内シグナル伝達細胞内小器官の配置をしています。

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細胞内液のイオンの維持

細胞内液のイオンの維持

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細胞質基質中のイオン濃度の管理は恒常性を維持するために非常に重要です。細胞質基質中(細胞内液)のイオンの濃度は細胞外液の中のものとは全く異なり、細胞内液に多く含まれるのはカリウムイオン(K+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、リン酸水素イオン(HPO42-)。細胞外液はナトリウムイオン(Na+)、クロールイオン(Cl–)、重炭酸イオン(HCO3–)が多いです。

細胞内外のイオン濃度差は細胞の浸透圧の調節に重要で、細胞はエネルギーを使って細胞外へナトリウムイオンを汲み出し、代わりにカリウムイオンを取り込んでいます。このイオンを細胞内外へ移動させる際に生じる電気的な差を利用して神経伝達、筋収縮、心臓の心筋の収縮させたり、他の物質の輸送に必要なエネルギーを供給する役割持っています(二次性能動輸送)。他にも、細胞内のシグナル伝達のメッセンジャーとして機能したり、酵素の働きを助ける作用も持ちます。

細胞質基質で行われる代謝

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細胞質基質は原核生物の中で最大の代謝の部位であり、真核生物でも代謝の大部分を占めています。例えば、哺乳類では、細胞内のタンパク質の約半分が細胞質基質に局在しており、糖代謝(解糖系、ペントースリン酸経路、糖新生)脂肪酸代謝(β酸化、脂肪酸合成)、アミノ酸の合成と代謝、タンパク質合成、ヌクレオチド合成など実に多種多様な代謝が行われているのです。

細胞質基質は全ての生物や細胞が共通して持っていますが、代謝経路の局在は生物種や細胞よって異なります。例えば糖新生(グルコース以外の物質からグルコースを作る代謝)を行うことができるのは、肝臓や腎臓の細胞の細胞質基質だけです(メインは肝臓)。理由は代謝経路に必要なグルコース-6-ホスファターゼという酵素が肝臓と腎臓にしか存在しないためです。他にも植物での脂肪酸合成は植物葉緑体で起こります。

代謝は化学反応が連続するためか、苦手意識を持つひとが多い分野ですが、とても重要なので確認してみてください。

細胞学の基本「細胞質と細胞質基質」

今回は「細胞質と細胞質基質」をテーマに解説しました。細胞生物学の分野ではすべての生物は細胞と細胞の作ったものからできていると定義れています。細胞質と細胞質基質は原核細胞も真核生細胞も持っている最も基本的な細胞の構造であり、細胞生物学の基礎の部分です。教科書や一般書では細胞質と細胞質基質について混合される場合も多いため、この機会にしっかりと確認し日々の学習に役立ててくださいね。

「細胞質と細胞質基質」は基礎ではあるものの、生物種や細胞間でも細胞質、細胞質基質の成分や行われる代謝も異なるため、実はまだまだ解明されていない部分も多く、今後の研究が楽しみな分野でもあります。

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理科生物細胞・生殖・遺伝

3分で簡単「細胞質と細胞質基質」細胞生物学の基礎知識を現役理系大学院生がわかりやすく解説!

今回は「細胞質と細胞質基質」をテーマに勉強していこう。
細胞の構造は理科や生物の時間に学ぶため、細胞質は知っている人も多いと思う。しかし、細胞質と細胞質基質の違いを正しく理解して説明できる人は少ないように感じる。
細胞生物学の基礎となる重要な分野なので、生物に詳しい現役理系大学院生ライターCaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立大学院の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。

細胞質とは

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細胞質(cytoplasm)は細胞膜で囲まれた原形質のうち、細胞核以外の細胞内のすべての部分を指します。細胞質の主な成分3つ。細胞質基質、細胞内小器官、封入体(栄養素、分泌物、顆粒など様々な分子)です。まず前半に細胞内小器官と封入体について解説した後に、細胞質基質はメインテーマのひとつなので後半で詳しく解説します。

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