この記事では「モラトリアム」について解説する。

端的に言えば「モラトリアム」の意味は「猶予期間」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

教師や講師としても教えることに関わってきた「やぎしち」を呼んです。一緒に「モラトリアム」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/やぎしち

雑学からビジネス文章まで手掛ける現役ライター。国語の中学・高校教諭の資格も持ち、予備校講師の経験も。言葉を大切にした文章を心掛けている。

「モラトリアム」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「モラトリアム」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「モラトリアム」の意味は?

「モラトリアム」には、次のような意味があります。

1 支払猶予。法令により、金銭債務の支払いを一定期間猶予させること。戦争・天災・恐慌などの非常事態に際して信用制度の崩壊を防ぎ、経済的混乱を避ける目的で行われる。
2 製造・使用・実施などの一時停止。多く、核実験や原子力発電所設置などにいう。
3 肉体的には成人しているが、社会的義務や責任を課せられない猶予の期間。また、そこにとどまっている心理状態。→モラトリアム人間

出典:デジタル大辞泉(小学館)「モラトリアム」

これは「猶予・一時停止期間」といった意味を持つ言葉です。引用の通り、使われる場面によってニュアンスが変化します。

引用を上から、どのような問題で使われやすいのか考えてみると「1=金融に関する歴史・社会系」、「2=原子力やエネルギーに関する時事」、「3=心理学や文学など人文系」でしょうか。どれも頻出のため、しっかり押さえてくださいね。

現代では、若者に対して3の意味で使われるのをよく耳にすると思います。特に学生を「社会に出て働く前の存在・その期間」とするのですが、「責任・義務の先延ばし」という、あまり良い感じを受けない言葉になることも。「無気力」や「ゆとり」などを連想するからかもしれませんね。

他の単語を付けて「~モラトリアム」「モラトリアム~」といった使われ方もありますが、そうした場合も否定的な意味合いで使われていないか注意してみましょう。

「モラトリアム」の語源は?

これは英語の「moratry=支払い延期の」という言葉から使われるようになった言葉と考えられています。金融や政治社会用語として使われるのが納得できるでしょう。

若者に対して使う用法は、20世紀にアメリカの精神分析医エリクソンが提唱したことが始まりと言われています。その本来の意味も「若者が自己を確立するための期間」というニュアンスで用いられており、現在のような「先延ばし・責任回避」という意味はありませんでした

なぜ現代にかけて使われ方が徐々に変わってきたのか、想像したり調べてみたりするのも勉強になるでしょう。

\次のページで「「モラトリアム」の使い方・例文」を解説!/

「モラトリアム」の使い方・例文

「モラトリアム」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

・過去には金融モラトリアムによって、銀行から自由にお金がおろせないことがあったなんて、現代の僕たちからしてみると想像もできない。

・大きな災害があって今のところはモラトリアム中の発電所も多いが、将来の平和のため、それをどうするかは我々の判断にゆだねられていると言えるだろう。

・遊び惚けていて単位を落とし、留年が決まった彼は、もう少しモラトリアム期間を楽しむさと言っていたが、実際は内心で相当焦っていることが感じられた。

猶予期間・中断している状態」というニュアンスが伝わりますでしょうか。専門用語として使われることも多い言葉ですが、「何がストップしているのか」に注目すれば意味を捉えやすいでしょう。

正当な理由があっての「中断」であることが多い一方で、意味の項でも記載したように「責任逃れ、先延ばし」といった批判的な意味を伴うことも多くあります。ただそれは「モラトリアム」自体に悪い意味があるのではなく、その言葉を使っている人の気持ちが表れているだけのことも。

どういうことかと言うと、たとえば「若者のモラトリアム」と年上・目上の人が言った場合には、「もっと責任感を持ってほしい」とか「自分はもっとマシだった」など、若者に対する非難の気持ちが含まれていることが想像できるはずです。

このように、話者の複雑な心情の表れであることもあるため、読み取りの際には十分に注意するようにしてください。

「モラトリアム」の類義語は?違いは?

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「モラトリアム」の類義語は「その場しのぎ」「場当たり的」などが考えられます。

「その場しのぎ」「場当たり的」

「その場しのぎ」も「場当たり的」も、「その場、その一瞬を取りつくろう為の一時的な対応」を意味する言葉です。「その瞬間のことしか考えていない=先のことを真剣に考えていない先延ばし」というニュアンスが強調され、批判的に使われることも多くあります。

「モラトリアム」が本来持っていた「支払いの延期」という意味は含まれていない点で違いがありますが、「大切なことを先送りにしている」という意味合いで同義語と考えることができるでしょう。

\次のページで「「モラトリアム」の対義語は?」を解説!/

・これまでトラブルが起こった時にはその場しのぎの対応で何とかしてきたけれど、社会に出てからはそうもいかず、こんなところで大人になったことを感じてしまう。

・場当たり的な準備しかできなかった発表会は散々な結果になってしまい、自分の力不足と共に見通しが甘かったことを思い知らされた。

「モラトリアム」の対義語は?

「モラトリアム」の対義語は「一意専心」や「即断即決」などが挙げられます。

「一意専心」「即断即決」

「一意専心」は「一つのことに集中して心を向けること」。「即断即決」は「迷いなく、すぐに決定して決断すること」。「モラトリアム」を「迷っていて心があちこちをさまよう」「すぐに決められず先送りする」と捉えた場合の対義語になります。

これは「モラトリアム」の持つ「猶予・一時停止」の意味への対義語して適切なもので、微妙な意味合いや感情的な部分は表していないことには注意が必要です。

・激しい競争を経て第一志望に就職できた僕は、遊びまくっていた大学生時代からは一転、一意専心で仕事に取り組もうと決意した。

・ビジネスの世界に入ってすぐにわかったのは、どんな時でも即断即決が求められるということだ。

「モラトリアム」の英訳は?

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「モラトリアム」の英訳はそのまま「moratorium」ですが、ここでは「a childish young person who does not want to grow up」を紹介します。

「a childish young person who does not want to grow up」

これは直訳すれば「成長したくない子供っぽい人」。まさに「モラトリアム」の説明として使えるフレーズですが、本来の意味や微妙なニュアンスは表現できていないことには注意してください。

英単語「moratorium」でも意味は通じるため、「モラトリアムを英語で説明しなさい」と試験問題などで問われた場合に使うといいでしょう。英文そのままのため、例文はありません。

\次のページで「「モラトリアム」を使いこなそう」を解説!/

「モラトリアム」を使いこなそう

この記事では「モラトリアム」の意味・使い方・類語などを説明しました。「先延ばし」と言われるとどうしても悪い意味が目立ってしまいますが、本来はそのような意図はなかったことがわかったのではないでしょうか。

昔と比べれば色々な選択肢がある現代だからこそ、時には立ち止まって考える期間が出来、そのために言葉の意味も変化してきたのかもしれませんね。そんな時代の変化を感じさせる言葉でした。

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国語言葉の意味

「モラトリアム」の意味や使い方は?例文や類語を元予備校講師がわかりやすく解説!

この記事では「モラトリアム」について解説する。

端的に言えば「モラトリアム」の意味は「猶予期間」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

教師や講師としても教えることに関わってきた「やぎしち」を呼んです。一緒に「モラトリアム」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/やぎしち

雑学からビジネス文章まで手掛ける現役ライター。国語の中学・高校教諭の資格も持ち、予備校講師の経験も。言葉を大切にした文章を心掛けている。

「モラトリアム」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「モラトリアム」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「モラトリアム」の意味は?

「モラトリアム」には、次のような意味があります。

1 支払猶予。法令により、金銭債務の支払いを一定期間猶予させること。戦争・天災・恐慌などの非常事態に際して信用制度の崩壊を防ぎ、経済的混乱を避ける目的で行われる。
2 製造・使用・実施などの一時停止。多く、核実験や原子力発電所設置などにいう。
3 肉体的には成人しているが、社会的義務や責任を課せられない猶予の期間。また、そこにとどまっている心理状態。→モラトリアム人間

出典:デジタル大辞泉(小学館)「モラトリアム」

これは「猶予・一時停止期間」といった意味を持つ言葉です。引用の通り、使われる場面によってニュアンスが変化します。

引用を上から、どのような問題で使われやすいのか考えてみると「1=金融に関する歴史・社会系」、「2=原子力やエネルギーに関する時事」、「3=心理学や文学など人文系」でしょうか。どれも頻出のため、しっかり押さえてくださいね。

現代では、若者に対して3の意味で使われるのをよく耳にすると思います。特に学生を「社会に出て働く前の存在・その期間」とするのですが、「責任・義務の先延ばし」という、あまり良い感じを受けない言葉になることも。「無気力」や「ゆとり」などを連想するからかもしれませんね。

他の単語を付けて「~モラトリアム」「モラトリアム~」といった使われ方もありますが、そうした場合も否定的な意味合いで使われていないか注意してみましょう。

「モラトリアム」の語源は?

これは英語の「moratry=支払い延期の」という言葉から使われるようになった言葉と考えられています。金融や政治社会用語として使われるのが納得できるでしょう。

若者に対して使う用法は、20世紀にアメリカの精神分析医エリクソンが提唱したことが始まりと言われています。その本来の意味も「若者が自己を確立するための期間」というニュアンスで用いられており、現在のような「先延ばし・責任回避」という意味はありませんでした

なぜ現代にかけて使われ方が徐々に変わってきたのか、想像したり調べてみたりするのも勉強になるでしょう。

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